憧れを振り抜いて①
「明日の昼には、武器庫に着けそうね。
それじゃあ、話し合いはここまでにして、もう寝ましょう。セレウコス、ユーリ、おやすみなさい。」
イネスがそう言って、自分のテントの方にスタスタと戻っていく。
「はーい。寝まーす。」
ユーリ__俺の親友は、イネスがテントの中に入って見えなくなるまで手を振り続け、
いきなりクルッと振り返ってこう言った。
「よし、相棒!夜遊びの時間だ!」
「おい!ユーリ!?」
「やーいい景色だね!」
「ああ、本当に。
こんなところよく知ってたな。」
小高い丘の上、星空を見上げるユーリにそう問いかけた。
「前に聖堂の皆と来たことがあってね。」
勇者として、世界について知るための、遺跡を巡る旅の途中だったかな、なんて、楽しそうに話している隣の男。
彼には、かつて、
勇者の紋章が刻まれていた。
それは、今、俺の腕にあり、彼にはない。
紋章を失った筆頭勇者、ユーリ。
賢者シンリアを救うため、彼女を魂を回収する旅に賢者ササンが遣わせたのは、イネス、俺、そして、この男、ユーリの3人だった。
「魔王討伐の旅をした、君の前で言うのははばかられるけど、あれは、少し、大変な旅だったかなぁ」
「そうなのか?」
「ああ、幼い勇者が多くって、慣れない場所で疲れて、泣いてしまう子も多かった。
慰めて、手助けしてあげたかったけど、勇者として生きるなら、自分で乗り越える体験も必要かと、あのときは悩んだなぁ。」
「難しいな」
「ああ、いつだって難しいものさ、人生は。」
君もそうだろ、とユーリが笑いかけてくる。
全く、どうしていつも、人の悩みにそうもすぐ勘づいてくれるのだろうか。
「イネスに、エクレから、離れた方がいいと言われたんだ。」
「ふむ」
「それで、考えた。で、気づいた。
俺は、さぁ、エクレに、
なんて、いうか、
__ちゃんと、接してなかったんじゃねぇかって。最近。」
「へぇ」
ユーリがわざとらしく目を見開いて、そのまま目で先を促してくる。
ふう、と息を吐いて、俺は話を続ける。
「俺、エクレのこと嫌いだった。
勇者として相応しくないと、思ってたからだ。
お前のような、高潔さも、世界を背負う決意も、何も無い奴だと__
勇者の名を汚していると、思ってたから、さぁ。」
「うん、お前、勇者のこと、大好きだもんな。」
そりゃあ、すごく、嫌だっただろうねぇ、
ユーリが笑いながら頷く。
「ああ、そうだよ。
昔聞いたおとぎ話の勇者様。俺は、あの人のように強くなりたい。
それで、もう二度と、妹のように__
幼い子供たちが傷つくことがないように、この国を守るのだと、そう誓ったんだ。」
俯いたまま、まくし立てる。
ユーリが何か言う前に、俺はさらに言葉を重ねた。
「それだけじゃない。
強くなるため、旅に出た先で、俺はお前と会った。
理想の勇者を、体現したようなお前とな。
常に、驕らず、謙虚に学び続けて、どんな努力をも惜しまず、誰にでも笑顔で接して、人々を、明るく照らす。
誇らしかった。この国にお前のような勇者がいることが。
俺にとって、勇者は__お前でもあった。」
「エクレが、許せなかった。
お前を差し置いて、勇者の紋章を覚醒させたものであるというのに。
この世界ただ1人の勇者であるというのに。
その振る舞いで、勇者を侮辱している。
でも」
下に向けた顔を上げられない。
「エクレは、子供だったんだ!
俺達と会った時はまだ、2歳にもなっていなかった!
俺が、守りたい、子供達と同じだったんだ!
魔王を倒した後、エクレのことを知って、
子供に、平気で戦わせていた、自分が嫌になった。
気まずそうなエクレに、上手く接してやれない自分に失望した。
でも、そのくせ!
俺は、かつてのエクレの、勇者にそぐわない振る舞いを!完璧に、許すことが出来なかった!
かつての振る舞いを、エクレが謝罪しに来ても、なお、だ。」
言葉が詰まる。しばらく沈黙が続いた。
「それで?」
だが、ユーリは容赦がない、全てを話せと促してくる。
今、俺がぐちゃぐちゃと、思い悩んでいること、全てを。
「エクレが、倒れて!
何も出来ないようになって!それに、俺は、逃げたんだ!
妹にしてたみたいに、何も分かってないエクレの面倒を見て、それで
子供を守る勇者に、なった気で、いた!」
「情けねぇ、嫌になるよ。
それに、俺は、イネスに言われるまで気づいてなかった!
エクレの意識がないことで!ある意味、俺は
安心していたのだと!俺は、今更、気づいて……
そんな、俺には、やっぱり__
勇者の紋章は!重すぎる……」
腕の紋章を掴む。
「そもそも、憧れを殺して!得たような紋章なんか!俺には__」
思い出す。この紋章を得た日のことを。
コトパリケの遺跡を、訪れた日のことを。
そこは、魔王城に近い、果ての土地にある遺跡だった。
勇者の目撃情報がその遺跡にあったから、俺たちはそこを訪ねた。
「ちょ、おい!エクレ!!」
入口が見えてきたところで、いきなり勇者エクレが転移した。どうやら、先に遺跡に入ってしまったらしい。
「たくっ、また勝手な行動をっ!」
「気にしていても仕方ない。落ち着け。」
ササンに宥められる。
この前の日。付近の地域一帯に蔓延っていた魔物、ハーピィ達のボスとの戦いがあった。
俺はその戦いの最中、散々戦った末、トドメの一撃を放とうとした瞬間、いきなり勇者の力で転移してきたエクレによって邪魔され、しかも、そのまま、エクレに敵を倒されたことで、苛立っていた。
「だけどさァ」
「セレウコス、気持ちは分かるわ。でも、今、アンタが色々言った後、明日かいつかに、『仲間に愚痴を吐いて当たり散らすなんて……』て、またジメジメされるのは鬱陶しいのよ。
そうならない自信があるなら、どうぞお好きなだけ騒いで?」
ギクリ、その通りだった。
このいら立ちに任せて騒いでも、明日にはそのことを反省して、より、気分が落ち込むことだろう。
「イネスは、いつも、直球ですね……。
えっと、セレウコス、貴方はよく、頑張っていますよ。」
「あー!パールは優しいなー!
ありがとよ!!」
イネスの方を向きながら、俺はそう笑った。
ふんっと、イネスは顔を背けた。
その時だった。
「くっ!」
「ササン!」
ササンが吹き飛ぶ。
「敵だ!気配が薄い!」
空中で、そう、ササンが叫ぶ。
どうやら、結界で防御には成功していたようだ。
と、背後から急に気配がした。
「おら!」
相手の攻撃を屈んでよけ、そのまま、振り向きざまに攻撃をしたものの、手応えはない。
「厄介ね……
攻撃されるときまで、気配が全くしない」
イネスが杖を振り、全員に防御魔法をかける。
「長期戦だな、これは。」
気配を必死に追っても、感じ取れず、イネスが範囲魔法を使ってみても、敵に当たった様子はない。
少しずつ俺達に傷が増える。
パールがその都度治してくれるが、こちら側の攻撃が当たらない現状は変わらなかった。
「きゃあ!」
「パール!」
ササンのそばで守られていたパールが、不意の攻撃でバランスを崩す。
その背後が、きらりと光った。
「まてぇっ!!」
バンッ。
俺は、その背後から、パールごと斧を振り抜いた。
「が、は!!」
「当たったようだな。」
ササンが、本物のパールを結界で守りながら、姿を表す。
「こちらの気配も、探れないような単純な魔物で良かったわ。」
イネスの幻影魔法が、解けたようだ。
「おい……これって!」
姿を表した、
パールの、幻影に隠れていた、敵。
その容貌は、青と金の色彩で彩られていた。
「エクレ!?」
「違う!別の『勇者』だ!!
そうか、先程の技は
勇者の紋章のみが使える転移の石なしでの転移を用いた攻撃だ!だから、範囲魔法でも当たらなかった。逃げていたんじゃなく、そもそもその場にいなかったんだ__っ!!」
ササンが叫ぶ。
「それに、まだ、いる!!」
攻撃から身を守るため、ササンは、再び固く結界を貼り直す。
また、転移による攻撃が始まった。
「じゃあ、こいつらは、つまり、魔王側の勇者ってことかよ?」
俺は、『勇者』の体に突き刺さったままの斧を手から離し、地面を転がって頭上からの攻撃を避けた。
「くそ!」
「そいつ!まだ生きてるわよ!」
「は!?」
斧を突き刺したまま、蹴りを放ってきた『勇者』の攻撃を、無理やり体を捻って避ける。
「くっ、睡眠魔法が効かない!!」
混乱もダメ!!
エクレが杖を光らせながら汗を垂らす。
「それだけじゃありません!あの『勇者』!!魔法無しで、肉体が治ってます!!」
パールが、全体に回復魔法をかけながら、驚いた声でそう指摘する。
見ると、『勇者』が、傷口から俺の斧を引き抜き、投げ捨てたあと、その傷口がみるみるうちに治っていっている。
思わず息を飲んだ。
「精神魔法が、効かず、肉体に再生能力がある。
それは、つまり、彼らは、
魔物の、一種ということか……?」
「なら、倒さねぇ、と
俺が刺した、アイツなら、どうやら、まだ、転移もできないようだし、」
ササンの言葉に、俺は攻撃をよけ、飛び上がりながら返した。
くそ!
この場にいるのは、今、何体なのだろうか。
ひっきりなしに気配が現れ、攻撃が降ってくる。
「セレウコス。無理をすることはないわ。
……アンタは武器を持っていないし、何より、あの『勇者』は、転移無しでも早い。
アンタの遅い攻撃より、私の魔法の方が確実よ。」
ああ、イネス。お前だって、奴の姿を見た途端、精神魔法ばかり使うようになったくせに!
『勇者』の存在は、その色彩は、この世界に生きる人にとって、圧倒的なものだ。
誰もがそれに特別な感情を抱えている。
それを攻撃することは、誰にとっても苦しい。
なら!
「お前だけに、任せてたまるかよ!」
俺は勢いよく駆け出して、斧を拾い、そのまま、『勇者』に向けて振り抜いた。
今度こそ、しっかりと、体を両断するために。
ぐしゃり。斧に重い手応え。『勇者』の体はふたつに分かれた。
投稿始めたばかりで、お恥ずかしい話なのですが!
これから、3日間、投稿お休みします!
続きは11/7の8時頃上がる予定です!
お詫びに、今まで出てきたキャラクターの中で、リクエストされた人物の日常短編を書こうと思ってます!
もし宜しければ、この話の感想欄で、リクエストお願いします!




