9話 教師
担任
鈴木 真
平凡な人生だった。
産まれてこの方冒険などした事が無い。
一般家庭で生まれ、すくすく育ち、そこそこの高校、大学を出て、教員免許を取得する。
ちょっとしたユーモアは学校で学んだ。
世の常識は家族から学んだ。
俺ももう40近い。
「結婚しないとな...」
仕事帰り、夜の公園でそんな事をぶつくさ呟いては、コンビニで買ったビールを開け、半分くらいまで飲み干す。
大学で別れた彼女だとか、中学の時仲良かった友達だとか、そんな人間関係も記憶から薄れる、それくらい味の薄い毎日に、正直飽き飽きしていた。
「なんかこう...毎日をぶっ壊す!...みたいな事、起こったりしねぇかなぁ〜」
そんな教師には有るまじき考えすら浮かんでいた、そんな自分がたまに怖くなり、残りのビールを飲み干す。
「全て捨てる! 邪魔な奴らも殺す!」
俺の目の前にいる男は、今そう叫んでいる。
動かなくなった女子生徒の頭を掴み、血まみれの左手を振り回しながら、血走った目をぎょろぎょろと動かしている。
もちろん生徒は助けようとしたさ、だが何人か逃げ遅れ、逃げ遅れた分だけ犠牲になって行った、そして今、俺も逃げ遅れている。
「そ、その子を離せ!」
俺ができる唯一の抵抗であり、教師である自分の最前の行動をする。
ズバッ!シュッ!
彼が手を振り回す度、壁に大きな裂き傷が付く、まるで大きな刀で切りつけられたの様な傷。
「お前も邪魔するのか!俺達の...
お゛ぉれ゛た゛ぁち゛ぃぃの゛ぉぉ!」
錯乱する男に言葉は通じそうにない、正直帰りたい、逃げてしまいたい、一般人である自分が、教師と言う立場だけで脳力者に勝てる道理など、どこにも無い。
道徳を持ち合わせていない、常識も無い奴に、教師が教えられる事は何一つないのだから。
「お゛ぉ゛ぉ゛あ゛は゛ん゛ん゛ぅ」
暴れる男から放たれる風の斬撃が、自分の腕を掠める。
恐怖で足がすくみ、中腰の様な体制になる自分は、とてもみっともないだろう。
だが俺は男にもう一度問う。
「彼女を離すんだ!」
俺は逃げる訳には行かない。
決して今までの日常が、退屈で退屈で、そんな平凡を壊したこの現状に、高揚してるとかではなく(最初は少しそんな事も思っていた)。
女子生徒の前で格好付けたいとかでも無く(それも最初は、「ここで助けられたらかっこいいかなぁ」などと思っていた)。
俺が教師である以上、心奏高校の生徒を守らなければ行けないからだ。
「た゛ぁ゛ん゛と゛ぉ゛ぉ゛」
女子生徒を投げ捨てた男は、一心不乱に俺の元へ走って来る、こんな時(空手とか合気道とかやっておけばよかったなぁ)など思ったが、もう遅い。
男の手の届く距離まで、あと2、3メートルと言う所で俺は怖くなり片足を半歩後ろへ下げる。
「うぉぉ」
躓いてしまった、部活の顧問などもやってないせいで、運動不足が祟った様だ(手当が安くても部活の顧問、やっておけば良かった〜)などと考えながら、俺の体は少しずつ後ろへ倒れる。
終わったな.....
ーーーー「先生!!」
迫っていた男が何者かに蹴り飛ばされ、倒れかかった俺の体は細い糸のような物で支えられる。
「ここは、自分が対処します。」
目の前には、いつもヘラヘラしている、隣クラスの男子生徒の姿があった。




