招集
ギルドへつくと受付のソフィアが私を見て目を丸くした、恥ずかしくて湯気がでそうだ。
隣をみるとシェリーがにやけている。
―― コロス、後で絶対同じ目にあわせてやる!
「二階の会議室よ、皆まっているわ」
―― 待っているって、誰を?
相変わらずガヤガヤと喧騒が渦巻く扉をそっと開ける、忍び込むように腰を低くして会議場の一番後ろに潜り込もうとしたが。
「遅いぞ! 定刻は厳守したまえ、ヴァレンティーナ・バンドール」
―― なんで私だけ?
中佐の一声で注目が一気に集まった、全員がB級以上の強者、C級は私だけだ、ギロリと睨む目力が半端ない、兎の心臓が縮む。
これは怒号の嵐が! 以外にも雑音は消えて注目は前方演台にうつった、登壇したのはギルド長デンジン・セルゲイ、引退しているが元A級だ、ロン毛に髭、ナイスなイケオジだが眼光は鋭く隙が無い。
「そろったようだ、話をはじめよう、今回の竜脈爆発、この街の被害は深刻だ、聖女記念病院に収容された魔素中毒患者は百人を超える、その内半数が重症で危篤状態にある、ほとんどが子供と老人、病院に搬送されず自宅にいる者も含めればもっと多いだろう」
―― やはり予想した状況だ、いや、それよりも悪い。
「魔素中毒の特効薬、黄色琥珀石から作る中和剤が足りない、病院の分だけではなく、ギルドにあった在庫も全てたしても不足している」
「!」
―― やっぱりだ、あくまで中和剤、治癒じゃない、エリクサーほどの効果はない、それさえないとすると……
「ギルド長、要は中和剤を仕入れに行けってことだろ、いいぜ、いくらでも調達してきてやる」
若いマップメーカーが胸を叩いた。
―― 馬鹿ね、そんなに簡単じゃない、そんなことならわざわざ招集なんてかからない。
「中和剤はラインハウゼン共和国、ソーンシティにある聖教会にしかない」
冷たい声が会議場の隅まで響く、バリトンなのによく通る声だ。
「ラインハウゼンだって? 三百キロ以上離れているぞ、でも馬を飛ばせば一週間で往復できるだろ」
―― 季節による、今は……
「金眼のビビ、遅刻の罰だ、答えてみろ」
「!」
―― 目立ちたくはないが仕方がない。
「陸路はもう無理ね、今年は冬が早い、フィッシュ・レイクは強風による大荒れで船がだせない、次に渡れるようになるのは全面凍結した後、あと二か月後になるわ、残るは樹海をぬけるルート、安全な表層域を遠回りすれば往復で一か月、危険な魔獣との戦闘覚悟でいっても半月はかかる」
「フィッシュ・レイクが渡れねぇだと! そんな話聞いてねえぞ」
「ビビの言うとおりだ、今年の冬は早い、まさに今日木枯らしが吹き魔素を吹き飛ばしてくれた、だが同時にフィッシュ・レイクの航路は選択からはずさねばならん、勉強が足りんぞ、若造」
「うっ、すいやせん」
反り返った背中は猫背になった。
「それでビビ、なにか手段はあるか?」
「道はないわけじゃない、でも……」
―― ギルド長は結論にはたどり着いているはず、なぜ私に言わせるの。
「それは……」
口ごもる私に再び全員の視線があつまる。
―― 私の頭にある道は危険すぎる、実行すれば必ず殉職者がでるだろう、言葉にしたくない。
「……やはり樹海の最短コースをいくのがベストだと思う、対魔獣戦闘に長けた部隊を編成して……」
「ビビ! ギルド長はそんな事聞いていないわ」
シェリー・ローズの声が遮った。
―― こいつも知っているの?
「まあいい、ビビ、お前が何を懸念しているかは分かる、ただ、ひとりで運べる量では全員を助ける事はできんぞ」
―― やはりギルド長は同じ答えを持っている、それが分かっていながら……仲間を死地に向かわせるつもりなの。
「もう一度言おう、魔素中毒による重症患者約二十五人、中和剤が無ければその命は十日ともたないというのが聖女記念病院の見立てだ、最短の陸路でも間に合わないのは明白」
「……」
唇を噛んだ、誰の命であってもその重さにかわりはない、二十五人を助けるためにマップメーカーなら死んでいいとはダンテは言わない。
「まだある、竜脈爆発がこれで終わりとは限らない」
「!?」
―― 数十年起こらなかった竜脈爆発がまた起こると?
「今回の爆発はラライダムに接する斜面で起こったと居合わせた漁師が証言している、ギルドで把握している竜脈の道がない場所だ、もちろん我々が知らない竜脈もあるだろう、しかし、こんな大規模な爆発を引き起こす竜脈であれば何らかの前兆が有って然るべきだ」
演台の後ろの地図を示した、ラライ山脈全域の地図、マップメーカーの始まりは数百年前にさかのぼる、積み重ねられた知識の蓄積、
それでも未知なる世界は多い、何も確実なことはいえない。
―― 何が言いたい?
「爆発現場で漁師は死喰鳥の集団を見たとも証言している」
「ラライダムに死喰鳥の群れ? そんな森の浅い所に出るなんて聞いた事ない、本当ですか」
最前列に座る五人のA級マップメーカーのひとり、ガイ・リタは黒髪に日焼けした肌、山岳民族出身であり地球上で最も高い場所、サガル神山の九合目を唯一知る男だ。
「確かだ、証言したのも魔族の猟師、魔素の悪影響をその時は受けていなかった」
「むうっ、だとすれば簡単に調査隊をだすわけにはいかんな、ビビがいうように魔獣戦闘特化の編成が必要だ」
普段から寡黙で無口な男、酒も煙草もやらない、大声を聞いた事もない、黙々と荷を担ぎ誰よも多くの荷を運ぶ、彼こそがシェルパそのものだ。
「どのルートでも魔素の脅威は拭えない、よって今回の作戦には魔素耐性のある者が主体となってもらわなければならん、不平のある者は今の内に前に出よ、直ぐに除名してやる」
「やんなきゃクビとか安い脅しだぜ、いちいち魔素でビビっているようじゃマップメーカーの看板は背負えやしねぇぜ」
ドカッとテーブルの上にブーツを放り出し、背中を椅子に押し付けたのはA級ロッキー・シュバック、上り坂のスピードスター、高度六千メートルまで三時間でかけあがる、銀髪が緩くうねるくせ毛をなびかせたイケメン、性格は豪胆で野性的、第六感で動く天才肌だ。
「だ……そうだが、脱退者はいるか? 途中棄権は認めんぞ」
シンと会場が静かになる、さすがにB級以上、手を上げる者はいない。
「金眼のビビ、ここまでの話を聞いても答えは変わらないか?」
「ほら、早く前で説明してきて」
シェリー・ローズが背中を押す。
「なんで私なの? 皆分かっているのでしょ……ちっ、仕方ない」
C級の私が最後尾から最前列を通りこしギルド長の横に並ぶ、
木炭鉛筆を借りて地図に向かう。
「スタートはサガル神山ドラゴンホーン、八千メートル、一回目のカタパルト加ジャンプはアンナブルナ六千メートル!」
「二回目、カイツー五千メートル」
「三回目、ジェンガ四千メートル」
「四回目、バインダー・レッド三千メートル……そして五回目が最後、マナイタグラ三千メートル!」
ガリリッと木炭を擦って地図に黒線を引く、どの山も最恐と呼ばれる険 峻、その山岳の縁を沿って道を作った。
「むうっ」 ギルド長は目を細めて髭をなでる。
「やはりか」 ガイ・リタは手元にある地図と照らし合わせる。
「クックック、いかれているぜ」 ロッキー・シュバックはニヤリと笑う。
「さすがですワ」 シェリー・ローズはそのデカい胸をはった。
「なんの話なんだ? 俺にも分かる様に誰か説明してくれ」
B級の多くはついていけない。
「各区間の飛行距離は四十キロ、最高速度はどの位を考えている? 金眼のビビ」
最後に立ち上がった男、チリチリのアフロヘア、黒い肌にギョロリと大きな目が地図を睨んでいる、現シェルパ・ギルドのエース、S級にもっとも近い男、マロリー・ニルギリ。
「最高速度はおおよそ三百キロ、総飛行時間は一時間強」
私は各区間にそれぞれ数字を記入していく。
「まっ、まって、飛行時間って……まさか!?」
「理解出たようだな」
「そうだ、ウィングスーツで標高七千からベースジャンプだ!」
「空の道をいく!」




