第8話 二回目のダンジョン探索
再びダンジョンへと足を踏み入れることを決めた俺は羽衣胡桃ことくるみんと一緒に行動することにした。
今日は一二月七日――日曜日だ。くるみんと出会ってから次の日である。
俺はくるみんとの待ち合わせ場所に行く。待ち合わせ場所といっても俺の家の門の前だ。
「おはようくるみん」
赤いダウンジャケットを着たあと、愛用のダガーナイフを二本腰に携えて門の前にある階段を下りつつリムジンから出てきたくるみんに挨拶をする。
くるみんはピンク色のチェスターコートを着ていた。少し目立つ服だがよく似合う。
「今、昼の二時だから、こんにちはなんですけど」
くるみんは髪に手を通しながら応えてくれた。
「俺は今起きたから俺の世界では今が朝だ」
「何言ってんだが、こいつどう思う浅井」
くるみんはリムジンの運転手に乗っている茶髪のポニーテールの女性に声をかける。切れ長目でしっかり者という印象が見受けられる。年齢は20代前半といったところだろうか。
「胡桃様の言う通り、ニートのカスですね」
「うんうん」
浅井はとんでもないことを言い、くるみんは激しく彼女に同意してた。
「昨日会ったばっかりの人間の悪口よくねぇよ!」
「ブルーは今あれなんだよね、話し相手すらいないから私が羨ましくて怒ってるだけだもんね」
「そ、そ、そ、そんなことねぇし! け、結構連絡先とか知ってる人い、いるし!」
別に羨ましいとは思ってないが俺はしどろもどろになってしまう。
「だから、私が相手してあげるわけ。私って優しいでしょ」
「さすがです胡桃様、あまりにも慈悲深い」
くるみんはドヤ顔を見せ、浅井は涙ぐむような仕草をしていた。
くっ! なんかこいつらに腹立ってきたぜ!
「お前んちのリムジンパクるぞ!」
「運転できるの? リムジン」
「…………」
くるみんの質問に言葉を詰まらせてしまった。
そんな俺の様子を見たくるみんは口端を吊り上げてきた。
く、くるぞ! なんかマウント取り出すぞ! そんな予感がする。
「免許持ってないの?」
「免許はあえて取ってないね、あえてね、ほら東京だしここ」
「山に住んでて何言ってんだこいつ、そういえば私免許持ってたっけ」
くるみんはコートの内側をまさぐって財布を取りだす。
ま、まさか!?
「あ! 免許! 持ってたわ!」
彼女はてへぺろ顔で普通自動車免許を見せてきた。
「クソが! ぬおおおお!」
俺は悔しさのあまり地団駄を踏んだ。
「雑魚が」
彼女は勝ち誇りながら免許を服にしまった。
「俺も取ろうと思ったら取れるし!」
「なに当たり前の言ってんのよ、ほらさっさとダンジョンに潜る準備するぞ」
「防具身に着けるだけだろ」
「うちの会社が開発した服あげるから使ってよ」
「え? うちの服?」
俺が戸惑っていると浅井という人がリムジンから下りて赤い革製のジャケットを渡してきた。
普通に高級そうな皮服に見えるんですが。
俺はくんくんと服の匂いを嗅いでみた。
「「犬か」」
二人に小さい声で突っ込まれてしまった。
「これ防具なんだろ? 軽いな」
俺はダウンジャケットを脱いで皮服を着た。
触った感触からしてプレートのようなものが入っている気がするがほとんど重さを感じない。
とりあえず着てみよう。
「どうだ似合うか?」
俺は腕を広げて着た服をくるみん達に見せる。
「似合うかって……モデル気取りか、ふっ」
くるみんは俺を嘲笑ってた。
「なに鼻で笑ってんだくそが、つーかこれ本当に防具になるのかよ」
「それうちの会社の新事業で出来たものよ。アパレルメーカーと共同で作った試作品で性能は悪くはないわ」
「へぇ、軽い素材で防御力めちゃ強いとか?」
「ブルーのくせによく分かったわね。カーボンナノチューブっていう特殊素材で作られた服よ。まあ入っているプレートはセラミックなんだけどね」
今、くるみんなんて言ってたっけ? 着てる服をぺたぺたとずっと触ってて話聞いてなかった。
適当に反応しとこう。
「この素材って町でよく見かけるのにすごいな。食べ物とかにも使われてるんだろ」
「…………? は?」
くるみんは思わず口を開けてしまった。俺の発言がおかしかったらしい。
適当に喋ったからおかしいとは思うんですけどね。
「胡桃様、この人もしかして?」
「ええ、ただの馬鹿」
くるみんは目を薄めてこちらを見ており、浅井さんは可哀相な人を見る目でみてきた。
「とりあえず、くるみん黙れ」「お前が黙れ」
くるみんは食い気味で返事してきた。
「じゃあ私も装備を身に着けようかしら」
くるみんはそう言って、浅井から愛用の杖とローブを受け取り身に着ける。さらに昨日は見かけなかった黒いブーツも受け取って履いた。
物語で聞くファンタジー世界のダンジョンなら金属製の鎧や兜を身に着けてたりするだろう、しかし現実は違う、科学的に開発されたダンジョン用の防具が流通されており、若者からお年寄りまで着れるようにするために防具としての機能だけではなくファッション性も有しており、見た目は私服と変わらなくなってきている今日この頃。
「では胡桃様御武運を」
「まあ大したダンジョンじゃないし、そもそもあのダンジョンのボスは私が倒したし、ほんと雑魚」
「さすがです。では天裂のお守り頑張ってください」
「ふぁーい」
くるみんは浅井に対して気が抜けるような返事をした。
「お守りするのは俺の方じゃね」
浅井がリムジンで去っていく中、
「そんなわけないだろ」
くるみんは一言で反論してきた。
その後、俺達は適当な話をしながら山を登り昨日きたダンジョンの前へとたどり着く。
「それはさすがに嘘」
「ほんとだって! 鳩がそうめんをつゆに付けて食べてたんだって!」
くるみんが俺の話を頑なに信じようとしない中、ダンジョンを警備しているインカムを身に着けている男に近づく。
「今からダンジョン探索ですか」
「ええ、あと非覚醒者の同行者を連れて行くわ」
くるみんは男に応じながら財布から探索者証明書と呼ばれるカードを出す。
単独でダンジョンに入ってもいいという証明ができるだけではなく身分証明書にもなるカードだ。
カードを受け取った男はスマホをカードに当てた後インカムで誰かと話し始めた。
今男がやっていることはスマホでマイナンバーカードを読む仕組みと一緒だ。スマホの電磁によってカード内のICチップが起動し、スマホにデータが映る。そしてそのデータとダンジョン協会にあるデータが整合性取れてるか確認する。
「羽衣胡桃さんですね。確認が取れたので大丈夫です」
「よっしゃ、ブルー行くぞ」
「ほいほい」
俺達は軽いノリでダンジョンの入り口へと向かう。
「あ! お二方ちょっと待ってください」
「「?」」
警備員に呼び止められ後ろを振り向く。
「ちょっとした注意喚起がありましてダンジョンの近くに人が通れる抜け穴が見つかったんで調査をした結果、どうやら昨日、人が一名通ったのが判明したのでダンジョン内に不届き者がいるかもしれません。注意してください」
俺は彼の言葉を聞いて口を真一文字に閉じてしまった。
昨日抜け道を使ってダンジョンに不法侵入した男。
まあ、俺しかいないよね。
「………じー」
くるみんはわざわざ擬音語を口に出しながら俺の方をじっと見てきたのでそっぽを向いて知らんぷりした。
というか警備員の前でそんな真似するな。ばれるだろ! 俺が不法侵入だってばれるって!
俺はなんとかその場をやり過ごしながらダンジョンへと入っていく。
ダンジョンの入り口は様々だ。今回、洞窟が入り口となっているが、廃ビルの入り口だったり、使われなくなった地下室や、ときには海の底だったりする。基本的にダンジョンは人がいない場所に出現する。そして、洞窟の中だからといってダンジョンの中は洞窟とは限らない。石造りの部屋だったり、ときには森や雪原のフロアも出現したりするし、ダンジョンの広さは構造物から想像ができないほどに広い。
地球上にありながら物理現象、自然現象を無視して形成されるのがダンジョンだ。つまり地球上にありながらダンジョン内は地球とは異なる法則が働いているということだ。
色々と考えながら、俺は再びダンジョンに足を踏み入れた。




