第7話 長い一日の終わりだ
俺達は去っていくぬいぬいともっちーちゃんの背中を見送る。
「行っちゃったな」
「ま、機会があればまた会えるでしょ」
少し名残惜しさを感じつつも俺はくるみんを連れて家に上がることにした。
金属製の門を通り、二階建ての家の玄関を開ける。玄関は横開きだ。
「ザ・日本家屋って感じの家ね」
「まあな、ちょっと災害のときには怖いけどな」
「お金出して耐震性上げたらいいじゃん」
「お金があったらな!」
俺達は会話をしながら靴を脱ぎ、床に足を踏み入れる。
部屋はリビングとキッチンを除くと五つある。二階には部屋が二つあり、残りの部屋はリビングとキッチンがある一階にある。
玄関を出て左側の廊下を進むと横手に空き部屋が一つあり、反対側にはトイレがある。さらに奥へ進むと、また空き部屋がある。右側の通路を進めば右手にはキッチンと繋がっているリビングと左手に部屋がある。そして二階を上がると通路の両側に部屋があり、そのうち一つが俺が寝室に使っている部屋だ。
俺はくるみんに家の構造について話すと、私が住む屋敷じゃないけど広めの家ね。誇りなさいとか抜かしてきた。くるみんの親が凄くてくるみんは凄くないよと言ったら嫉妬乙と一蹴された。
「これがコンビニ弁当ですか」
くるみんは目を輝かせながらハンバーグ弁当を両手で持っていた。俺達は今リビングにいる。
「コンビニ弁当知らないのマジか」
「見たことあるけど、食べるの禁止されてた」
俺は驚き半分呆れ半分の感情でくるみんを見ていた。
一方、くるみんは弁当を開けずに容器を見ていた。
「そのまま食べるなよ、電子レンジで温めた方が美味いから」
「それぐらい知ってる」
「本当かよ」
俺は電子レンジでのり弁当とハンバーグ弁当を温めた。
温めてる間、くるみんが電子レンジの中を覗き込もうとするので彼女をからかってやろうと思い「電子レンジに近づいたら、電磁波で気を失ってしまう」という嘘をついたら、「そんなわけねぇだろ! 仕組み知っとるわ、てか使ったことあるわ」と杖で頬を突かれた。普通に痛かった。
「ほら、遠慮はするな俺が温めてやった弁当だぞ」
「なんか食う気なくすな」
「勝手に家に上がっといて失礼極まりないぜ」
くるみんは温まったハンバーグ弁当をまじまじと見ていた。手を仰いでテイスティングしていた。
何やってんだこの子はと思いながら俺はのり弁当をパクパクと食べ始めた。そのうち、くるみんは「いただきます」と言ってハンバーグ弁当を食べ始めた。
「くるみん、一つ聞いていいか」
「待って、初めて食べるものだし、集中したいの黙ってて」
「お、おう」
くるみんは真剣な眼差しでハンバーグを頬張っていた。
そしてハンバーグをじっくり食べたあと、「なるほど」と呟き、矢継ぎ早に喋り始める。
「練り物感がつっよ、水分調整されてるせいもあるけど、形を保つために使われているでんぷんが原因だね。子供でも老人でも食べれるようにしてるわね。これが大衆が食べる弁当ってわけね」
彼女は独りでに分析し始めた。
「急に頭良さそうな感じ出しやがって」
「頭いいもん」
くるみんは鼻を鳴らして当然よと言わんばかりの態度をみせた。
調子に乗りそうだからどこの高校の名前とか聞かないでおこう。普通に良いところ通ってそう。
「で、聞きたいことってなに? 真面目な話」
「俺にしては真面目な話だぜ」
「真面目な話できるんだ……」
「なに意外そうにしてんだ、ふざけんな」
俺は吹き出しそうになりながら抗議する。
「いいから早く言え」
「はいはい」
俺は一呼吸してから思ったことを口にする。
「くるみんとは出会ったばっかりだけど、なんのメリットもなしに俺と組むとは思えない。モンスターと非覚醒者の俺を試しに戦わせる異常者っぷりを考慮しても、それだけのために俺と組む気がしないんだ。俺の特異体質何を見出した」
「誰が異常者だ。てか考えすぎじゃない? 案外、疑り深いね。隠すようなことじゃないから言うけど、理由は三つある」
「わりとあるな」
「話続けていい?」
「どうぞどうぞ」
俺はのり弁当を食べ終わりそうだ。
「一つはブルーには再生能力がある。それが体の一部を消し飛んでも大丈夫かは定かじゃないけど、最初に私がブルーを見たときにはほとんど体が叩き潰されていたわ。コボルトに死ぬほど叩かれてたわけね」
「は!? マジで!? 気を失ってたから叩き潰された記憶がないな」
てかそこまでやるかよ。モンスター怖い。
「マジマジ。さすがの私も死んだと思ったけど、目で見て分かるほどに出血が治まってたし、潰れた体も治っていったわ。死ににくいブルーが戦って私が回復させる。そしたらブルーは強くなるし、私達、覚醒者は魔力を使えば使うほどコアが鍛えられるから私も魔力の強化が見込める」
「俺に毎回死にかけろってことか!」
「うん!」
くるみんはニッコリと笑う。
「異常者! 異常者!」
「無断でダンジョンに入った違法者! 違法者! モラルの欠如!」
「生きるためにはお金が必要で……ええっと、たまたま家の近くにダンジョンができて……」
俺はしどろもどろになってしまう。
「勝った! で話を続けるね」
くるみんは勝ち誇りながら二の句を継ぐ。
「二つ目はブルーが特異体質でありながら発展途上の実力者だから、まず私ぐらい強くしたいと思う」
「なんで?」
「私の見解だけど、苦戦しなければ戦闘力は上がらないと思う。それは二戦目のコボルト戦が証明してるし、私と戦って強くなって私と同じぐらい強くなったとするでしょ」
「うんうん」
俺は素直に首を縦に振って頷く。
俺が強くなるのはとても魅力的なプランだ!
そもそもくるみんの実力は知らないが基本的に探索者になる人は若くても18歳だ。まだ魔力自体は強くないと思うが、なんせ世界初の4属性の魔法を扱える人間だ。探索者としての実績はないが実力はあるだろうな。
「で、強くなられたら絶対、私ブルーに対してムカつくでしょ」
「想像しやすいな悔しがってるところ」
「でも私と同等の強さなら相手にとって不足ないし、ブルーは同等の強さの相手と戦っても強くならない。私がブルーと戦い続けてコアを成長させてさらに強くなる。そして強くなった私はブルーをボッコボッコにする。そしたらまたブルーは強くなるでしょ。お互いに強くなり続ける無限ループってわけ」
「俺に恨みでもあるの? でもいいなそれ。ただ一つ見落としがあるぜ」
「はい? 何よ見落としって?」
くるみんは怪訝な顔をしながら首を傾げる。
「俺がくるみんの強さを追い越して、くるみんが俺に歯が立たないという状況だ。圧倒的強さで勝負にすらならなくてくるみんは強くなることすらできないって状況があるかもなぁ!」
「そんなことあるわけねーだろ!」
と言い放ちながらくるみんはハンバーグ弁当を食べ終えた。
「根拠をいえ根拠!」
「生まれてからそう決まってんだよ!」
「滅茶苦茶言ってるぜ」
俺はやれやれと両腕を広げる。
「で最後の一つは? 俺と組むメリットまだあるんだろ」
「面白そうだから」
「お、それってもしかして俺を褒めてる? こいつとおったらおもろいわぁ! みたいな感じで」
「特異体質が面白そうだからです。勘違いおっつ~」
くるみんが口を尖らせて精一杯煽ってくる。
「う、うぜぇ……! じゃあ次は俺のメリットを語ろう」
「聞くまでもないわ、私のおかげでお金を稼いで生活ができる、暇も潰せる、強くなれる、そんなとこでしょ。弁当ありがとう、ごちそうさまでした」
彼女は早口でまくしたて空になった弁当箱をゴミ箱に捨て、そのあと、玄関へ向かう。
「帰るのか?」
「うん、さっきスマホでリムジン呼んどいた」
さすが有名製薬会社の養女だ。
俺は玄関を出てくるみんを見送ることにして、後日会う約束を取りつけた。
良くも悪くも……悪くはないか、とにかく俺の人生が変わる予感がしてる。
正直、ダンジョンには興味があった。未知の財宝、未知の現象、未知の場所……考えるだけでわくわくする。




