エステ馬車
ドォーンッ ギルドから赤い花火が打ちあがった。
中佐の言ったとおり全員招集の合図、竜脈爆発は小さくない。
「ハーイ、ヴァレンティーナ・バンドール、遅かったわね、待ちくたびれたわ」
メインストリートに入ると一際大きな馬車が道を塞いでいた、盛大に篝火を焚いて小さなテーブルにグラスを傾けている女。
「シェリー・ローズ、こんなところで何をしているの? ギルドに召集がかかったのを見ていないの」
「見ましたワ、それよりワタクシは貴女を待っていましたの」
「私を? なぜ?」
スクッと立ち上がると近くに鼻を近づけてくる。
「やはり!」
「やはり?」
「少々汗臭いですわ!」
「仕方ないじゃない、着替える暇なく走ったのだから」
―― なんだか酷く馬鹿にされた気分。
気付けばシェリー・ローズはやけにさっぱりしている、髪なんてツヤツヤだ、これ見よがしに髪をかき上げる、イヤミな奴。
「ふふん、それでは困りますの、貴女はワタクシが認めた女、みすぼらしい恰好は認めませんわ」
パチンッと指を鳴らす、わらわらとメイドと給仕たちが出てくる、この子爵令嬢は何人お供を連れまわしているのか。
「余計なお世話よ、魔人のことなんて誰も気にしてない、ほっといて」
「そうはいきませんワ、さあ、みなさん、やっちゃってくださいませ!」
「えっ、なに?」
ガシッ メイドに両腕を抱えられると馬車の中に強制連行。
「まずは湯あみでございます、失礼いたします」
「湯あみって? ちょ、ちょっとまって!」
なんと馬車の中にはシャワーとパウダールームまである、驚いているうちに服を脱がされた。
「えっ、ちょっとまって、胸はだめ! 見ないで!」
私の胸には額以上の傷がある、金眼同様に見られたくない。
「これは失礼をいたしました、こちらをどうぞ」
湯あみ着が差し出された。
ローズ家のハウスメドは優秀だ、入浴、洗髪、アロママッサージが始まる頃には気持ちよくてうっかり寝てしまいそうだ。
「どうぞ、遠慮なさらず寝てくださいまし、終わりましたら起こして差し上げます」
そうはいかないと思いつつ、気が付いた時は鏡台の前、美容師やらヘアメイク、ネイルと何本もの手が目の前にあった。
最後のブラシが髪を通った後にドレスアップが始まった。
「意外とサイズが小さくていらっしゃる、もっとお太りになった方がよろしいかと」
―― どこのサイズの話よ?
着せ替え人形のように用意された服に袖を通していく。
白いフリフリのついたシャツ、黒いハイウスストのフレアパンツ、どちらもシルク素材、アウターは黒真珠の輝きを放つビロードのハーフスカートを着せられて出来上がり。
「完成いたしました、シェリー様」
男装の令嬢が出来上がった
あっけにとられたままシェリーのテーブルにちょこんと座る。
給仕がシャンパングラスに発泡する金色を注ぐ。
「さすが男爵令嬢、やはり素材は悪くありませんわね、まあ、ワタクシには及びませんが、ウフフフッ」
「シェリー・ローズ、いちいちこの集団を引き連れてマップメーカーの仕事をしているの? 信じられない」
「どうでしたかしら? 我がローズ家の誇る美容サロン馬車、気持ちよかったでしょう?」
「それは否定しないけど……こんな高そうな服、買い取れないわよ、私の服を返して」
「洗った後届けてさしあげますわ、それよりも気付きませんか?」
―― ええ、分かっている、このメイドと給仕たち、全員が半魔人、魔素の雨の中でも働いていられるのが証拠。
「全員、魔人なのね、集めたの?」
「私もね、貴女ほどではないけれど半魔人の素質があるのよ、残念だけどこの世界で赤毛や角のある子はまだ迫害の対象、仕事も少ない、だからこれは職業訓練の馬車、おわかり? これも子爵令嬢たる私の務めですわ」
「あなたが?……以外」
―― 串刺し令嬢とサロン馬車が結びつかない、どっちが本物?
「ヴァレンテイーナ……ああ、もう長い、やっぱりヒビでいいわね、私の事はいいの、私が言いたいのはビビ、貴女は弟子を取るべきよ、貴女の師匠、S級メスナー氏が貴方を弟子にしたように、赤毛の弟子を取りなさい」
「弟子? A級以上でなければ弟子はとれない、知っているでしょう、私はC級、これ以上昇級するつもりもないわ、だから弟子もとらない」
「ビビ、貴女のC級は虚偽だと皆が知っている、わざと昇級してないだけ、貴女の技術や知識は貴女だけのものじゃないのよ、恩に還元することも考えるべきじゃなくて」
―― ガーンッ ショック! サイコのピアッシング・レディに真面な説教をされている。
「だっ、だったらシェリー、貴女がやればいいじゃない」
「私は美容系だけで手いっぱいですワ、貴女が面倒見てくれないと私の計画の一端が崩れてしまいますの、もう候補生を何人も待たせているのだから」
「なにを勝手に……」
「だからね、今回の仕事でとっとと昇級して私の計画にのってくださいな、さあ、いきましょう」
腕を組むとギルドへと歩き出した。
「何なの、くっつかないでよ」
「ウフフッ、いいじゃない、衣装代よ」
―― わけわからん。




