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第十八話 課外授業、楽しそうだよ?

「図書館見学?」


「そう、七年生はこれからの進路を見定めるためにもいろんなところへ課外授業に行くんだけど、今回はその第一回目。王城にある日本の本を集めた図書館に見学に行くんだ。王城の研究員から研究についてのお話をしてもらったりもする」


 私はニグリスと教員室に戻りながら簡単な説明を受けた。


「その引率に日本語の教員の俺と佳菜が選ばれたんだ!」


 ニグリスはニコニコと嬉しそうにしている。


「王城の図書館なんて俺だってなかなか入れないんだ。楽しみだなぁ」


 ニグリスが日本の図書館に来たら卒倒するほど喜ぶんじゃないだろうか、と容易に想像がついた。


「七年生は全員参加?」


「うん!一クラスしかないから引率はそこまで大変じゃないと思うよ!」


 七年生といえばリプロートの学年だ。リプロートだって王城の図書館に興味を持っているはず。しかし、彼女は保健室登校。課外授業に参加してくれるのだろうか。


 教員室に戻って去年の課外授業を引率した先生から引き継ぎを受けた。私達はただ生徒を王城へ連れて行けばあとは研究員が説明してくれるからあまりすることはなさそうだった。


「休みの日に申し訳ないんだけど、日曜日に二人で王城に行って研究員と打ち合わせをしてきてほしいの」


「わかりました」


 ニグリスは頷いた。日曜日に二人で王城へ……。休みの日に二人で出かけるなんて前回王城へ行った時以来だ。それに今は私はニグリスへの想いを自覚してしまっている。途端にドキドキしてきた。嫌だな、デートじゃなくて仕事なんだからさ、仕事。


 でも、何着て行こうかな。せっかくだからかわいい格好したほうがいいよね。初日にナターシャがくれた女の子らしい洋服を着たらニグリスは「かわいい」って言ってくれたんだよね。そういう服をたまには着たほうがいいのかな……


 そこから先の私の頭の中は日曜日のことでいっぱいになってしまった。公私混同はダメ。そう思ってもドキドキとワクワクが入り混じって上手くコントロールできない。私、いつの間にこんな風になっちゃったんだろう。


----------------------


 翌日、私はいつもの様に保健室を訪れた。そこでいつもと変わらず教科書を広げているリプロートに話しかけた。


「ねぇ、リプロートは課外授業行く?」


 強制イベントなはずなのに先生がこんなことを聞くのは筋違いかもしれない。しかし、何かアクションを起こさないと来ないんじゃないだろうか、という気がしてならなかったからだ。


「……行かない」


 予想通りの言葉が返ってきた。行かない、という選択を取ることは可能なんだろうか。


「王城の図書館だよ?」


 リプロートは何も言わずに私を睨んだ。確かに、リプロートがなりたくてもどうしてもなれない夢の職場に行くということは辛いことだろう。しかも、会いたくないクラスメイトが一緒なのだから余計だ。


「私は引率で行くよ」


「へぇ」


 リプロートは興味なさそうに呟いてまた教科書へ目を落とした。どうしよう。このまま連れて行かなくてもいいのだろうか。わざわざ辛い思いをさせることもないんだろうか。


 私はしばらくリプロートの顔を見ながらじっと考えた。逃げ続ける人生でいいのだろうか。自分の目で見て自分の気持ちに踏ん切りをつけないとリプロートはずっとこのままじゃないんだろうか。


「行こうよ」


「まだその話?行かないって言ってるじゃん」


 リプロートは苛立った声を出した。


「進路について悩んでるんでしょ?なるべく多くのものを見て判断した方がいいよ」


「王城に行ったって私は研究員になれないんだから意味ない!」


 リプロートは声を荒げた。


「意味ないことないよ」


「やめてよ!うざい!」


 キッと睨みつけてくるリプロートを私はしっかりと見つめなおした。


「じゃあいつまでもここで逃げ続けてるつもり?」


 リプロートは少し目を見開いた。


「立ち向かっていくのか、別の道を進むのか、判断するためにはただ逃げてるだけじゃダメだよ。夢の場所がどんな場所なのか見ることができるいい機会なんだから」


「行かない!絶対行かないから!」


 リプロートはそう言うと走って保健室を飛び出した。


「リプロート!」


 私は腰を浮かせて追いかけようか悩んでもう一度椅子に座った。一人になりたい時もあるよね。


 傍で成り行きを見守っていたナターシャが私と目を合わせると困ったように笑った。


「言い過ぎたかな」


 私は部下達から「いつも怒鳴ってヒステリック」って言われたんだっけ。


「そんなことないわよ。私はつい甘やかしちゃうから、あぁ言ってくれて助かったわ。リプロートも佳菜がいじわるでそう言ったんじゃないってわかってるわよ」


「そうかな……」


 ナターシャの優しい笑顔に私は少し救われた。


「行く気になってくれるかな」


「どうかしらね……」


 リプロートは頑固だ。そう簡単に折れてくれるとは思えない。


「しばらく説得続けてみる」


「うん、私も機会があればそれとなく言ってみるわ」


 課外授業まであと一週間。リプロートを説得することはできるのだろうか。

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