10話 切り裂きアバン
錯乱する男
風間 潤貴
年齢56
脳力・風刄
「こちら斎藤、伝面市 箕形町の、心奏高校にて、事件発生、至急応援を頼みたい。」
襟に隠してあった小型無線機で、本部に連絡を取る。
窓から見えたあの男、確か服にAの刺繍が入っていた...
自分の覚えている情報が正しければ、恐くだがアバンダントの物だろう。
こんなにも奴らが早く動くなんて、本部の誰も、あの予知婆さんだって予想していなかった。
エルフとして、即時に行動出来なかった自分が不甲斐ない。
「遅かったか...」
十数人の教員達が、広い廊下にうつ伏せの形で倒れている。
2階を駆け回る際、被害者を誰一人見ていなかった事を考えるに、幸いにも犯人は1階を何周も廻っている様子だ。
「少しでも多くの人達を...」
これ以上、被害を拡大させるのはまずい。
あまり大きな騒ぎになると、国政機関であるELFでも、脳力者の関係性を隠しきれなくなる。
糸を天井や窓に刺し、振り子の原理で体を加速させる。
壁を伝い、長い廊下の曲がり角を曲がった所で男を目視する。
「確認。」
男の傍には、白シャツ姿で腰を抜かす教師の姿が見えた。
「先生!!」
隣クラス、永禮のクラスの担任だ、
今にも倒れそうな体を、自分の糸で支え、間合いを取るため、自分が飛んできた反動を使い相手を後方へ吹き飛ばす。
「ここは、自分が対処します。」
思っていた通りだ、アバンダントは皆特徴的な赤いキーホルダーと、服のどこかにAの刺繍を入れている報告がある。
その全てに当てはまるこの男は、アバンダントの何かしらに違いない、が、何故狙うのが学校なのか、動悸ははっきりとはしない。
「先生は逃げてください。」
「で、でもお前はどうするんだ!!」
先生は、恐怖で足が竦み上がっている、今は身分を隠している場合じゃない、そう思い少しでも安心させようと、胸ポケットに忍ばせている警察手帳を先生見せる。
「安心してください...」
「お、お前....」
「ここからは公務ですので、早く下がっていてください。」
先生は固唾を飲み、大きく頷くと走って逃げていった。
「邪魔ぁ、じゃま゛ぁ゛ぁ゛あ゛」
「さて、」
道理で一向に2階へ上がってこない訳だ。
敵は会話がままならない程、錯乱している。
周りの削られた壁、その壁がカッターで切られたような凹み型をしている、きっと、何か刃の様な物を飛ばす脳力者なのだろう、大きさにも制限はなさそうと見える...「相性はあまり良く無さそうですね。」
ウガア゛ア゛と叫びながら、男は横一閃に、廊下の端から端までを伝う風の刃を、空中を仰ぐように飛ばす。
この巨大な風刃を避けてしまえば、後ろの道が崩れかねない、前方で横たわる彼女や、左教室にも生徒が何人か隠れている。
俺は相殺する選択を選び、自分が操る糸を瞬時に前方へ集める。
「猿の拳。」
巨大な糸塊を作り、風の刃へぶつける。
いくら普通の糸より強固とは言え、刃物で斬れば容易に切れてしまう。
両者の技がぶつかり、少し競った後、猿の拳が半分まで切れた頃、相手の刃がその場で散る。
(こっちは束ねてやっとと言うのに、相手は1振りでこれですか。)
相手が一心不乱に攻撃してこれば、物量で押されかねない、なら自分が今する事は。
「足止めし、邪魔をし、時間稼ぎですかね。」
両腕を大きくクロスさせ、まるで洋画の赤外線センサーの様に糸を張り巡らせる。
「動けば、全身細切れですよ。」
男は動けないストレスからなのか、小刻みに上下に揺れ、口から泡のようなものを出しながら、喋り始める。
「捨てる゛...捨で、な゛いどぉ、いらな゛い゛がらぁ、いらな゛い..です、ずでます、がらぁぁぁああ
あ゛バン...だん、為に゛ぃぃぃいい
すでる゛がらぁあ、すでる、スでぇる、いら゛なイ、がラダも゛...ごこぉろ゛も゛ぉ、た゛ん゛ドぉのだめぇ゛にぃぃ、か゛ソクも゛...ズま゛もぉぉおぃぃいい゛らな゛ぁぁああああ」
自分が到着する前も、叫び続けていたのだろうか。
声は枯れ、泡に血のような物も混ざっている、喋ると激痛を伴う筈なのに、男は叫び続けている。
命の殺り取りだ。相手に同情はしない、相手は人を殺しているのだから、ここに来るまでに息の感じない者は何人か居た、捕まれば即死刑だろう。
少しでも時間を稼ごうと視線で牽制していると、気になる点を幾つか眼にする。
脛に見える出鱈目な縫い目、腫れ上がり赤黒くなっている頬、ボロボロの服装に手足の首に見える赤い跡。
(アバンダントの送り込んだ、仲間では無いのか?
この学校に来る前に誰かと戦ったのか...?)
疑問を募らせては何も解決はしない、捕まえてしまえば全て聞き出せるのだから、今考えてもしょうが無い。
そう自問していると、男は右手首を回し円を描き始める。
「れ゛ン゛ぅぅ゛」
周りの空間が歪み、その歪みに男の手が触れる。
「危うそうですね。」
無数の刃が、雨の様に降り注ぐ。
流石の自分でもこれを見きって避けるには少し骨が折れそうだ、猿の拳を作っている時間もないぞ..
最初の1刃目が肩を掠る。
「ウグッ」
削られるような痛みに、声が漏れ出る。
2刃目、既に目の前まで迫る刃は、6つまで来ている、糸で体を天井に引き寄せ、2刃躱す。
次の攻撃が当たる少しの間に、自分は男の足へ糸を忍ばせた。
体を捻りながら落下し、3刃躱す。
(ここで、相手の体勢を崩す!)
姿勢を限りなく低くし、1刃躱す。
忍ばせていた糸を引っ張り、相手の脚へ搦め引っ掛ける。
「ビミニツイスト。」
男は足を取られ、刃の標準を上へ向けた
「ァあ゛ヴァ゛」
カーブが掛かった刃は、自分の頭上を通過し、蛍光灯を破壊する。
「半返し。」
すかさず男の体を縫い付け、拘束に成功する。
「ヴ..アガァァァアア」
「こ、これで終わりですかね...」
時間稼ぎのつもりだったが、自分でも分からない俊敏な動きに少し戸惑う、きっと集中状態で起こった偶然の産物なのだろう。
膝に手を付き、裾で汗を拭う。
「先輩には、いい報告ができそうですね。」
ーーーー「緯..壱....これ、お前がやった..のか....?」
「!?、永禮さッ...永禮!なんでここにいるんだ!」
「下に降りるお前の姿が、廊下から見えたから、心配してきたんだが...」
見られてしまった、服装は...問題ない、学生服のままだ、手帳は! ...ポケットに入っている。
まだ誤魔化しは効くはずだ。
「な、なるほどなぁ〜....ま、まぁ、俺も人助けがよ? したかったんだよ〜....」
・・・「お前、さっきの敬語はどうしたんだ?」
「......」
終わったぁぁぁぁぁぁぁ。
ELF第二班 隊長補佐・代理
斎藤 緯壱
脳力・鋼糸




