ご都合ハッピーエンドを夢見る勇者②
嫌な思いをするほど能力が高くなるということは、救済をすればするほど、キャラクターが、魔王討伐に挑む4人が、弱くなっていくということである。
また、救済しようにも根本的に手の届かないところもある。
具体的に言うと、魔王の過去や、魔物達への対処などだ。
この世界での魔物は、魔王の力によって変化させられた、元人間だ。
この設定によって、魔物を1度でもキャラクターに倒させてしまうと、その時点で、ハッピーエンドのために「魔物の真実を隠し通す」というノルマが発生する。しかしながら、このゲームのキャラクター、特に賢者ササンは、何を隠そう、ゲームで魔物の真実に気づいたのが彼であるほど、すっごーーく賢いので……
普通に気づかれる。
めちゃくちゃ気づかれる。
まともに旅やってると絶対気づかれる。
「チェロワー」の世界に転生したと気がついてから、僕は悩んだ。
すごく悩んだ。この世界をハッピーエンドにする方法を。
そして気づいた。
さりげなく救済をしながらも、一緒に旅するのも嫌なくらいに嫌われて、常に邪魔をし足を引っ張る、そんな、彼らの旅の厄介な同行人になれば良いのだと!!
狡く、傲慢で残酷、すぐ逃げ、欲望に流される。振る舞いは粗野で、学もない。勇者の紋章を盾に威張り、いつも自分のために力を使う。
それが世間の、パーティの皆の、僕、勇者エクレへの認識である。
賢者ササンの腕の中で死ぬはずだった子供を救った。
こんな所にくるな、邪魔だ、と睨みつけた。
聖女パールが大事にしていた祖母の形見のペンダントが、破壊されるのを防いだ。
彼女がそれを手に持って祈っているときに、ボロボロでダサいゴミだと馬鹿にした。
魔術師イネスが作った「農村を潤す雨雲」を汚染する魔物を殺した。
旅の途中で神様ごっこかと嘲った。
戦士セレウコスの右腕が捻り切られるのを庇った。
弱い、弱いと、笑って突き飛ばした。
彼らが旅の途中で勇者の紋章を手に入れたとき、お前らには不相応だと、癇癪を起こした。
……この作戦で、本当にハッピーエンドにたどり着けるのか、救済をしない場合の、散々な逆境や苦難を乗り越えた、ゲーム本編の4人の能力に、僕が旅の中で行う行為や僕自身に対して抱くだろう不快・嫌悪の感情で、4人がどこまで追いつけるか。実際、すごく不安だった。
けれど、どれだけ人の命を救っても、どれだけ悲劇を回避しても、彼らはゲームと変わらないくらいに強くなり続けた。
戦いに勝ち続けた。
そうやって、勝ち続けて、いまは、一体、どこまで、すすんだんだっけ……?
ピカッ
「はっ!?」
そのとき、急に部屋の中が光り出した。
戦士セレウコスが身構える。
「転移魔法だ!」
だんだん光が収まっていき、姿を表したのは……
「っ、イネス!セレウコス!」
「パール!どうしたのよ?」
聖女パールだった。
あ!髪が長い!やっぱりご都合ハッピーエンドだな!
でも、それにしては、
パールの顔が曇ってる……?
「ああ、急に、転移してきてごめんなさい。
2人を呼びに来たのよ。
北のネブカドネ地方で、竜災が起きていて、」
竜、災?
部屋の中の3人が息を飲む音が聞こえた。
「わかった。すぐ向かう。中央王宮の転移の大広場でいいか?」
「ええ、そこに皆を集めています。そして、ササンは既に現場に。」
「皆?私たち以外も向かわせるの?
被害は、そんなに大きいと?」
「……、ええ。ササンがいうには、今回の竜災は、
過去、最大のものになるだろう、と」
場に暗い雰囲気が漂う。
……過去最大?
それって__
「アーカードさん。エクレを頼みます。」
「もちろんだ。」
魔術師イネスが、戦士セレウコスが、聖女パールが、目を瞑る。
転移の準備だ。
これから大広間に転移して、集められた兵とともに、転移の石碑でネブカドネ地方に向かい、竜を倒しにいくのだ。
ああ、それって__
「チェロワー」のエピローグで の バトルじゃない?
「僕も行く」
「っっ!!」
3人がバッと目を開く。
近くにいたアーカードが僕を止めようと手を伸ばす。
その手が僕の腕に届く前に、僕は大広間に転移した。
ピカッ
「__、エクレッ!
なぜ、ここに!」
僕は、大広間に転移してすぐ、ざわめく兵士達を掻き分け、石碑を使い、ネブカドネ地方に大転移した。
大転移の強い光の中から、僕の姿を見つけたササンが叫ぶ。
「まてっ!とまれ!エクレ!」
竜の羽音の方に走り出した僕を追って、ササンも転移の間から外に出たようだ。
彼の叫び声は、もはや悲鳴のように聞こえた。
「また、意識を失ったら危険だ!!!」
ああ、こんな僕のことを君は、君たちは、本当に心配してくれるだね。
バサリ、バサリ
耳が壊れそうなほど大きな羽ばたきの音。
その巨体は、ネブカドネの町をぐしゃり、ぐしゃりと押し潰して、歩き回っている。
100、200、300……何匹かなんて数え切れない。
大量の竜の群れ。
僕は、素早くその群れに向かって突っ込んだ。
手を握りしめると、そこには聖剣がある。
覚醒した勇者の証。常に必要なとき、その場に現れる聖剣で、何匹も何匹も竜を切り裂いていく。
「キシャーーーッ」
「グゥるるるるッ」
仲間を攻撃されて、竜達はたいそう怒っているようだ。
「ついてきなよ、竜」
僕は、くるり、と向きを変えて、町の外へ向かって飛び出した。
ああ、このネブカドネの戦いについて、僕はよく覚えている。
「チェロワー」のエピローグ。魔王を討伐した後の4人の話。魔王の死後、魔物は全員消え去ったものの、竜などの異界生物や、気象現象による災害は起こる。やがて、4英雄と呼ばれるようになった4人はそれらの災害への対処を行うようになっていた。
彼らはもちろん、ネブカドネの竜災でも、町を守ろうと奮闘して……
_____己が、弱くなったことを自覚する。
そして__
「エクレ!」
ああ、皆が追いついたようだ。
イネスとセレウコスが、大規模な魔術と、強力な鉄斧で竜を薙ぎ払う。
少し離れたところでパールが支援魔法をかけているのが見えた。隣でササンが兵に指示を出している。
アーカードは……
「戻ろう。エクレ!
街の外に出て随分戦いやすくなった。兵士と4英雄がいれば、もう被害は出ない。」
気づいたら近くにいて、僕の腕をがしりとつかみ、無理やり転移させてきた。
「エクレ!アーカードさん!」
どうやらパール達のところに転移してきたようだ。
「もう、大丈夫だ。安心して、ここで休め。」
ササンがそういって僕に微笑みかける。
「体調は?私たちのこと、分かりますか?エクレ。貴方はずっと、ここ最近お人形のようになってしまっていたんですよ……!」
元に戻って、良かった。そう涙を零して、パールは僕を抱きしめた。
ぐらり、と意識が揺らぐ。
ああ、なるほど。
「ごめん、なさい」
「……エクレ?」
パールが、僕の顔を覗き込む。
「エクレっ!しっかり!!」
肩をゆすられる。ササンもアーカードも僕を見ている。
「ごめん、迷惑、かけて、ごめんなさい。
幸せ、だから、こう、なってるんだ。たぶん。」
僕は、一緒だ。
「チェロワー」の4人が、最後___
幸福を、恐れたように。
僕も、幸福を、幸福によって弱くなることを恐れている。
だから、現実を拒絶して「夢」にしたんだ。
最悪だ、邪魔すぎる。
ハッピーエンドに、お人形さんで、要介護の、勇者の抜け殻は、いらない。
こんな僕は、いらないよ
「だから、ねぇ、邪魔、だったら、
僕を殺して、いいからねぇ」
「ふざけるな!!」
アーカードが叫ぶ。
「私はお前に対して、なんの責任も果たせていない!殺したりなどするものか!生を諦めることを許すものかっ!エクレ!!」
「なぁ!!」
「エクレ!?どうしたのよ!」
「意識戻ったんじゃねぇのかよ!」
「イネス!セレウコス!お願い!エクレにっ、声をかけてください!」
「おい、エクレっ!エクレ!」
アーカードが、パールが、イネスが、セレウコスが、ササンが、必死の形相で僕に声をかけている。
その様子が徐々に薄らいで、やがて、僕の意識はプツリと切れた。




