Act.9-513 ペドレリーア大陸・ラスパーツィ大陸臨時班派遣再始動〜到着! 呪われし無人島〜Vol.2 scene.9
<三人称全知視点>
ヴァルナー、ネーラ、カラックが乗り込み、ミルィシアが運転する潜水艇は海岸を出発し、少しずつ海の中へと潜っていく。
海の中の魚を同じ目線で見られるという海を潜って目を開かなければ見られない光景にカラックは思わず感嘆の声を漏らした。
「……それで、目星はついているの?」
「えぇ、入り口がこの辺りにあるという想定はついています。後はその場所に実際に向かってみるだけですね。この辺りの海流は安定しているので、安全に目的地に到着できると思います」
ミルィシアの見立て通り、ミルィシアが運転する潜水艇はトラブルに見舞われることなく目的地に到着した。
海底に空いた穴の中に潜水艇が突入して進むと、穴は上へ上へと続いていく。地形に合わせて小型の潜水艇を運転していると、やがて大きな湖のような場所へと出た。
ゆっくりと着岸して潜水艇からヴァルナー達が出ると、前方から複数の人影がやってくる。
「やあ、先日ぶりだねぇ、カラックさん。それと、ヴァルナーさんとネーラさんもお久しぶりだねぇ。任務お疲れ様」
人影の正体は青薔薇のローザの姿の圓とソフィスだった。その後ろにはラインヴェルド、オルパタータダ、レジーナ、ユリアと錚々たるメンバーが揃っている。
「ミルィシアさんも運転お疲れ様」
「勿体ないお言葉ですわ」
「……圓様、ここは一体?」
「ここは、スクライブギルドの一つ地下都市ケイオスメガロポリスの中だよ。無数の無人島の地下に張り巡らされた『這い寄る混沌の蛇』の巨大な都市の一角……ここを見つけたのもごく最近でねぇ、ヴァルナーさん達が追っていた『水神教団』とやらの残党はここから侵入した可能性が高い」
「それで、連中がどこへ向かったのか見当はついているのか?」
「恐らく、ボク達が目指している場所と同じ場所だろうねぇ。ってことでまずはここから移動しようか? 他の臨時班のメンバーと合流しないといけないからねぇ」
「……ちなみに、誰が来ているの?」
「ここにいないメンバーだとスティーリア、アクア、ディラン、カレンさん、エイミーンさん、マグノーリエさん、プリムヴェールさん、ミーフィリアさん、レミュアさん、雪菜さん、黒華さん、桃花さん、篝火さん、美結さん、小筆さん、レナードさん、ミリアムさん、アルベルトさん……後は何故かペドレリーア大陸に来ていたアルティナさん。結構戦力が揃っているよ。ただ、あんまり目的地は広くないからねぇ……メンバーの厳選はするつもりだよ。ヴァルナーさんとネーラさんの気持ちも分かるけど、他にも参加したい人が多いから、公平にメンバーの選定はさせてもらうよ」
「まあ、当然だな! だったらメンバーに選ばれるだけのことだ! 割と運が良い方だからな! きっと大丈夫だぜ!」
「……ヴァルナーの運が良いかどうかは微妙だと思う」
「そうか? 帝都に到着して迷っていた時もネーラに会えたし、運はいいと思うけどな」
ヴァルナーの言葉にほんの少し顔を赤く染めるネーラ。そんな二人のことを微笑ましそうに見ていた圓だったが、流石にそのまま甘酸っぱい恋の余韻に浸っている訳にはいかないからかごほんと咳払いをした。
「ということで、カラックさんも同行をお願いするよ。大丈夫、リオンナハト殿下とフィレンさんの方にも諜報員を向かわせたから直に合流できるよ」
「……ミレーユ姫やアモン王子、ライネさんのことはどうするおつもりですか?」
「さぁねぇ? ボクの口からは言えないなぁ」
悪戯っ子のような笑みを浮かべるローザになんとも言えない顔になるカラックだった。
◆
洞窟の奥まで行くには灯りが必要である。ライネは浜辺に出て狼煙のところまで行き、鍋を火に掛けるために集めた太い木の枝の余りを使わせてもらうことにした。
三、四本の枝を束ね、その先端に枯葉や、樹脂の多そうな細い枝を押し込み、森の中で見つけた太めの蔦で纏める。
そのようにして出来上がったのは即席の松明だ。
「これに火をつければ……」
最低限灯りになるものがあればなんとかなるだろう……そう心のどこかで楽観視していたライネだったが、すぐにそれが甘い考えだと悟ることになる。
いざ洞窟の奥に入ってみると、その明かりは想像以上に心細かった。松明の炎は洞窟の闇を全て照らし出してくれる訳ではないのだ。
それでも、ライネは歩き出した。
「ミレーユ様のお友達を探すためだもの……」
――そう自分を励まして。
洞窟の中は複雑な構造をしていた。幾度も曲がりくねり、時に上り、時に下り……辛うじてここまで一本道であった点だけが幸いだった。
広さも一定ではなくライネが屈まなければ進めないところから、ジャンプしても天井に辿り着かないところまで実に様々である。
進む先の道は次第に狭くなっていて、先が見通せなくなっていた。松明の灯りもその先までは届かず、ただ闇の世界が広がっている。
辛うじて分かるのは、この先が下り坂になっているということだけだ。その先は相変わらず暗闇に染まっている。光が届かないということはかなりの場所まで坂は続いているのだろう。
「降りたら流石に登ってこれなさそうだよね……」
これ以上の探索は厳しいと判断して戻ろうとした矢先、視界の外れに映ったものにライネは違和感を覚えた。
それは、不自然に中程で折れた鍾乳石だった。坂の直前、丁度手を伸ばせば届くような位置にある鍾乳石だけが、周りに似たような岩があるにも拘わらず、たった一本だけ折れている。とても自然に起きたとは考えにくい。
「ここ、丁度掴まるのにいい位置だよね。……掴まって、それで下を覗いて……大変! もし、ここから落ちたんだとしたら早くみんなに知らせないと!」
そう思い戻ろうとしたまさにその時だった。
突如としてガラガラという石が崩れ落ちる音が聞こえたのである。
「きゃあ!」と悲鳴を上げつつ、ライネはその場に蹲り、両腕で頭を守るようにして身を守った。
謎の岩音から数分後、顔を上げたライネは口元を袖口で覆いつつ松明を目の前に掲げる。
すると、先ほどまで自分が歩いてきた道が石の壁に塞がれていた。
「そんな……」
ライネの胸中に脳裏にいくつもの思いが駆け巡る。
このまま戻っていれば岩崩れに巻き込まれて死んでいたかもしれないという恐怖と、助かったことへの僅かばかりの安堵。
この洞窟から一生出られないかもしれない、このまま死んでしまうかもしれない、家族ともう二度と会えないかもしれないという恐怖。
そして、何より「ミレーユ様にもうお仕えできなくなるかもしれない。受けた恩を一つも返してないのに」という後悔がライネの心を蝕んだ。
目元が熱くなり、視界がぐにゃりと歪み、恐怖に苛まれる。
「……ミレーユ様」
ライネは小さく縋るように、助けを求めるように、自らの主の名を呼ぶ。助けは来ない……しかし、その名を呼ぶとほんの少しだけ勇気が出た気がした。
「ミレーユ様」
もう一度震える声で、そう呟いたライネは大きく息を吸って吐き、自分を奮い立たせた。
「落ち着かなきゃ。私は、ミレーユ様の専属メイドなんだから」
ミレーユはライネこそ自分の腹心であると言ってくれた。そのミレーユの期待を裏切る訳にはいかない。
こんなところで膝を屈して、泣き崩れてしまうような者が果たしてミレーユの右腕に、『帝国の深遠なる叡智姫』の腹心に相応しいだろうか? いや、否である!!
泣いて諦めるにはまだ早い。それをするのはこの命が尽きる時でいい。
「退路は絶たれた……なら、やることは一つだけ! 進むしかない! ……ミレーユ様、必ず、また……」
小さく呟き、ライネは覚悟を決めて下り坂を滑り降りた。
ライネは知らない。その岩崩の原因を作ったのは、尊敬する自らの主であるということを。
◆
かつて、『這い寄る混沌の蛇』の狂信者達が洗脳して半ば奴隷と化した者達を惜しみなく労働力として使い潰して生み出した地底都市よりも更に深部、邪教徒の神殿の地下の更に地下にある本物の邪教徒の神殿。
かつて、偶然にもこの地を訪れた海賊の男タイダーラ・ティ=ア=マットは完全に蛇神Aponyathorlapetepと同化してその自我を奪われた。
その男も死んだ今、この地の存在を知る者はほとんどいない……その筈だが。
「『這い寄る混沌の蛇』の神殿へようこそ、『水神教団』の姫巫女のアクアリア=スキュタス様」
毒々しいほどの真紅の修道服にも似た衣装を纏い、フードと一体となった真紅のベールで顔を隠した美しい声を持つ女性の言葉に、己を喰らって円環を成す蛇の魔術的な刺青の入った背中を惜しげもなく曝け出す煽情的な青のドレスを纏った群青色から水色にグラデーションしていく美しい青髪と金色の瞳を持つ女性は恭しくカーテシーで応じた。
「ああ、尼谷流龗神様よ! 化身の姿で私如きの前に顕現して頂けるなんて、感無量ですわ!!」
まるで神の奇跡を目撃した敬虔な信徒のようにアクアリアは涙を流す。その光景を、赤の女帝の側にいた男は一瞥だけ与えるとつまらなさそうに上を見上げた。
「貴方にも期待していますわ、アレクシウス。……わざわざ冥府より甦らせてあげたのです。せいぜい役に立ってくださいね」
「……『蛇』、何を勘違いしているか知らないが、私にとって大切なことは人の秩序の全てを破壊すること。邪神の復活などに興味はない。豊かな大地を汚し、初志を忘れた愚か者共を叩き直す、ただそれだけだ」
馬に指示を出して自分の元へとやって来させ、矢筒を背負って弓を右手に持った男は馬に跨る。
その姿は、宛ら狩猟民族の精悍な長だ。
「えぇ、それでは始めましょう! ミレーユ姫殿下御一行に、そして百合薗圓に絶望を」
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それでは、改めまして。カオスファンタジーシリーズ第二弾を今後ともよろしくお願い致します。
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