第十九話 女の子らしいことをしてみる
次の日もその次の日も私は保健室に通ったが、リプロートは私と目も合わせてくれなかった。毎日されていた日本語の質問もなくなった。とりあえず、どうにかして関係改善を図りたいところだが糸口もつかめないまま週末に突入してしまった。
土曜日。明日は日曜日、ニグリスと王城へ行く日だ。私は本を開くも集中できず、そわそわとした日中を過ごしていた。
結局、明日着ていく洋服も決めていない。せっかく暇なんだから街に買いにでも行くか。
明日のためだけにいつもと違う服を買いに行くなんて、今まででは考えられないことだった。こんなに誰かと二人で出かけることをそわそわして待ったこともない。
出かけようと支度をはじめてハッと気がついて手を止めた。そういえば街のどこに行けば洋服が買えるかわからない。ぶらぶら歩いて探してもいいけれど、街は結構広そうだし……。
そういえば前にナターシャが洋服を買ってきてくれたんだったっけ。ナターシャに聞けば教えてくれるかも。
私は出かける準備を済ませてナターシャの部屋に向かった。
ナターシャは部屋にいた。休みの日だというのにきちんとした格好をしている。休みの日は一日部屋着で過ごす私とは大違いだ。
「どうしたの?」
「ちょっと洋服を買いに行きたいんだけど、前にナターシャがよく行くお店を教えてくれない?」
「洋服を?」
ナターシャはふふふ、と笑って、
「じゃあ案内がてら私も一緒に行こうかしら」
と、言ってくれた。
私達は連れ立って学校を出た。女の子と二人で買い物に行く、なんて何年ぶりのことだろう。
「どのお店に行こうかしら。かわいい洋服の方がいいわよね」
ナターシャはくすっと笑った。もしかしたら、明日の洋服を買いに行くってバレてるのかもしれない。恥ずかしい……
ナターシャが案内してくれたのはナターシャがよく着ているようなふんわりした洋服がたくさん置いてあるお店だった。ナターシャにもらった洋服だって一度着た以来着ていないのに、こんな洋服着てもいいんだろうか。
私の不安をよそに、ナターシャは私の洋服を選び出す。
「やっぱりスカートがいいと思うの」
洋服を取っては私に当てていく。
「スカートなんて……私には似合わないよ」
「何言ってるのよ。佳菜は自分が思っているよりもとってもかわいいんだから」
ナターシャは赤いワンピースを手にした。
「これなんてどうかしら!?」
私にワンピースを当てる。
「赤!?ちょっと派手すぎるよ」
首元に白い襟がついていてスカートもふんわりしすぎていないので確かにかわいい。でも、私にはこんなの似合わないよ。
「そんなことないわよ。私、佳菜には赤が似合うんじゃないかってずっと思ってたのよ」
ナターシャは私とワンピースを交互に見てうんうん、と頷いた。
「佳菜は黒髪だから少し色味が強い洋服でもかわいく着こなせて羨ましい。私はこんな髪の毛で背も低いから着れる服が限られちゃうもの」
ナターシャは少し頬を膨らませた。こんなにかわいいナターシャでも悩みはあるんだな。
「これ、絶対いいわよ!ちょっと着てみて」
「え?着るの?」
「今だったらニグリスも見てないからいいじゃない。さ、早く」
私はナターシャに試着室に押し込まれた。今ニグリスの名前出てきたよね……そんなにわかりやすいのだろうか。
私は仕方なくワンピースを試着した。恥ずかしいのでろくに鏡も見ずに試着室のカーテンを開けた。
「わ~!やっぱり!すごく似合う!」
ナターシャは赤い瞳を輝かせた。
「絶対これがいいわよ!」
「え~!?」
「佳菜もちゃんと見てみて?」
ナターシャに促されて私は鏡を見た。確かに前に着た白いワンピースよりは自然な感じかも?丈も膝までは一応隠れているし。
「ね?いいでしょ?」
ナターシャは満足気に頷いた。
「これならニグリスも喜ぶわ」
「なっ…だからなんでニグリスの名前が……」
鏡の中の私の顔はみるみるうちに赤くなっていく。ニグリスはこういう格好好きかな。少しは私の事を女性として見てくれるだろうか。
「さ、じゃあ脱いで大丈夫よ。その間に私は小物を探しておくから!」
ナターシャはそう宣言するとさっさと商品の方へ行ってしまった。ナターシャって洋服のことになると強引だし活き活きとしてるな……
結局、私はそのお店で赤いワンピースと白いバック、白い靴を買った。もうどうにでもなれ、だ。
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翌朝、私は昨日買ったばかりの洋服に袖を通して部屋を出た。ドキドキしてあまり眠れなかった。
ニグリスはもういるかな。少し早めに出てきちゃった。この格好を見たら何て言うだろうか。胸がこれでもか、というほどドキドキしている。
階段を降りるといつもの階段の下でニグリスは既に待っていた。ニグリスは青いストライプのシャツに黒いズボンを履いている。立っているだけで絵になる。私はこの人と一緒に歩いて釣り合う女になれるのだろうか。
ニグリスが足音に気がついてこちらを見た。
「あ、佳菜!早かっ……」
ニグリスは私の姿を見て目を見開いた。いつもと雰囲気が違うもんね。おかしかったかな。
私は顔を上げられないままニグリスの横に立った。
「か…かわいい……」
頭の上からニグリスはそう言う声が聞こえて私はハッと顔を上げた。意外にも近いその顔は少し赤くなっている。
「あ…い、行こうか」
「う……うん」
私達はぎこちなく歩き始めた。今かわいいって言ってくれたよね?それに、なんだか今回は今までになく動揺した感じだった。やっぱりナターシャの見立ては正しかったんだ。ニグリスはこういう格好が好きなんだな。
恥ずかしいけど、そう言ってもらえるなら慣れない洋服買ってみてよかったな……。
私はうつむいてなんとか笑顔を噛み殺した。




