第19話 旧友との再会
今、向かっているDランクダンジョン――渋谷迷宮は渋谷川の近くで見つかったらしい。
渋谷駅の再開発に伴って渋谷川が移設工事の真っ最中であり、その際に流路と接続された巨大空洞が発見されておりそこがダンジョンへと繋がるゲートとなっていたらしい。
俺達は渋谷川の工事現場へ行き、ダンジョンを警備している者から通行許可を得た。
ゲートの付近には新たに見つかったダンジョンを潜ろうとしている多くの覚醒者達がいた。
「五〇人近くいるな」
「配信用のドローン持ってる人も多いわね」
「というか俺ら以外のグループは配信しながら潜る感じだな」
周囲を見渡すと配信用の球型ドローンと映像投影用の箱型のドローンが地面に置かれてたり宙に浮いてたりする。映像投影用のドローンは視聴者のコメント欄を反映させるのによく使われている。
「いた……エデンの連中」
くるみんはゲートに一番近い場所にいる一団を見る。
そこには女の子一人に男性が四人いた。
「あれは……ゆいちゃんじゃね……!」
俺は視界に入った女の子の愛称を口にする。彼女の名前は皇結菜。女子高校生探索者でエデンで四番手の実力者だ。ピンク色の髪と瞳を有している子だ。ツインテールであどけない顔をしている。幼さの残る丸みある顔立ちをしていて、リスナーからはゆいちゃんと呼ばれてる。俺もそう呼んでる。
超高速戦闘を得意とする彼女はダンジョンに潜る際には白を基調とした袖なしコートを羽織り、その下には黒いタイツを合わせている。軽快な機動力を重視した装いだった。
「よりにもよって結菜か……はぁ……」
と言うくるみんはため息を吐いていた。
そう言えばこの子、有名な女性探索者達とグループチャットがあるって言ってたな。
「ゆいちゃんと仲悪いのか」
「仲は悪くないよ、この前二人で遊園地行ったし今週の日曜日二人で遊園地行くし」
滅茶苦茶仲良いじゃん。ほんと、女の子って千葉にある遊園地が好きだよな。
「ベストフレンドじゃねえか」
「言い過ぎ。でも彼女も私も15歳のときに覚醒が確認されて以来、世間から注目されてたからな。色々と話す機会があったんだ。私は三属性の魔法を使えて、彼女は稀有な空間属性の魔法を使って視界内ならどこだって瞬間移動できるからね」
「……本当は五属性の魔法を使える癖に」
「しーっ!」
くるみんは俺の言葉を遮るように人差し指を唇に添えていた。
「まだそれは公表すんな、黙って」
「はいはい」
苦笑交じりに返事をした。
「じゃあなんでさっきはため息吐いてたんだ」
俺は違和感を覚え、首を傾げた。
「覚醒者として結菜は私をライバル視してるの。こういう場ではことあるごとに勝負を挑んでくるからため息吐いたの」
「配信で見た通りアグレッシブな子なんだな。でもなんかその苦労分かるわ」
「無職に勝負挑むライバルいるわけないじゃん」
「いつまで無職いじり続けてんだ」
俺とくるみんは視線を合わせて互いにジト目を向けていて無言で威嚇しあったのだが、
「ん……?」
すると、視界の端に見覚えのある人物がいたような気がしたので再びゆいちゃん達の方を見る。
気付けば、一団の人数が一人増えていた。
「あいつもいたのか」
俺は今、現れた男性に注目する。
あいつのことは知っている。エデンで3番手の実力を誇る男だ。名前は夜刀神クロ。リスナーからはくろっちと呼ばれているが俺は彼を珍しく愛称ではなくクロと下の名前そのままで呼んでいる。彼は白を基調としたハイネック戦闘服を身に纏い、下には戦闘用スラックスを履いていた。
クロは武器は持たない。彼の使う魔法そのもので武器が作れるからだ。
「あれ夜刀神クロじゃない? 金属を生成する魔法を使う覚醒者ね……で、ブルーの反応からしてくろっちと知り合い?」
「クロとは小学校、中学校同じだからな。よく知ってるちゃ知ってる。高校生になってから会ってないけどな」
クロの存在で俺はバツの悪そうな顔をする。
「仲悪いの?」
「さっきくるみんの苦労が分かるって言っただろ。その原因があいつ、あいつがよく俺に勝負挑むんだ」
俺は顎で黒を差す。
「え、くろっち、ブルーをライバル視してるの? 人気ダンジョン配信者が大学卒業してふらふらしてる男をライバル視!?」
「やかましいわ」
くるみんが目を丸くしていたので俺は突っ込んだ。
「子供の頃の話だ。事あるごとにクロは俺と勝負したがる。学校のテストといい体育の時といい。俺も乗せられやすい性格だから毎回、勝負に乗っていたけどな。ただあいつが覚醒者に目覚めてから勝負を仕掛けてこなくなったな。そもそも高校から学校違うから会う機会もなくて俺が黒と同じ土俵に立てなくなったからな」
「俺も乗せられやすいって何、まるで私も乗せられやすいみたいじゃん」
「乗せられやすいだろ。くるみんなんかちょろいちょろい」
「は~~! 怒った。えい」
くるみんは口をへの字に曲げて杖で脛を殴ってきた。
「全然痛くない」
俺にはノーダメージだ。さすが強靭な肉体。
「こんにゃろう!」
「ぶっ!」
今度は杖の頭にある三日月の部分で顔面を殴ってきたので思わず口から空気を噴き出した。
「おまっ! 顔面狙うやつがあるか!」
「この程度ならノーダメだろ」
「まあな。でも俺は何があっても女の子の顔面は殴らないぜ」
君とは違うんだ君とは、というところを見せる。
「当たり前。殴ったら最低って言う」
「なんて理不尽な世の中なんだ」
この子滅茶苦茶だぜ!
俺達が騒いでたせいか周囲の人達がチラチラとこちらを見ていたがすぐに興味を無くして各々、ダンジョンに潜る準備をしていた。ただ、ゲート付近にいるエデンの一団は違った。
エデンのゆいちゃんがくるみんを見て駆け寄ってきていた。
「あ! あ! 胡桃じゃん!」
ゆいちゃんは笑顔だった。
「やっほ、結菜」
「え! もしかして本格的に探索者になったの! やった」
「まあ、そんな感じ」
「え、嬉しい。よろしく」
ゆいちゃんは手を差し出して握手を求める。くるみんは握手に快く応じていた。
「でこちらのお兄さんは誰?」
「ゆいちゃんのファンです。後でサインください」
ゆいちゃんに顔を向けられた瞬間、俺は思ったことを言った。
「え、嬉しい。いいよサイン書いたあげる」
「よし、今日の目標は果たした帰るぞくるみん」
「おいこら」
とくるみんが吐き捨てながら杖で殴ろうとしてたので俺は片手で受け止めた。
「結局、二人はどういう関係?」
ゆいちゃんは小さく首を捻った。
言われてみれば、俺とくるみんの関係ってなんて表現したらいいんだ。
俺はくるみんと目を合わせる。
(協力関係?)
と口パクで喋るとくるみんは悩ましい顔をしていた。
どうやら違うらしい。
(じゃあ、相棒?)
今度は得心したような顔したぞ。どうやら戦友がしっくりきたらしい。
俺達はゆいちゃんの方を向き直す。
「こいつは私の使い魔よ」
「は?」
とんでもないこと言い出したぞこいつ。
「使い魔!? つまり召使い?」
ゆいちゃんは怪訝な顔で喋っていた。
「そう召使い」
「黙れ」
俺は食い気味にくるみんに反発した。
すると、クロも近づいてきてゆいちゃんの隣に立つ。
彼は目を丸くして俺の方を見てる。
「くろっちどうしたの?」
ゆいちゃんは不思議そうな顔で黒の顔を覗き込む
「お前、天裂蒼か」
「知り合い?」
「同じ小学校同じ中学で九年間クラス一緒だったやつだ」
「そうなんだ! あ、こっちの女の子知ってるでしょ羽衣胡桃」
「ああ、メディアで何度か見た顔だな」
クロはゆいちゃんとの会話を切り上げ再び俺の方を見て返事しろよという視線を向けてくる。
「俺はブルーじゃないぜ」
「なにどういうことだ!」
俺はふざけることにした。クロは目に見えて驚いていた。
「人間の細胞は日々、新しく生まれ変わる。つまりお前の知っているブルーはもういないぜ!」
「なにとんちめいたこと言ってんだよ! このふざけた態度と意味の分からんこと言ってるあたりこいつ確実にブルーだわ」
クロは呆れたように肩を竦めながらも、口元は緩んでいた。
ゆいちゃんは「あはは」と笑っており、くるみんは「はっ」と息を吐くように笑っていた。




