11話 三班・虎と霞
壁を削る様な音が廊下中に響き渡る。
「緯壱! 何処にいるんだ!」
いつもこの学校は広すぎると思っていたが、ここまで鬱陶しく思ったのは初めてだ。
(私立だからか?、いや...そんな事より早く見つけないと!)
音のする方向へ走っていると、向いから担任の鈴木先生が、慌ただしい走り方で向かってくる。
「先生!」
「な、永禮!何してる! 早く逃げないか!」
「わかってます、けど...緯壱、緯壱をみませんでした?」
担任は眉にシワを寄せ、何かを思い出すように斜め上を見たあと、思い出した顔をする。
「あいつ、そういえば永禮と良く一緒に居るな」
「知ってるんですね! どこにいきましたか?」
「あっちのほ....いや....」
担任は口篭り、またもや眉間にシワを寄せる、何かを知っている様子なのは確かだが、中々言葉にしてくれない担任に、痺れを切らす。
「いいです...先生はもう逃げてください、僕もすぐ行きますから」
きっと担任の来た方向で何かあったのかもしれない、手のひらを向けながら担任の周りを半円を描き通過する。
「おい!永禮」
呼び止められた声に一瞬ビクついたが、俺は無視して先を急ぐ。
担任の言動からして、何か自分に言い難い事が起こっているのかもしれない、例えば緯壱が死に、友達である俺には伝えづらかったとか...
(ダメだ!悪い事ばかりが脳裏を過ぎる)
自分の足は先を急ごうと、動きがさらに加速する。
廊下の突き当たりが見えてきた所で、
バリンと天井の蛍光灯が、何かに破壊される。
「うぉっ!」
振り落ちる破片を両腕で守り(守りきれず右腕に何個かガラス片が刺さる)、廊下の曲がり角から聞こえる音を、そっと覗く。
「これで終わりですかね...」
そこには緯壱が戦う姿、いや、決着した姿があった
ーーーー「お前、さっきの敬語はどうしたんだ?」
俺がそう問うと、緯壱は黙り込んでしまった。
「なぁ、先輩って誰なんだよ、
この学校の先輩なのか? 」
またもや緯壱の顔が、一層に険しくなって行く。
唇を震わせ、5、6分経った頃、やっと口を開き話し始める。
「そ、そうだよ... 委員会の先輩なんだ〜、アハハ...」
やっと喋りだしたと思ったら、はぐらかす馬鹿り。
俺は緯壱が戦っている姿を見ている、普通の高校生とは思えない立ち回りを、この目にしている。
それなのに、委員会の先輩? に一体これの何を報告すると言うのだ、コイツは俺を舐めているのか...
そう思うと、俺は初めて緯壱へ腹を立てる。
「お前、なにか隠してるなら...」
「ア゛...フ゛ウ゛ぁぁぁ!」
緯壱が拘束していたはずの男が、痙攣を起し周りの空気が歪み始める。
「まずい! 永禮、伏せろ!」
「ヴァ゛ア゛ン゛ン゛」
小刻みに揺れる男の体から、無数の白い線が廊下を覆う。
「緯壱! 手前、下から1m40cmあたり、右壁から1m90cm辺の所だ!そこに何か壁を作れ!」
無数に引かれた線の穴場を突き、緯壱へ指示を出す。
不服そうににこちらを見た緯壱は、振り返り相手の方に視線を戻す
「猿の拳。」
緯壱がそう言うと、自分の糸を束ね壁を作り出す。
「ン゛ア゛ァァァァァ」
風の刃が廊下中に靡く。
ーーーー刃雨は止まり、俺達は何とか猛攻を耐え切った。
「はぁ..はぁ..お、お前...必殺技なんか言うんだな」
「うるせぇ...そっちの方がイメージし易いんだよ」
「「.....フハハ」」
お互い何かを隠しているこの状況が可笑しくて、2人とも吹き出してしまった。
「第1、永禮の脳力じゃ戦えないだろ」
「わかってるよ、だがサポートは出来ただろ?」
「サポートって...お前の脳力は(無機物、有機物関係無しに、動きの流れを線で見ることが出来る)だろ、口で説明してるだけじゃ遅い、さっきだってギリギリですよ。」
緯壱に説教されているのが、なにかものすごく癪に障る、敬語も出てるし何が何だか...
緯壱と言い合っていると、前方の瓦礫が動く。
「!?」「!?」
2人で言い合っているのも一瞬で止まり、お互い戦闘体勢に入る。
「ヴゥ、壊゛ズ、ゴワ゛ス゛ゥゥゥ」
錯乱しているせいか、傷だらけの体を無理やり起こし、またもや暴れ始める。
流れた血が線を作り、その場に撒き散らし始める。
相手は多分痛みを感じていない。
「なんか策はあるのか?」
「殺す訳にも行きませんし。
参りましたね。」
おい、降参すんなよ、とツッコミたい所だが今は非常時だ、ふざけている場合では無い。
ザザザ
緯壱の襟からノイズの音が響く。
「斎藤さん、今到着しました!後は三班に任せて!」
そう聞こえた様な気がした。
次の瞬間、後ろからものすごいスピードで人が現れる。
「大丈夫かい?ヌッキー」
「あ、彪寧さん、その呼び方はやめてくださいと...」
「やっぱ、お堅いのね」
緯壱は、この超綺麗、ポニーテールで身長が170cm以上あろう高身長女性を知っている様子だ。
「ま、後はこっちで預かるわ、てか終わってるけどね」
男の方に視線を向けると、注射針の様な物が打ち込まれていた。
「斎藤さん、お疲れ様です! 鎮静剤を打ち込んだので、この人はもう動けませんよ!」
どこから音も無く現れた、若干15歳位にして紺髪の少年が、男の背後から注射針を打ち込んでいたのだ。
いや、よく見ると少年の体が少し透けている、怖すぎる。
「霞夜野くんも来てたんですね。」
「緊急の様だったので、念には念を入れまして。」
何か2人が似ている気がするのは気の所為だろうか。
「気の所為じゃないさ、2人のお堅さは並ぶ所があるからね〜」
「うわ!」
彪寧さんが俺の顔を覗き、見透かした様に言う、正直ドキッと所では無い、心臓が止まるかと思った矢先、彼女が話し始める。
「後は三班で処理するから、外に居る連中に今までの経緯、話してきな」
「わかりました。」
俺が話に着いて行けず、キョトンとしていると、緯壱が俺の肩を叩き外を指差す。
「とりあえず外に出るぞ」
「お、おう」
俺達は現場を後にし、外へ向かった。
ELF第三班・部隊長
辻 彪寧
脳力・俊脚




