第4話 有名な探索者だ、いつも配信見てます
俺と少女はダンジョンの奥から聞こえる数多の足音を聞き会話を止める。
俺はしばらく警戒していたが、人々が談笑する声が聞こえて安心する。
「ということで今日のインターンはここまで! みんなお疲れ様! またね!」
「「「お疲れさまでした!」」」
この声の主たちはきっとダンジョン配信事務所に所属している人だろう。ダンジョンをインターンで使うってことは新人の何かしらの研修に違いない。
「もう戻ってきたわね」
口を開いた少女は杖の先を地面に置き、杖の頭に両手のひらを乗せて、さらにその上に顎を乗せていた。
すっかりリラックスしているようだ。
「知ってる人達?」
「一緒にダンジョンに潜った人達」
「仲間ってわけか、同じダンジョン配信事務所の」
「なんで倒置法でしゃべってんねん」
「なんで関西弁やねん」
ツッコミの応酬を繰り広げていると、多くの人達が俺達のいる部屋に現れた。10人以上いるな。
「うお! ゴブリンの死体だ!」
「さっきたくさん見たし、もうそんな珍しくないでしょ~」
若い男女が騒いでいると黒髪セミロングヘアで高身長の男が口を開く。
「人が倒したモンスターには手を出すな、それがうちのルールだ。どれだけ高価な素材でもな……規律を重んじろ」
「「は、はい!」」
男女は高身長の男に窘められて体を強張らせていた。
彼は首元に黒い毛皮がついた黒色のジャンパーを着ており、白いズボンを履いていた。防具は身に着けておらず、探索者にしてはラフな格好だが、刀身が波打ってる二刀の剣を持っている。有名なダンジョン配信者だ。俺もよく、彼の動画や配信を見ている。名前は影縫琥斗。年齢は二二歳で同い年だ。影のある男の雰囲気を醸し出している。
そして彼の所属している事務所も有名だ。国内最大手のダンジョン配信事務所レクイエムに所属しており、彼はそこで三番手の実力を有している。
「君、レクイエムに所属している子だったの?」
俺は少女がレクイエムに所属している配信者だと思った。
「違うよ~ん」
あまりにも気の抜けた返事をしやがったので俺はこけそうになった。
「今はレクイエムでインターン中だよ。今回、レクイエムがこの低級ダンジョンにおしかけてきたのは、スカウトした人達を連れて大人数でのダンジョン攻略を体験させてるってわけ。もうそういう時期でしょ? 大学や高校卒業する覚醒者達をどの事務者も欲してるわけ」
「いいよなぁ! 向こうから就職先が振ってくるなんてなぁ!」
無職の俺は勝手に自尊心が傷つき、少女に共感を求めていた。
「ひがむのだっさ、あとお兄さんと私を一緒にしないで」
今の話から推測するにこの子もスカウトされたってわけか。
「でもダンジョンに潜れるのは義務教育終えた子だけだし、一応、どの事務所も一八歳未満は入れないはずだけど、君まだ子供でしょ?」
俺は明らかに中学生だと思う少女に対して疑問を投げた。
「私、今月のクリスマスイブで一八歳になるんですけど……え、なに? タイマン張る?」
少女は俺にジト目を向けながら喧嘩を売ってきた。
今日一キレてる気がする。地雷ワードを言ってしまったらしい。
「ま、まあ落ち着けよ……あれだよ、幼く見えるってことはつまり可愛げがあるってことだ」
「そんなもん知ってっし」
「フォローしてやったのに、こいつ……! ってあれはもしかして……!」
再び怒りで拳を震わせてた俺だがレクイエムに所属しているであろう一人の女性を注視してしまう。
間違いない彼女は二〇歳にしてレクイエムで四番手の実力者の探索者、望岡天使だ。俺と同じキラキラネームの持ち主というわけだ。ファンの間ではもっちーやエンジェルちゃんなどと呼ばれている。ちなみに俺はもっちーちゃんと呼んでる。
背中に毛先が届く長さの茶髪と茶色の瞳を有しており、頭に赤いカチューシャを身に付けている。端正な顔立ちをしており、麗しい雰囲気を身に纏っている。また、スタイルもよく首元からつま先まで綺麗な流線を描いていた。
彼女は防具として胸当てを身に着けており、腰に刀を携えていた。
「あ! くるみん!」
もっちーちゃんは俺の横にいる少女に向かって口をひらく。キラキラネームに苦労してる気持ちが分かるので。ただ、もっちーちゃんはそれを逆に武器にして生きている節はある。配信映えする名前だからね、自分の武器にしたくなるのかもな。
「やっほ~、エンジェルちゃん!」
少女は俺に見せたことない目一杯の笑顔をエンジェルちゃんに向けた。
「もうくるみんどこ行ってたのっ」
エンジェルちゃんはこの子のことくるみんって呼んでるな。
俺は少女の方を見ると、昔の記憶が呼び覚まされた。
そうだ俺はこいつを見たことがある。一時期テレビに出ていた有名な子だ!
彼女が有名になったのは彼女が中学卒業と同時に覚醒者の検査を受けたことに起因している。
「あー! おま、おま、お前! 人類初の四属性の魔法を扱えることでテレビで引っ張りだこだった子じゃん!」
俺が驚く様子を少女は特に気にしていないようだ。それが何か? と言わんばかりの顔をしている。
「確か名前は……コオロギ! クルミ!」
「羽衣 胡桃! ふざけんなおっさん!」
「おっさんじゃねえよ! くるみんこっわ」
「気安く呼ぶんじゃねぇ……!」
俺と少女は視線を合わせて火花を散らす。
「くるみんのお友達?」
「いやその辺で転がってたおっさんよ」
「そしてこれは転がってたおっさんを拾った、やべー女、羽衣胡桃ことくるみんです。おっさん好きの変態かもな」
俺がくるみんに向けて指をさすと、彼女はジト目を向けてきた。
「あはは、面白い。お名前なんて言うんですか?」
お、俺、今! あ、あのもっちーちゃんに話しかけられている!
緊張で冷や汗が出てきたぜ!
このままだと冷や汗でナイアガラの滝ができちまう。
俺は動揺を隠しながら淡々と名乗ることにした。
「苗字は天裂といいます、ちなみにもっちーちゃんのことは初配信から見てました、配信見れる日は必ず見てます! なんなら地球が滅びるまで見るつもりです」
「ふふ、かっこいい苗字ですね」
「苗字イカつ」
もっちーちゃんはおしとやかに笑い、くるみんは淡々と感想を述べていた。
「で、名前は?」
くるみんは俺を見上げてぶっきらぼうに尋ねる。
ついに名前を言うときが来てしまったか!
よし言うぞ!
「草かんむりが付く難しい方の蒼って漢字分かる? 色の青じゃない方」
俺は指で蒼という漢字を手早く宙に書く。
二人に蒼という漢字が伝わったらしく、うんうんと頷いていた。
「えっと、蒼と書いてブルーと読みます」
俺は真顔で事実を述べた。
「お兄さんもキラキラネームなんですね~なんか嬉しいかも」
「絶対親ヤンキーでしょ」
「それは偏見だろ! 大体俺に親なんていないぜ、血の繋がってない人たちに育てられたからな」
「くるみんと一緒ですね」
「そういえば、昔くるみんがテレビで映ってたとき、無駄に家庭環境世間の人々に晒されていたな」
確か、くるみんって名家の養女よな。かなり大きな会社だったはず。なんか製薬会社の社長の一族みたいなことをテレビで放送されて、一層話題になっていたな。
「馴れ馴れしく呼ぶなブルー」
「お前も馴れ馴れしいわ」
「私、お兄さんのことブルー君って呼びますね」
二人の女性は俺の名前を気安く呼んでいた。
「なにをしている望月」
盛り上がっていると影縫がやってきた。ちなみに彼はファンの間ではぬいぬいと呼ばれている。俺もそう呼んでる。
「「「あ、ぬいぬい」」」
俺達は反射的に彼の愛称を口にしていた。
「………なんだ、あと……お前は見ない顔だな」
ぬいぬいは俺を気にしていた。
「気にしないでください、あといつも配信見てます」
俺は彼に見つめられて気まずいなと思いながらも暗に応援していることを伝えた。
「そうか、俺はあまり面白いことは言えないが楽しんでいってくれ」
「ぬいぬいは面白いですよ、一昨日の配信、ミノタウロスを単独で倒したあと、解体してるときにもっちーさんに蜘蛛を模した玩具を傍に置かれて腰抜かしてたじゃないですか」
俺の言葉を聞いて、もっちーちゃんはぬいぬいさんから顔を反らして、吹き出す。
「くっ……あれを見ていたか、くそ屈辱だ! おいもっちー! ああいうことはもうやめろって言っただろ」
「ぬいぬいのファンが喜ぶのに~」
ぬいぬいさんだけが気まずい顔をしており、俺達は笑みをこぼしていた。
こうやって話してみると皆気さくだなと思った俺であった。




