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竜脈爆発

 高さ百メートル、擁壁長三百メートル、ローマン帝国最大のダム、ラライダムは偉大な先人たちが作った奇跡のダム。

 その恩恵は計り知れない、巨大な水瓶は帝国の都市に飲料水と農地用の水を供給しても余りある。

 さらにラライ山脈の雪解け水、そして夏の豪雨を受け止めて下流域の洪水を防ぐ役割を果たしていた。

 秋から冬、雪解けが始まる春までが最も水位がさがる時期になる、今、ダムの水位は満水時の半分ほど、水面から擁壁の上まで四十メートルはあるだろう。

 それでも毎分数十トンの水をトレンゼ川へと吐き出し、いきつく先は大陸最大の湖、フィッシュレイクへと注ぎこむ。

 

 初冬の風が水面をはしっている、マス漁のシーズンは終わった、これから湖面が凍結するまではコッド(淡水の大きなハゼ)が獲物になる。

 数隻の小舟が弱い風のわりに波立つ浅瀬で網を引いていた。

 「親父! 波が高い、そろそろ潮時だ、引き上げようぜ」

 「馬鹿いえ、このくらいでへばってどうする、今日の儂は絶好調じゃ! どんな波でもどんとこいじゃ!」

 「ああぁ? 腰が痛かったんじゃないのかよ、それより、もうやばいんだよ、周りを見てみろよ、みんな……」

 褐色の肌に赤茶の髪の親子は、魔族の血を濃くひいている、その息子が周囲の異変に気付いた、浮いている船に人影が見えない。

 「あっ、あれ、なんで誰も乗ってないんだ?」

 「むっ、風でおちよったか!?」

「ちっ、違う! おかしいぞ、俺もやけに目が良く見える、これは……魔素じゃないのか!?」

 「むっ、たしかに、じゃあ人族の漁師たちは!」

 「みんな魔素を吸っちまったのか! ヤバイッ、助けないと!」

 親子は網を放り出し漂う仲間たちの船へと急いでオールを漕いだ。

 案の定だ、人族の漁師たちは船の上で昏倒していた。

 出漁していた十数隻のうち、無事だったのは魔族の血を残した親子だけだった、あとの数十人を助けるのに親子は数時間を費やした、幸い死亡した者はいない、必死の救助が報われた。

 魔族の血は魔素を第二の酸素として活用できる、その力を発揮して親子は昏倒した仲間を高台まで担ぎ上げたのだ。

 「親父、無理するな、今はいいが後がきついぞ」

 「なあに、仲間の命には変えられん、この冬は寝て暮らすさ」

 魔素は魔族の力をブーストさせる、しかし、効果がきれた時、一気に反動がくる、両刃の剣だ。

 ザザザッ 「!?」「なんだ?」

 森の斜面を何かが駆け上がっていく、黒い卵型の胴体に短い首と小さな頭、その先にサーベルのような金色のクチバシがある。

 ガッガッ 岩肌を鉤爪が蹴っている、二本の細く長い鋼鉄の足を持つ飛べない鳥。

 「死喰鳥だ!!」

 「なんじゃと!?」

 姿を見た者が少ないのは、森の奥に潜んでいるだけではない、出会ったら最後、生きて帰れないからだ。

視界に入った動く物は区別なく襲い掛かる、相手がヒグマだろうとサーベルと鉤爪で突き刺してくる、群れとなれば尻尾をまくのはヒグマの方だ。

 その死喰鳥が人里近くまで降りてきていた。

 「なんで死喰鳥がこんなところに!?」


 カッ 「うおっ!!」


 森の斜面に閃光がはしった!

 ドドンッ 激しい衝撃音と共に斜面が弾け飛ぶ、青白い爆炎があがる。

 「竜脈爆発だ!!」

 漁師の親子は見た、極度に濃縮された魔素が渦を巻いて蛇のように形をなした! 魔素の蛇は蜷局を巻きながら湖面に充満した魔素を喰いつくし巨大化していく。

 ズオオオオオッ 

 ダム湖の水を巻き上げながら魔素の蛇が天空に向い駆け上がる!

 青く輝く魔素の蛇が雲を突き抜けて立ち上がった。

 まるで冥界の王が天界に向けて放った豪槍!

 「なっ、なんだこれは……」

 「儂の目がどうかしちまったのか……」

 グラリッ 伸びきった蛇から力が抜ける ズズズッ 数千メートルの巨体が傾く! 

 それはダムを越えてトレンゼ川にその巨体を落としていった!

 「ああっ、街の方に倒れちまう!」

 バッシィインッ 高度数千メートルから倒れた魔素が弾け飛び

、豪雨となって降り注いだ!

 魔素のゲリラ豪雨、耐性のない者には毒の爆弾、体力のない者は命に係わる。


 その豪雨はビビたちの上にも降り注ごうとしていた、見えていたのはビビだけだ。

 「なっ、なんでこんな!? アーク中佐、その子たちを屋根の下に! 早く!」

 「今度はなんだ?」

 「魔素だ、魔素の雨がくる!」

 「なに!?」

 ザアアアアッ 音も無く魔素のゲリラ豪雨が街を襲った。

 「中佐! ドアを蹴破れ!」

 「!」

 ドカッ 倉庫の扉を蹴破り、チンピラを間一髪、放り込んだ。

 通りには多くの人が行き交う、この中で魔素耐性がある者が何人いるのか、せめて屋根の下に!

 「魔素だ! 魔素がくるぞ、屋根の下に逃げて!」

 通りに向かって叫ぶが耳を貸す者はいない。

 バタッ 老人が倒れたのを初めに次々に人が倒れていく。

 「くっ!」

 このまま昏倒させておくと本当に死んでしまう、降りしきる魔素の豪雨から昏倒した人々を救い出さなければならない。

 「中佐! シェリーも手を貸して! 倒れた人を屋内に! 耐性がある者に指示して!」

 ―― 私の言葉は聞かなくてもA級のアーク中佐や子爵令嬢のシェリー・ローズの指示は届くはずだ。

 「分かった、疑問はあるが、ひとまず貴様の指示に従おう」

 「ひとつ貸しですわよ、ビビさん」

 「なんでもいい、早くして、死人が出る前に動いて!」

 「それでビビさんはどうするのです?」

 「急ぎの用ができた、後はまかせる!」

 「はっ? まかせるって……」

 「用が済んだらギルドに来いよ、招集には遅れるな!」

 ダダッ 二人の言葉を置き去りにして走り出す。

 ―― この魔素の雨がアマレットの屋敷にも降ったなら、弱っている彼女は昏倒するだけでは済まない、本当に致命傷になるかもしれない。

 アマレットにもしものことがあったら……

 ―― とりあえず自宅の小屋、万が一の備えがある、そしてもう一度アマレットの屋敷だ。

 深く魔素を吸い込むと身体の中の何かが目覚めるのを感じる、まるで馬力が倍になった感覚。

 床が抜けてしまったようだ、アクセルをどこまで踏んでも底がない、過去にも経験はある、でも決まって翌日の朝は最悪だ、激痛で目覚める事になる、分かってはいてもアクセルは緩めない、どんな痛みでも私なら耐えられる、アマレットとディーノが無事なら耐えて見せる。


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