ご都合ハッピーエンドを夢見る勇者①
ねむい
すっごく眠い、けど
起きなくちゃ。
いまは、戦いの真っ最中で、僕はこの世界の
勇者、なのだから。
お布団、バイバイっ!
ってあれ?
ぼふんっ
いち、にの、さん、でエイヤッ、と体を起こしたはずが、僕の体がなにかに拘束されていたせいで、勢いよくベッドに逆戻りする羽目になった。
ん?ベッド?
いつも野宿ばかりの僕は疑問に思う。
昨日は宿に泊まったんだっけ?
それに、このベッド……
すごくいいベッドだぞ!
前世のものと同じくらい、いや、それ以上にふわふわで、肌ざわりがいい。
程よい温もりもあって、
なんだか、まだ、ねてたーい、
「___、おやすみ」
ばちり、と意識が戻る。
「エクレはどれがいい?」
すぐ目の前にはこの世界のラスボスが、って!
えええええぇっ!?
これ、どういう状況なんだ!?
「エクレの好みはこっちよ」
「いや、それはお前の趣味全開じゃねーか」
魔術師イネスに戦士セレウコスまでいる。
ラスボスを前にしているっていうのに2人はいつも通りで、全く気にする様子がない。
「今日着るのはこれがいいだろ!」
「それこそアンタの好み丸出しじゃない!」
いや、ちょっと違うな?
普段、喧嘩してばかりの2人が、今日は、口では争っているけれど、それでも、楽し気に笑いあっている。
むむむっ?
これって、
もしかして、いわゆる、
「ご都合ハッピーエンド」の夢を見ているのでは??
この世界は前世でプレイしていた人気スマホRPGゲーム「チェロフォビアワールド」通称「チェロワー」の世界、と、僕は考えている。
「チェロワー」は、圧倒的なビジュアル、爽快な戦闘アクション、そして、なにより、重厚で凄惨なストーリーで数多くの熱狂的なファンを生み出した作品だ。
出てくるキャラクターには、敵、味方関係なくほぼ全員にツラい過去というものが設定されていて、オマケに今、生きている現状もなかなか救いのない世界。
ゲームの結末だって、ラスボスを倒し、世界を救ったはいいものの、主人公たちが「幸福恐怖症になる」というバッドエンドである。
敵キャラに同情しても、血反吐を吐きながら倒し、主人公たちの苦しい旅路から目を背けたくなっても、必死でゲームを続けてきたというのに、まっていたのは美しく最悪なタイトル回収。
メンタルに多大なるダメージを受けたプレイヤー達は「二次創作」というマヤカシの世界に逃げ込んだ。
というわけで、「チェロワー」の二次創作界隈は
「誰も死なない」
「何も起こらない」
「みんなともだち」な、
いわゆる「ご都合ハッピーエンド」な作品で溢れかえることになったのだった。
さて、改めて現状を見てみよう。
なんか平和な日常。
日常に混じるラスボス。
仲良い犬猿の2人。
……うん!めっちゃ既視感!よく見る二次創作と全くおなじパターン!
これはご都合!
ご都合ハッピーエンドですわ!
「エクレ、似合ってるよ。」
「懐かしいわ。その服装。」
おっと、僕が何もしなくても、夢の展開はどんどん進んでいくようだ。
ふと、体を見ると、僕は見覚えのあるワンピースを着ていた。
あれ?ワンピースなんて、この世界で持ってたはずないのにな。前世の服に、似ているのだろうか?
「エークレっ、髪の毛、やってやるよ。」
……戦士セレウコスが!僕の!髪を!?
かつて、彼に妹がいて、よく髪の毛を結んでやっていた、という事実はゲーム情報で知っているけれど、でも、まさか、僕に!その優しさが発揮されるとは思わなかった。
僕は思わず、はっ、とした。
ああ、この夢、ただの「ご都合ハッピーエンド」じゃなくて、僕に都合のいい「ご都合ハッピーエンド」の世界なんだ!?
そんなの、
マジモンの夢小説じゃないか!!
つ、罪深すぎるだろ!ぼくっ!!
「チェロワー」において、主人公は明確に定められていない。
物語はいつだって4人のキャラクター、
魔術師イネス・アーケーメ、戦士セレウコス、聖女パール、賢者見習いササンを中心に進んでいく。
物語の初め、ゲームでは、この4人に賢者シンリアを加えた5人で世界を脅かすラスボス、魔王アーカード・サルゴンを倒すための旅に出ることになる。
まあ、賢者シンリアは序盤で武器庫の扉を開くために魂を捧げて亡くなるので、賢者見習いササンが賢者に覚醒し、その後、旅の殆どは彼ら4人で戦っていくことになるのだけど。
だがしかし、この世界ではそこに僕、勇者エクレが参加している。
そもそも、なぜ、ゲームの物語では、旅の仲間に勇者がいないのか。
それは、物語開始から5年前に勇者達が全員力を、勇者の紋章を失ってしまったからだった。
原因はラスボス、魔王アーカードである。
彼は過去、勇者達から迫害を受けた異種族だったため、紋章の力を危険視し、奪い取るための術を編み出したのである。
だが、僕は少々イレギュラーな出生、転生者であるために、勇者の紋章を持ったまま育ち、それを覚醒させるに至った。
やがて僕はシアペル王国に発見され、半強制的に彼らと旅に出ることになったのだった。
さて、ここまで話してわかったと思うが、この世界は勇者が複数人いるのが当たり前の世界である。
紋章持ちはみな、金と青の色彩で生まれる。そして、国に見つかり次第保護され、聖院の中で紋章について学びを深めて生きていくのだ。
紋章は、その力を持つ人間の中で1番優秀な者を覚醒させる。
その頂点の座に至るため、また、その座を正しく受け継いでいくため、紋章を持つもの同士、また、
優秀な賢者・聖者・魔術師・戦士達と共に競い合い、支え合う。これが通常の「勇者」の在り方だ。
残念ながら、僕は違うが。
僕の紋章が覚醒したのは、他にまともな紋章持ちがいなかったから。
聖院にいたことは1度もなく、旅に出るまで他のメンバーとまともな面識(今は、ゲーム越しでのことは覗いておく)はなく。
異端児で、異分子。
4人のパーティメンバーにとってそういう相手なのだ。僕は。
それで良かった。
特に、「覚醒候補」だった勇者の親友を持つ戦士セレウコスは現実では僕にあまり近寄りたくないような感じだったはずだ。
それを、僕が、歪ませている。
「はは、可愛くできたな」
戦士セレウコスは楽しそうにそう言って、僕の頭を撫でる。
あああああっ
それは、もう!めちゃくちゃ歪ませちゃってるーーー!!!
恥ずかしい。僕にそんな願望があったのか!?
妹扱いされたい、みたいな……??
これ、ダメだ、ダメな夢だ。
多分名誉毀損とかになるやつだよ!?
なのに、なのに、
やっぱり、ちょっとうれしい、か、も。
あぁぁぁっ!いや、でもっ、、しょうがなくない!?
僕だって推し達にずっと嫌われてるのは、それがわざとだとしても、やっぱり、辛いんだもん!
そう、僕は普段、4人から嫌われるように、嫌がられるように、精一杯振舞っている。それはもう、一生懸命に。
なぜって?
この世界には
嫌な思いをするほど能力が高くなるという性格の悪いルールがあるからだ。
ゲームの終盤、遺跡の中の石碑を解読することで判明するこのルール。
ゲーム公式発表によると、
この世界にはある特殊なエネルギーか存在していて、それを操れば、様々な現象を起こすことが可能。魔法や、自らの肉体の練磨、高度になると寿命まで弄れるようになるそうだ。
そして、そのエネルギーを操るために使われるのが心の力だ。
心の力とは、逆境に打ち勝ったり、苦難を耐え忍んだりすることで培われる生きる意志の力のことである。
また、苦しみ・憎しみ・恨み・怒りなどの非常に強いマイナスな感情を持つことでぐんぐん育つことが公式で発表されている。
と、まあ、そんな原則があったが故にこの世界は「過去オモこそ強者なり」な心の弱肉強食ワールドになり、「チェロワー」のメインキャラクターは皆、重き過去を背負う事になり……
というか、メタ的にいうと、この原則は、全てのキャラクターに重い過去をつけるための、「チェロワー」開発会社の言い訳である。
そして、そんな言い訳のせいで、「チェロワー」の世界に転生した数々の救済系二次創作夢主は皆、かなりハードモードな展開につっこんでいくはめになったのだ。
残念ながら、僕もそうだよ!!!




