Act.9-515 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.2 scene.11
<三人称全知視点>
「ミレーユ、ちょっと見てくれ」
「…………はぇ?」
何かに気づいたアモンに促され、ミレーユもアモンが指を差した方向に視線を向けた。
「水が引いてますわね」
つい先ほどまでミレーユ達のすぐ側にあった水位が大きく下がっていた。
もう少しすれば水底を歩くこともできそうだ。
しかし、ミレーユは悔しげに頭上を仰ぐ。岩の天井から零れ落ちる光量は先ほどから確実に減ってきていた。
茜色の光が弱まり、少しずつ夜が迫っていることが窺える。
「もし、空歩という脱出手段を持ち合わせず、何も知らないわたくし達がこの状況に置かれたらこれを見て脱出ししようとするかしら?」
「その可能性は低そうだね。水が引いて脱出できるかもしれないが、満ち引きや塩辛さから考えるに繋がるのは海だ。夜の暗い海を移動するのは危険だ。断念しただろうね」
もし、圓が語った物語の世界と同じ状況に今のミレーユ達が置かれているとしたら、ここで危険を冒した脱出を選択せず、このまま洞窟を先に進んだ可能性が高い。
どちらにしろ、ミレーユ達に残された選択肢は一つだけだ。
「だが、灯りを持たずに先に進むのも危険だ。同じ状況なら先に進むとしても明かりは必要になる。だが、朝までこの場で待つのは手詰まりになりかねない。何かしらボク達の行く先を照らしていく光があればいいのだが……ひとまず、少しだけ待ってみよう。もしかしたら、何か状況が変わるかもしれない。状況の変化を見逃さないようにしよう」
それは、ほとんど根拠のない願望に等しい言葉だった。
しかし、そのアモンの言葉は一種の予言のようにミレーユとアモンに行くべき道を指し示す。
辺りが完全に夜闇に包み込まれた時、アモンが歓声を上げた。
「見給え、ここの水面!」
「まぁ、これは!?」
ミレーユも驚愕に目を見開く。
それもその筈、低くなった水面が淡く青い光を放っていたのだ。
その光量は日光や松明には遠く及ばない。しかし、周囲を照らすぐらいは十分なくらいのものだ。
寧ろ洞窟の奥深くまで光が続いているため、降り注いでいた日の光よりも広い範囲を照らしている。
――まさに、それは洞窟の水面を照らす青い光の道だ。
「先に進む決断をした以上、何かあるとは思っていたが……」
「確かに、この先に『這い寄る混沌の蛇』の邪教徒の神殿があるのなら、周囲を照らす光も必要ですわ。流石に『這い寄る混沌の蛇』の信徒も人間、周りが見えなければ動けませんし」
「それに、太陽の光と日陰に隠れ潜んで暗躍する『這い寄る混沌の蛇』はイメージ的に相性が悪いように思える。でも、この光は淡い光で陽の光よりも弱々しい。もしかしたら、この青い光の道ができることを『這い寄る混沌の蛇』が知っていて、象徴的な場所としてこの島を選んだのかもしれないな。それに、潮の満ち引きがある、海に繋がる場所というのは海からのアクセスもいい」
「『這い寄る混沌の蛇』にとっては素晴らしいくらい良い立地だったということですわね」
「いずれにしても、この好機を逃す訳にもいかない。先に進もう。ここで立ち止まっていても体力を消費するだけだ」
「えぇ、覚悟を決めて先に進みますわ!」
遭難した時には動かずに体力を温存するのが定石だ。
しかし、既に物語の中のミレーユ達がこの先に進んだということをミレーユ達は知っている。この先に進むのが正しい選択だと知っている今、わざわざここに留まる理由はない。助けが来る可能性も低いのだから。
アモンの手を取ったミレーユはアモンに手を引かれて、青い光の道を行く。
ミレーユ達がいた場所には無数の穴が開いていた。これでは、仮に光で道が示されたとしても選択肢が多過ぎて進むべき道が定められそうにない。
しかし、光がどこから生じてどこへと消えていくかと考えると答えは自ずと出る。
光の道が進んでいく、出ていく方向は三箇所、そのうち二つは水深が深くなっていた。
気温が下がる夜に水泳は自殺行為。わざわざその道を選択する可能性は低いだろう。
自分達の身の危険と、物語の中の自分達が取ったであろう選択を勘案し、ミレーユとアモンは水深が浅くなっていく方を目指した。
「この辺りは少し地面がゴツゴツとしている。気を付け給え。ほら、しっかり手を握っているんだ」
ミレーユの方を度々振り返っては、声を掛けて気遣うアモンの紳士ぶりに、ミレーユは思わず笑みを浮かべた。
「ふふ、本当にアモンは紳士ですわね」
アモンはミレーユが転ばないように気を配り、きちんとミレーユの速度に合わせて歩いている。
今は非常事態、本来であればアモンの内心も平静ではないだろう。
アモンだって本当は心細い筈だ。しかし、アモンはミレーユを常に気遣い、リードする余裕を見せている。
決して誰にでもできることではないだろう。普段ならともかく人間の鍍金が剥がれ易い非常事態なら殊更。
「姉様に言われているからね。どんな状況であっても、女の子には優しくするように、と」
「はて? お姉様……というと……」
前の時間軸においては、ミレーユにはプレゲトーン王家の記憶はほとんどない。
精々アモンの存在を知っているぐらいだった。何せリオンナハトが声を掛けてくるのをひたすらに待ち続けていたのだから、自分に何の関わりもない小国のプレゲトーン王国になど関心を持たなかったのである。
しかし、今のミレーユは違う。アモンを婚儀を結ぶ相手として標的に定めたからである。
恋愛戦略家のミレーユは下調べも入念に行うのがポリシーなのだ。
「クラリシス王女殿下、だったかしら?」
アモンより三つ年上だった筈である。
ミレーユが持っている情報だと、慎ましく内向的な人ということだった。
そのため、どうにもアモンの語る人物とは食い違う。ミレーユが疑問を持ったのは決してアモンの家族、プレゲトーン王国の王族の詳細を把握していなかったからではない。
「いや、これをボクに言ったのは、一番上の姉でね」
「一番上のお姉様? まぁ、そのような方が……」
ミレーユの情報網に、第一王女と呼ぶべきその人物に関する情報は入っていなかった。
ほんの少し不思議そうな顔をしているミレーユに、アモンは少しだけ寂しそうな表情を浮かべつつ続ける。
「知らなくても無理ないよ。亡くなったんだ、五年前にね。ボクは、大好きだったんだ。姉様のこと。優しくて、だけどそれ以上に強くて、格好良い人だった。その人が言ったんだ。プレゲトーン王国の皆の考えはおかしいんだって。だからボクだけは、女の子に優しくして欲しいって……」
男尊女卑の傾向の強いプレゲトーン王国。そんな王国に生まれ、国の価値観に疑問を抱き、アモンに一つの道を示した女性がいた。
「恥ずかしながらボク自身も忘れていた。何故、女性に優しくするのか。ちょっとした気紛れでそうするようになったんだと思っていたけど、違ったんだ。ずっと、姉様の与えてくれた指針を胸に生きてきたんだ……ボクは」
(アモンにそんな大きな影響を与えた人がいたんですのね……。会ってみたかったですわ)
なんとなくそんなことを思いつつ、ミレーユはアモンに尋ねる。
「その方のお名前は……なんというんですの?」
「ヴァレンティナ・プレゲトーン。プレゲトーン王国の第一王女だった人だ」
「そう、ヴァレンティナさん……」
アモンの話ではヴァレンティナは既に死者。例え願っても会うことはないだろう。
だから、この時のミレーユは「もし、アモンと結婚した時には墓前に二人でご挨拶に行きたいですわ」とか、そのようなことをぼんやりと考えていた。
ミレーユとアモンは知らない。
彼女が『這い寄る混沌の蛇』の手に堕ち、蛇の姫巫女となっていることを。
そして、遠くない未来にセントピュセル学院の周辺で巻き起こる多種族同盟陣営と『這い寄る混沌の蛇』が衝突する巨大な戦、その抗えない大渦に彼女もまた否応なしに巻き込まれてしまうことも。
遠くないその未来を識るのは、『這い寄る混沌の蛇』の作戦立案者、『冥黎域の十三使徒』ロベリア=カーディナリスただ一人のみ。
◆
――時は少し遡る。泉の方へと向かったリオンナハトとフィレンは想定外の状況に陥っていた。
怯えるフィレンを庇うように立ったリオンナハトは周囲を取り囲む黒い装束(忍者のような衣装ではなくメイド服から純白のエプロンを取り去った真っ黒なワンピースドレスで、顔も頭巾などで隠さずに素顔を晒している)の女性達と対峙する。
しかし、庇うような姿勢は取るものの臨戦体制は取らなかった。相手がリオンナハト程度の力では天地がひっくり返っても勝利できない強敵であることをリオンナハトも理解していたからである。
「お迎えに上がりました、リオンナハト殿下、フィレン様。私はテレンティアと申します。以後お見知り置きを」
見ず知らずの相手から一介のメイドである筈のフィレンの名が呼ばれたことに、フィレンは驚き更に怯える。
リオンナハトのような有名人はともかく、自分のようなメイドの名は全く知られていない筈だ。
その名を知っているということは、相手は全てを把握しているということである。
「あまりフィレン嬢を怯えさせないでもらえないかな?」
「申し訳ございませんでした。そのつもりは無かったのですが……」
「しかし、君達多種族同盟の闇が姿を見せるなんて珍しいこともあるものだな。……お迎えに上がったということは、タイムアップと判断されたということかな?」
「えぇ、その認識でよろしいかと。勿論、まだ探索をお続けになりたいのでしたら止めませんわ。エメラルダ様がいる場所もお教えしましょう」
「――ッ!? お嬢様の居場所を知っているのですか!?」
「はい、勿論。エメラルダ様は洞窟の先にいらっしゃいます。ああ、我々が拉致したとか、そういう訳ではありません。彼女は洞窟の先に一人で赴き、その先で坂を転がり落ちて戻れなくなりました。脱出方法はありますのでご安心を」
「良かっ、た……」
「本当にエメラルダ様は恵まれていますね。彼女を心配する良きメイドがそばに居て。……それと、先ほど連絡が入りました。カラック様ですが、島に来ていた二名と共に諜報員が確保して潜水艇を使って地底湖から侵入して、臨時班の面々と合流したようです」
「……本当に何が起きているんだ? 詳しい説明をしてもらいたいところだが、この場所で時間を取られるのはそちらも不本意なのだろう? そちらの希望は一体何だ?」
「我らが主君、圓様は速やかに臨時班の面々と合流することを希望しておられます。ミレーユ姫殿下、アモン殿下、ライネ様、エメラルダ様の四名に関してはまだやるべきことが残っておりますので。……お二人が望むのでしたら、その場に立ち会っても良いでしょう。勿論、圓様の許可が必要となりますが」
「なるほど……そちらにはそちらのプランがあるということだな。残念ながら詳細は分からないが、俺達の成長を願う君達だから良き結果に繋がるだろう。分かった、君達の求めに応じて臨時班と合流しよう」
「ご協力感謝致しますわ」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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