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シェリー・ローズ

 思った通り、チンピラたちは路地裏に誘い込まれていた。

 狭い路地の隅にシェリー・ローズが壁を背中にしている、五人のチンピラはまだ立っていた。

 ―― 間に合った!

 「やめろ! シェリー・ローズ!」

「!?」

 チンピラたちが振り返る、自分たちの状況が分かっていない。

 「なんだ、もうひとりおまけがきたぜ……て、こいつ金眼の!?」

 「ヴァレンティーナ・バンドール、もうっ、意地悪ね、折角のお楽しみだったのに」

 赤く紅をひいた唇をチロリと舌がなめる。

 「シェリー、弱い者いじめはやめな! いい加減に悪い癖は治したらどうなの」

 「あらぁ、この状況のどこが弱い者いじめなの? か弱い乙女が人気のない路地裏でチンピラに襲われようとしているのよ、ここで反撃したからってぇ、誰がワタクシを責められるのぉ、ねぇ坊や、そう思わない?」

 妖艶な蛇の微笑、そうだ、私とソフィアが案じたのはチンピラたちの命、シェリー・ローズの二つ名、ピアッシング・レディとは串刺し令嬢の意味だ。

 「坊やだと! 舐めやがって! ブッ殺す!」

 よく見ればチンピラたちは十代後半、それなりに喧嘩慣れはしているようだが、シェリー・ローズのような本物のサイコパスと比べれば街の喧嘩番長なんて子供だましだ。

 「まって! 私はC級、まずはランキング戦をこなしてもらうわ、まさか女ひとりに全員でなきゃ喧嘩できないって言わないわよね、本当にそうならお笑いだわ」

 中指を立ててチンピラを挑発する。

―― なぜ私がこんなことを!?

また余計に変なイメージがついてしまう、まったく迷惑だ。

 「そこまで言われちゃもう引けないぜ、ボロボロに犯して奴隷商に売り飛ばしてやる!」

 「禁忌の金眼を買う奴隷商なんているもんですか、さあ、いらっしゃい、相手をしてあげる」

 「ちょっ、ヴァレンティーナ、ああっもう、名前が長いのよ、ビビさんでよろしくて? なにを勝手なことおっしゃいますの! 人の玩具を横取りしないでくださいまし」

 「シェリー、だまって! これは貴女のためでもあるのよ!」

 こんなことぐらいでは引かない女だが少し威圧をこめる。

 「うふふ、ようやくらしくなってきましたわね、それでは、ビビさん技、見せていただきましょう」

 「!」

 ―― クソッ、やられた! 誘い込まれたのは私だ! シェリー・ローズ、やってくれる、仕方がない。

 「いいわ、少しだけ、見せてあげる」

 「おしゃべりはここまでだ! 女だからって容赦しねえ」

 ダダッ 殴るのではなく掴みかかり押したおすつもりだ、体重差を生かすのはドロくさい路上の喧嘩では常套手段だが。

 「シッ」 右のローキック! 突っこんできた前足に体重がのった瞬間! ベチンッ 小さく鋭く撓る鞭がチンピラの膝上から太腿の後側まで打ち付けた。

 「あ゛っ!?」

 チンピラの顔が苦痛に歪む、小さく地味な蹴り技、ただ最も痛い、

素人相手にはこれだけでいい。

 「次はだれ?」

 「ざけんなっ、一回蹴られたくらいで! ぐっ!?」

 完璧なタイミングの一発、数分でチンピラの足はパンパンに腫れ上がり、明日には青く私の足型が浮きでる、痛みが引くまでに三日はかかるだろう、それまで足を引きずってもらう。

 「立たない方がいいわ、余計にいためるわよ、さあ次よ、かかっておいで」

 「くそっ! 俺がやる!」

 チンピラ2号は少し大柄で手が長い、ローキックを警戒して無暗に突っ込んでは来ない、ブンブンと私の腕をつかもうと振った手に、私は蛇のように手を絡みつかせる、袖を取ったままバックステップ、グンッ その勢いを床に向けて加速させる!

 グシャッ 「ぐぎゃっ」 つんのめる様に顔から床に突っ込む、鼻が折れた。

 「どう? まだやる? 女でも、C級でも、ランカーっていうのは伊達じゃない、あんたらが喧嘩を売ったB級のお姉さんは、こんな手加減はしてくれないわ、分かっている? 私はピアッシング・レディ、シェリー・ローズからあんたらを助けているのよ」

 「!?」

 「嘘よ、私はこんなに苦しませなくてよ、一瞬で心臓を貫いてあげるもの、痛みなんて感じさせませんわ」

 ―― このサイコパス女は殺すこと前提だ、話にならない。

 残ったチンピラ三人の顔が青くなるが若さが引かせない。

 「ぐくっ、このまま……引き下がれるかっ!」

 スラッ 残った三人が剣を抜いて一線を越えようとする。

 ―― 馬鹿どもめ!

 「あらあら、もう少し見せて頂きたかったですが、ここからは私の出番ですわね」

 カチャリ シェリーの手がレイピアに伸びる、抜かせてはいけない! 「まっ……」 言い終わる前に裏通りを影が埋めた。

 「はっ! ちゅ、中佐……」

 ズズンッ ズズンッ 一歩あるくごとに地響きがおこるような巨人の足取り、シェルパ・ギルドのA級マップメーカー、アーク・アーツ中佐、角ばった顔にへの字口、細く鋭い目に短髪、中佐は軍人であっところの階級だ。

 「……」

 ソフィアに感謝だ、見つけてくれたようだ。

 「金眼のビビ、世話をかけた、借りができたな」

 「殺さないでよ」

 「説教は苦手だ、駄犬のしつけはこれしか知らん」

 私の顔ほどある拳を握って見せる、浮き出た血管がズ太い。

 「ひっ、だっ、アーク中佐ぁ、元はといえばこのB級の女が!」

 バァチィッンッ 「げひゃあっ!!」 

 巨人なりの手加減だろう、拳でなく平手の制裁、本気で打てば人間の頭をトマトのように潰せると聞いた。

 ―― 私が相手をしてやった方が良かったかも、ごめんな。

 自業自得、これも勉強だ、死なずにすめば成長できるかもしれない、それは本人次第、でも二度目は無い。

 

 「シェリー・ローズ、次はないぞ」

 ボコボコにした五人全員を担いだアーク中佐が背中でシェリー・ローズに重い言葉の拳を向けた。

 「うふ、強い男は大好きですワ、いつでもお待ちしております」

 少しも臆することなくウィンクを返す。

 ―― どうにか死人をだすような大事にせずにすんだが……まったく面倒な女だ。

 「私も言っておく、私は仕事でもないのに誰かと遣り合うつもりはない、殺し合いをしたいなら私より腕の立つ奴は幾らでもいる、そいつらに頼むんだね」

 「もぉ、つれないですわぁ、ワタクシはいちファンとして、ビビさんの活躍するところが見たいだけですのに」

 「ファン!? なにを……」


 ゴゴゴゴッ 突然地鳴り!


 「これは……まさか!」

 路地裏から通りへ飛び出して山を見上げた時!

 ドッオオオンッ 爆発音!

 ラライ山脈の中腹、ダムの方向に白い閃光が立ち上がるのが私には見えた。

 「なにごとですの?」

 「竜脈爆発だわ!」

 「なんだと!? 金眼のビビ、なぜ竜脈爆発だとわかる?」

 ―― しまった、見えるとは言えない。

 「それは……」

 「ワタクシもそう思いますわよ、爆発音の前、地鳴りと地震の間にタイムラグがありませんでした、遠くない場所で起きた事を示唆しています、それは地下で爆発が起きた証拠、地を揺らすほどの爆発なんて竜脈爆発以外に考えられませんわ」

 ―― ナイスフォロー、役にたつこともある。

 「むう、ならば近いな、魔素の噴出があるかもしれん、ギルドに召集がかかるぞ」

 「二人は魔素耐性があるの?」

 「ある!」 「もちろんですわ!」

 私の問いに二人は同時に首を縦に頷いていた。


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