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リアルファミリー  作者: 冴木 昴
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「鼓動-12」

リアルファミリー最終話です。

 急患が入り、結局帰宅は夜中近くになってしまった。自宅のカギを開けると家の中はシンと静まり返っていた。

(さすがに寝ちゃったよな)

 少々がっかりしつつリビングを覗くと灯りが点いており、買ったばかりのダイニングテーブルに歩が突っ伏しているのが見えた。どうやら勉強しながら寝てしまったらしい。

(しょうがないな……)

 勇介は着替えを済ませると歩の肩を揺すった。

「あーちゃん」

 彼はむにゃむにゃ言って一向に起きる気配が無い。

「仕方が無いやつだ」

 羽織っていた自分のパーカを歩の背中に着せ掛けたとき、

「え?」

 足元に何か気配を感じて勇介は思わず飛び退った。

「うわっ!」

 テーブルの下、ミニカーやアンパンマンのぬいぐるみ、積み木や絵本が散らばる中に、渚が寝ている。

「おいおい……風邪ひいちゃうよ」

 おもちゃをよけて抱き上げると、渚は目を覚ましてフンフンと小さくぐずった。仔犬のように胸に顔を擦り付けてくる仕草がたまらなく可愛い。

 和室の布団に渚を寝かせて添い寝するように横になった。自分の親指を吸いながら鼻を鳴らす渚を寝かしつけているうちに、いつの間にか目蓋が重くなっていた。

(そういえば昨夜は仮眠もろくにとってないし、さすがに疲れた……)


 背中に温もりを感じて目が覚めた。

 オレンジの豆電球の明かりに、小さな渚の背中が見える。

(……てことは、背中の体温はあーちゃん?)

 ゆっくり寝返りをうつと、すぐ傍らに歩の茶髪があった。

 二組の布団にちょうど川の字状態で、真ん中に居る。

 薄目を開けて観察していると、歩は渚と同じように勇介の体に顔を擦り付けてきた。

(なんか、小さな子供みたいで可愛いな)

 彼が眠っているのをいい事に、少々いたずら心が湧いてきた勇介は、躊躇いながらも腕を伸ばし、歩の鼻をつまんだ。

「んん……ふっ……」

 歩はなぜか笑い声のような音を漏らすと、ぱかっと口を開けたが、そのまま障害をものともせずに寝続ける。勇介は歩の鼻から手をどけると、思わずしのび笑いを漏らす。

 一人っ子だったから、こうして川の字で眠るような相手もいなかったし、たとえ兄弟がいたとしても北詰の家ではそういった習慣はないだろう。そう考えると、なかなかに貴重な体験をさせてもらっているのだという気持ちがわいてきた。

 左側の渚を抱き寄せ、やわらかい髪にキスしたとき、右側から強烈なキックが飛んできた。

「いてっ!」

 腰を蹴られて呻く。

 歩が布団から体半分はみだし、大の字になっている。

(くっそう! 寝ながら仕返ししやがって)

 渚を手放し、むっくりと身を起こした勇介は、口を半開きにして眠っている歩のあどけない顔を覗き込む。すると、どういうわけだかまた歩の顔が杏子と重なった。自分自身の心臓の高鳴りに気付き、かなり焦る。妙な気分のまま視線をさまよわせると、オレンジの照明の中、壁に飾られた杏子の写真が、何か言いたげにじっとこちらを見ていた。

 赤いTシャツにポニーテールの鳴沢杏子。勇介より年下で、父の愛人で渚の母親で、そして、歩の姉……。

「父さん……」

 ふいに歩の口から寝言が漏れた。

 その言葉で、妙な錯覚は潮が引くようにあっさりと消えてなくなった。


 手を伸ばし、歩の髪をそっと撫でながら呟く。

「……父さん、か。せめてお兄さんにして欲しいもんだ」

 オレンジの灯りの中でじっと二人の寝息に耳を澄ましていると、ふいに鼓動がリアルに伝わってきた。


 トクントクン……


 二人のものなのか、自分のものなのかわからない鼓動が、深いところで鳴っている。


 トクントクン……


 それは、子守唄のように優しいリズム。生きている証の、生命の音。

(杏子さんのぶんまで、ちゃんと三人で生きていくさ……だから、心配しないで)

 壁の写真に目をやってから、再び布団に寝転がった。そのまま、勇介はゆっくりと目を閉じる。


 心地良い鼓動を感じながら……           (了)


リアルファミリーをお読みくださいましてありがとうございました。

毎日更新を目指し、なんとか目標まで投稿することができました。

いったんこれにて終了させていただきますが、この物語にはまだ続きがあります。

充電期間ということで少しの間お休みさせていただいてから、また「リアルファミリー2」として連載を再スタートさせていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします。


およそ一ヶ月間、ご愛読いただきましたかた、本当にどうもありがとうございました。


【お知らせ】

続編「リアルファミリー2」24年6月11日(月)7時より連載開始いたします!

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