第5話 ワクワクしてきたぜ
談笑している最中、ぬいぬいがくるみんに声をかける。
「羽衣はどこに行ってたんだ、ダンジョンの最深部に潜ったあと、いなくなってたよな。視聴者がずっとくるみんどことか言ってたぞ」
言葉から察するにレクイエムの連中はくるみん含むインターン生を引き連れてダンジョンで配信してたらしい。
「つまんないダンジョンだからさっさと上に戻っちゃったよん」
くるみんは悪ぶれる様子もなく、杖を片手で器用にくるくると回してた。
おお! 手先から肩まで杖を転がして……上に投げたぞ! なにその場でターンしただと!
くるみんは上に投げた杖をその場でくるりと回転しながらキャッチしていた。その間にぬいぬいは、
「モラルのないやつだな。才能は世界が認めてるかもしれないが、事務所に所属するなら守るべきコンプライアンスがあるぞ」
「インターン生はもっと伸び伸びとしてる方がいいと思うけどね」
「……一理あるな」
ぬいぬいよっわ! 何、簡単に言い負かされてるんだ。
そのあと、くるみんは再び杖を投げて、背中の後ろでキャッチしていた。
器用な子だ。
裁縫とか料理とか意外と上手いに違いない! 俺の偏見だけどね!
俺が無意味なことを考えてると望岡天使こともっちーちゃんが俺の顔を覗きこんできた。
「ブルー君どうしたの?」
「くるみん器用だから他のことも色々できそうだなと思って」
俺の言葉を聞いたもっちーちゃんが何かを思い出したのか口元を嬉しそうに歪めていた。
「そういえば今日の配信を始めたときにインターン生が書いたアンケートを紹介してたんだけど、くるみん、得意なことに『この世の全て』って書いてて面白かったな~」
「この世の全て!? そこまで大きく出られると呆れを通り越して関心するぜ!」
「ブルー君なら、なんて書く?」
「俺なら『あの世の全て』って書くね」
「ごめん意味わかんないです」
もっちーちゃんは吹き出しそうになりながらも、渾身のボケを否定してきた。
「あっ、そうだそうだ、おいブルー」
口調は荒いが歩幅が小さいのでてくてくと可愛げのある歩き方してきたくるみん。
「どうした、くるみん、恋の悩みか?」
「恋愛経験ないくせに何言ってんの」
「そ、そ、そ、そ、そんなの分からないでしょ!、てかなんの様だよ」
俺は全身の毛穴から汗が噴き出る。
「めちゃくちゃ動揺してる……それより今からぬいぬいと戦ってよ、戦いたいでしょ」
「なんでやねん! 戦いたくねーよ!」
意味の分からないことを言ってきたので突っ込んでしまった。
「ブルーとやら、あんた強いのか? 魔力を感じないが……」
ぬいぬいがジロジロと品定めをするかのように見てきた。
「ちょい待ってくれ、俺は今日ダンジョンに初めて潜ったんですよ! ハハハ! ぬいぬいと勝負だなんて……全くこの子は昔から変なこと言い出すんですから」
俺は困惑しながらもぬいぬいからくるみんに視線を移す。目つきを鋭くして彼女を見て、何言ってんだお前と無言で伝える。
「ちょっとこっち来て」
すると、くるみんは今いる場所から少し距離をとる。
「お、おう?」
俺は彼女に呼ばれるままについていく。他の二人には聞かせたくない話なのだろうか。
「ぬいぬいと戦ったら凄いことになると思わない? お兄さんの特異体質で」
なるほど、こいつの狙いが分かったぜ。
「俺がぬいぬいと戦ったら、もしかしてぬいぬいに追いつく強さになるから楽しいんだろ!」
俺はズバリとくるみんの考えを言い当てたつもりだが、
「はぁ?」
彼女は顔を顰めていた。
「なに歌舞伎の人が決めポーズとるときに見せる顔してんだよ」
「どんな例えよ、あのね、どんだけ強くなるか面白そうぐらいは思ってたわよ。でもな、一戦交えてどれくらい強くなるかは分からないけどぬいぬいは無理じゃない?」
「まあ……流石に無理か、ぬいぬいともっちーちゃんは世界に三千人しかいない二属性の魔法持ちなうえに千人しかいないフォーススコアの到達者だもんな」
覚醒者には魔力を生成して溜めれるコアという器官がある。
コアの強さはァーストスコアからシックススコアまでの六段階に分類され、コアの等級は魔力量、魔力の放出量、魔力の密度によって決定される。
さらに各コアはレベル一からレベル九まで細分化されている。ファーストスコア・レベル一が最も弱く、ファーストスコア・レベル九の次がセカンドコア・レベル一となる。
コアは魔力を使えば負荷がかかり、その負荷から回復する過程で成長する。才能ある覚醒者なら数年でコアを一段階成長させられるだろう。しかし、才能に恵まれないものは何十年鍛えようと次のコアへ到達できない。
多くの覚醒者のコアはサードスコアで限界を迎える。何故ならコアが成長するにはコアが限界まで成長した状態で大量の魔力を循環させることが必要であり、サードコアから先は成長に必要な魔力量が飛躍的に増加するからだ。
故にファーストスコアからサードスコアの覚醒者は全世界で500万人いる覚醒者の九九・九%を占める。つまり、ファーススコアに到達できるのは一握りであり、もっちーちゃんとぬいぬいは世界に千人しかいないフォーススコアの到達者だ。
よく考えたら、俺が特異体質だとして、ぬいぬいに追いつくと考えるのは不自然だ。
「どっちにしろ戦わないからな! 戦う理由がない!」
俺は思っていることを吐露した。
「ちぇ!」
くるみんは大きく腕を振って悔しそうに指を鳴らした。
「ま、でもくるみんのおかげで俺の人生で光が見えたよ」
「はぇ?」
くるみんは素っ頓狂な声を出して首を傾げていた。
「俺、今年大学卒業して、無職だったからな! この強さがあればFランクダンジョンは潜れるんじゃないか? 食い扶持を稼げるぜ! そしてくるみんの言うことが正しかったら、俺もっと強くなるかもだろ……なんか久々にワクワクしてきたぜ!」
「つまり探索者になるの? まあ、それしか生きる道ないもんねー!」
「やかましいわ!」
くるみんは口元を抑えて俺を笑うフリをしていた。
「じゃあ特異体質専門の認定試験受けないとね、魔力がない探索者は何十年もいないけど前例はあるから、試験は受けられるよ。それで探索者の証明書手に入れよう」
なんだかんだ面倒見いいなこの子。
「ありがとうなくるみん、色々教えてくれて」
「どういたしまして~」
それとなく感謝すると、彼女は軽く応えてきた。
俺達は話を終え、もっちーちゃんとぬいぬいのところへ戻る。
ぬいぬいと目を合わせると彼は腕を十字にしてストレッチをしながら口を開く。
「ブルーとやら、今から俺とやるか?」
「やりませんよ!」
彼は俺と戦う気満々だった。
「そうか残念だ」
「俺なんかと戦ってもつまらんって」
「そうは思わんな、お前からは魔力を全く感じない……おそらく緻密な魔力操作が成せる技だ」
魔力がねーんだよ!
「魔力操作上手いとと思うよ」
くるみんが口を挟んできたうえに出鱈目言ってる。こいつ俺に魔力がないことを知ってるくせに悪乗りが過ぎるぜ!
「くるみん、大人を茶化すなよ」
「ごめんなさい、暇人を茶化してしまったわ」
彼女は両手を合わせて舌を出してウィンク……つまり、てへぺろしてた。
――――パシャ!
俺はそんな、くるみんをスマホで撮った。
「お、おい! ブルーて、てめえ! 殴り倒すぞ!」
「口わるっ!」
「盗撮盗撮!」
指をさして非難してきたが俺は意に介さない。
「くるみんの写真、ファンには高く売れるだろうな~」
「売るな!」
くるみんは俺のスマホを取ろうとするので彼女の手をなんとか掻い潜っている。痺れを切らして魔法を使ったら盗られそうだが。
そんな俺達を楽しそうに見ていたもっちーちゃんはくるみんに近づいて声を出す。
「そうそう、くるみん結局どうしちゃうの? レクイエムに来る?」
「んー?」
くるみんは俺から目を逸らし、もっちーちゃんがいる方に方向転換する。
彼女は腕を組んで思案しているようだった。
「…………国内最大手の事務所レクイエムね……楽しそうだよね」
くるみんはぬいぬいともっちーちゃんを一瞥し、最後に俺の方を見たのであった。
何か言いたげだな。




