Act.9-514 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.2 scene.10
<三人称全知視点>
音を立てて無数の岩が落下する。
その中に、明らかに異質な存在が二つ紛れていた。
ミレーユを守るように抱き抱えるアモンと、そんなアモンの温もりに包まれてうっとりしつつ「やっぱり、わたくしこのまま死んでしまうのではないかしら? 幸せ過ぎて……」などとど阿呆なことを考えるミレーユの二人である。
しかし、その夢見心地な時間も空中を落下するほんの僅かな間だけ、危機感がなくほわほわとしていたミレーユは唐突に冷や水をぶっ掛けられる……比喩ではなく文字通り。
アモンとミレーユは頭から水面に突っ込んで一気に現実に引き戻された。
もっと高所から落ちていれば、水がコンクリートのような硬さになって二人ともバシャリとその身体がひしゃげていたが、幸いそれほど高所からの落下ではなかったため、水が二人に掛かる衝撃を弱める働きをしてくれた。
まあ、だが、水面への落下は必ずしもミレーユにとって良い結果ばかりを与えてくれたわけではないようで、がぼぼぼっ、がぼっ……っと口の中に突然水が入ってきたミレーユは大いに慌てふためく。
バタバタと暴れそうになったミレーユだが、ぎゅっとアモンの腕に力が入るのを感じて力を抜いた。
――アモンに任せていれば、大丈夫ですわ、
アモンに対する絶対の信頼と、甘酸っぱい恋心が混合した非常に甘ったるい物質のような感情が分泌され、ミレーユの身体から力が抜ける。新種のホルモンなのだろうか?
ややあって……。
「ぷはーッ!」
顔の周りから水が無くなったのを察してミレーユユは思いっきり息を吸い込んだ。
「こっ、ここは一体? いっ、痛っ!? 目が! 目が沁みますわ! それに口の中が、塩辛い。これは……海水?」
片手で目を擦りつつ、アモンの顔を見上げる。
アモンは厳しい顔で、頭上を見上げていた。つられてミレーユも視線を上げると、そこには、かなり高い位置に岩の天井と大きな穴、そこから降り注ぐ光が見えた。
「あっ、あんなところから落ちたんですのね……。水が溜まってなかったら危なかったですわね」
「ああ、ありがたいな。しかし、このまま水に浸かっているのは流石に危険だ。体が冷えてしまう。水から上がれる場所に急ごう。ミレーユ、泳げるかい?」
「ふふん、当然ですわ! 練習の成果、きっちり見せて差し上げますわ」
アモンが指さした周囲より少し高い、丁度岸辺のようになっているところを目指し、ミレーユとアモンは泳ぎ始める。
アモンはクロールのような泳ぎ方、一方ミレーユはというと、くるりと回転して仰向けに水に浮き、背泳ぎ状態のバタ足で泳ぎ始めた。
クロール、平泳ぎ、バタフライ……カレンから様々な泳ぎ方を教えてもらったが、習得できたのは蹴伸びくらい。真っ当な水泳技術は一日では習得できなかった。
結局、最後にカレンはミレーユに最も相性がよく、正史でも習得していた背浮の術、背泳ぎであった。
まあ、ミレーユ達は水着ではなく服を着ており、慣れない着衣水泳は想像以上の体力消耗を引き起こす。そもそも、素人では上手く泳ぐこともできないだろう。
結果として、習得したばかりで未熟なクロールなどの泳法をミレーユが選択肢に入れられるような状況にならなかったのは不幸中の幸いかもしれない。
息継ぎが必要なく顔を水につけなくてもいい。溺れた時には脱力して浮いていればいいという、カレンから聞いた時には目から鱗の究極の泳ぎ方であった。
何故、真っ先にこの泳ぎ方を教えてくれなかったのかとミレーユ自身疑問に思ったほどである革新的アイディアだ。特に、大した努力をせずに息継ぎができる、という点が素晴らしい。
「あっ、ぶつかりそうでしたらちゃんと教えてくださいませね」
難点は前が見えないことだが、その点は泳げる仲間がいれば解決できる。今のミレーユに怖いものはない。
「ああ、分かった。それじゃあ、とりあえずあそこまで行こう」
そう言って、ミレーユとアモンは陸を目指して泳ぎ始めた。
◆
水から上がったミレーユは安堵の息を吐いた。
「痛むところはないかい?」
「ええ、アモンのおかげですわ。アモンは?」
「ボクも問題ない。下が水面だったから助かったな」
お互いに互いを気遣う言葉を掛けてから、ミレーユとアモンは改めて岩壁を見上げた。
高さにして、三階建ての建物ほどか? 天井には穴が空いていて、光が差し込んでいる。
一応、地上までは通じているのだろうが……。
「ふむ、登るのは……無理ですわね」
岩壁は表面が湿気の影響かツルツルしていて、いかにも滑りやすそうだった。
掴んで登っていくことなど普通の人間には無理そうだ。
――まあ、ディオンさんとか、圓様とか、ラインヴェルド陛下とオルパタータダ陛下とかは余裕で登って行けそうですけど。あれは例外というものですわね。
脳裏にフィジカルの化け物達というか、人外の領域にどっぷりと浸かっている面々の顔を思い浮かべるミレーユ。本人達に聞かれたら、「一緒にするなよ」と色々な思いを込めて言われそうな感想である。
少なくとも自分には無理だとミレーユは判断した。
「アモン、ごめんなさい。貴方のこと巻き込んでしまいましたわ」
珍しく控えめな態度でしょんぼりと肩を落とすミレーユ。しかし、そんなミレーユにアモンは首を振って見せた。
「いや、寧ろボクはこの場所にいることができて、良かったと思っている。大切な人が危険な時に、側にいて守ることができない。それはとても口惜しいことだから」
「まぁ……」
ミレーユは口に手を当てて、アモンを見つめる。
すると、アモンはほんの少しだけ気まずそうに、顔を背けた。その頬は案の定赤く染まっている。
――ふふっ、恥ずかしいならば言わなければよろしいのに。
ミレーユも、ほんの少し顔を赤くしているものの、流石にそこは精神年齢二十歳過ぎのお姉さんである。
先ほどは不意打ちで赤くなったものの、既に余裕を取り戻している。
そう、ミレーユはすでにアモンの性格を熟知しているのだ。
彼が誠実で真っ直ぐな人間で、だから思ったことを正直に口に出すことがあることを、ミレーユは既に知っている。
それ故に、僅かではあるが心の準備をすることができたのだ。
これこそ、自称大人のお姉さんの余裕なのである!
とはいうものの、さすがに少しは照れ臭い。このまま黙ってしまうのはほんの少し気まずくもある。
そこで、ミレーユは話題を変えるべく口を開く。
「それにしても、これではどうすることもできませんわね。助けが来るのを待つか、状況が変化するのを待つか……。いずれにせよ、今は迂闊には動けま……クチュンっ!」
言い終わらないうちにミレーユは嚔をした。その直後、ぶるりと体が震える。
どうやら予想よりも体が冷えていたらしい。肌にはいつの間にか鳥肌が立っていた。
「大丈夫かい? ミレーユ」
「え、ええ。問題ございませんわ。ただ、体が濡れたので、少しだけ寒いだけですから」
「そうか。体が冷えると体力を奪われるからな……」
彼は、何かを躊躇うように黙っていたが……。
「すまない。ミレーユ」
「へ? なんのことで……ぁぇっ?」
意を決したアモンの言葉に続いた行動でミレーユの声が途切れる。
――混乱のあまり声が出なかったのだ。
突然、アモンが自分のことを抱きしめてきたから……。
――へぇ? はっ? はぇ? あ? え? お?
大人のお姉さんの余裕など一種やにして粉々に吹き飛んだ!
混乱にぐわんぐわんと目を回しかけるミレーユの耳に、アモンが優しい声音で語り掛ける。
「すまない。礼を失することだとは心得ているが……今はこうして互いの体温で温め合う必要があるんだ」
断固とした声。それと同時に、抱きしめる腕にグッと力が入る。
――ああ、これは、そういうことですわよね? わたくしに拒絶されてでも、それをする必要があるから、というアモンの判断で、だから、わたくしを逃がさないようにって力を入れてるのであって……。
ほんの少し現実逃避気味に分析をし始めてしまうミレーユである。
だが、たった一撃でミレーユの自称大人のお姉さんの牙城を崩されたミレーユの精神的防御など最早紙装甲以下である。
心地よい少年の温もり。少しだけ不器用で、力が入り過ぎて、ちょっとだけ痛い抱擁。
静寂の中、微かに聞こえるアベルの息遣いと自分自身の息遣い。
ミレーユの精神は限界に近づいていた。否、限界などとうの昔に突破していたのだ。
荒い呼気が、相手の耳元に掛かってしまわないように、ミレーユは必死で息を鎮めようと我慢する。
ドクンドクン、と高まる心臓の音を聞きながら、ミレーユは熱っぽい頭で考える。
――わっ、わたくし、やっぱり死んでしまったのではないかしら!? ここは、きっと噂に聞く天国でッ!! そうじゃないと説明がつきませんわッ! 幸せすぎてッ!!
断頭台から始まったミレーユの人生は今まさにクライマックスを迎えていた!
……まぁ、ミレーユの中だけの話なのだが。
アモンとイチャイチャしたことで、ミレーユは心も身体もすっかりポカポカになっていた。
つい先ほどまで寒さで震えていたことなど完全に忘れ、頬は微かに紅潮している。
――アモンと二人きりならここで暮らすのも良いのではないかしら。そう、アモンの側がわたくしの楽園であり宮殿なのですわ!
などとしょーもないことを考えているとアモンが徐に口を開いた。
「さっきの話だが……ここから脱出することは多分できると思う」
「はぇ? ……アモン、それはどういうことですの?」
予想外の言葉にミレーユはほんの僅かに首を傾げ……何か思い当たった。
その様子を見ていたアモンは小さく首を縦に振る。
「ソフィス嬢から教えてもらった八技の一つ、空歩。壁を登るのは無理そうだけど、これなら空中を走れる。ミレーユのことを抱えて空中を走れば、あまり広くないから時間は掛かるけど脱出はできると思う。……ただ、脱出はあまり得策ではないかもしれないね」
アモンにお姫様抱っこしてもらって空中を走るとはなかなか絵になる構図だ。
それはそれで素晴らしい気持ちが味わえそう……とすっかり恋愛脳になっていたミレーユだったが、アモンの言葉で一気に現実に引き戻される。
「……やはり、この先に進むしかないのですわね」
「この状況で脱出する方法はほとんどない。脱出方法を探してこの場所から更に奥に進んだ可能性は高いと思うんだ。恐らく、物語のボク達も洞窟の奥に進んだ可能性は高いと思う。ただ、このまま闇雲に洞窟の奥を探索するのも危険だと思う。……何か見逃しているものがあるのかも……ん? ミレーユ、ちょっと見てくれ」
「…………はぇ?」
何かに気づいたアモンに促され、ミレーユもアモンが指を差した方向に視線を向けた。
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