第20話 世界に存在が知れ渡るときがきた
クロとゆいちゃんを交えて話しているとスマホにダンジョン協会から渋谷迷宮の入場を許可するメールが届いた。
現状、ダンジョン協会のデータベースには俺は探索者であるくるみんの付き人として登録されているので俺にもダンジョン協会の通知がくるわけだ。
「くろっち行こ~」
「ああ」
ゆいちゃんに声をかけられたクロはダンジョンに潜り始めようとする。二人はゲート近くにいる三人と合流して配信を開始していた。おそらく他の三人は同じ事務所のスタッフだろう。付き人として非覚醒者の配信を管理するスタッフが一人、ファーストスコアクラスの護衛兼荷物持ちが二人いる感じかな。
全世界で覚醒者は五〇〇万人いる。そして誰しもが際限なく強くなれるわけではない。コアがファーストコア止まりの人もいる。そういう人達はダンジョン配信事務所では裏方として働くことがある。また、仕事をしながら探索者を副業として稼ぐ人もいる。生き方は人それぞれというわけだ。
……ってあれ? 俺はなんであの二人がファーストコアで一人は非覚醒者ってことが分かったんだ。
「なあ」
俺は横にいるくるみんに声をかける。
「何?」
「俺、魔力感じ取れないのに周りにいるやつらがどれくらいの強さか分かるようになってるわ」
「なにそれ、オーラ的なものでも見えんの?」
俺は首を横に振る。
「視覚的になんか見えるわけじゃねえ。なんとなく感じ取れるんだ。例えば、エデンの連中の近くにいる三人組は全員サードコア程度の強さを持つ。俺達の前にいる男女五人は一人がサードコア、四人がセカンドコアだ。どうあってる?」
自分の感覚があっているかの確認をとる。
「合ってるよ」
あってるらしい。
だが、くるみんから感じ取れる強さは異質だ。
「くるみんだけおかしい感じするけどな。セカンドコアなのにフォースコアに近い……あそこにいるゆいちゃんとクロに迫る強さを感じ取る」
俺は魔力を感じ取っているのではなく本質的な強さを感じ取ってる気がする。
くるみんは世界で唯一の三属性の魔法持ちかと思えば五属性だもんな。
「ふーん、それよりさっさダンジョン潜ろうぜ~」
「へい、へい」
俺は二つ返事をしてダンジョンに向かうくるみんについて行く。すでに何組か配信しながらダンジョンに入ってる。いつのまにかエデンの連中もいなくなってる。
歪んでる空間――ゲートを通ると周囲の景色が一変し、正方形の空間へ出る。壁、床、天井には石が敷き詰められている。渋谷迷宮1階層は石造りのダンジョンだった。前方には二本の通路がある。
「どっち行く?」
俺はくるみんに行き先を尋ねる。
「右の通路」
「ならあえて左に行こうぜ!」
「いいよ!」
くるみんが満面の笑みで返事して右の通路に入っていきやがった。
左の通路に入ることを同意したくせに!
「嘘つき嘘つき!」
俺は冗談交じりにくるみんを非難しつつくるみんの後に続いた。
「ふざけた真似しやがって」
俺はくるみんに野次を飛ばす。
「ふざけてんのはおめーだよ」
互いにからかい合いながら一〇〇メートル以上奥行きがありそうな広い空間にでると数組の探索者がおり、奥にはアイアンナイトというモンスターがいち、に、さん……じゅう……二三体もいるな。
アイアンナイトは全身を鋼鉄の甲冑で覆われている騎士型モンスターだが、内部に肉体は存在しない。胸部に収められた魔力の核こそが本体であり、それを破壊されたときだけ活動を停止する。
アイアンナイトは微動だにしない。こちらの様子を窺っているのだろうか。
俺はドローンによって宙に映し出されてる配信画面とリスナーのコメントを見る。
『アイアンナイトだ!』
『結構数多くね』
『くろっち!がんば~』
『ゆいちゃんぐうかわ』
『アイアンナイトの正体は胸部装甲の内部に格納された魔力核によって稼働する擬似生命体であり、甲冑自体は外殻に過ぎない。金属製の外殻は高い防御力を誇り、生半可な打撃や斬撃では有効打を与えられない。腕や脚を破壊することで機動力を低下させることは可能だ』
『モンスター博士どこにでもいるな』
『俺、将来アイアンナイトになりたい!』
それはエデンの配信画面だった。七万人のリスナーが視聴しており溢れんばかりのコメントが流れていた。
にしてもモンスター博士ってほんとどこにでもいるな。モンスター博士は有名なリスナーだ。モンスターが現れる度に辞典のようにモンスターの攻略法を言っている。
「ブルー行くわよ。今、アイアンナイトを蹴散らす。結菜達よりも早く」
「炎上しそうだな。まあいいぜ、なんか面白そうだし乗るぜ」
「大丈夫、炎上なんかしないから」
俺とくるみんは前線に躍り出てクロとゆいちゃんらと肩を並べる。
「あ! おっそい! 胡桃!」
ゆいちゃんはくるみんに絡む。
「うるさ、口元にメガホンつけてる?」
「つけてないよ。それよりどっちが多くモンスターを倒せるかで勝負しようよ」
二人の絡みでコメント欄がさらに加速する。
『くるみんじゃね!?』
『この二人接点あったんだ!』
『口元にメガホンは草』
『くるみん早く配信デビューしろ』
『くるみんぐうかわ』
『なんかてぇてぇ』
『元気系と生意気系のコンビめっちゃ良き』
配信活動はまだしてないもののくるみんはリスナーの間では知る人ぞ知る人物。そのせいかリスナー同士は盛り上がっている。
「下がれブルー、羽衣胡桃はともかく、魔力がないお前が前に出ていい場所じゃないぜ」
クロは腕を広げ前方を遮る。
「お前の言う通りだな。後ろに下がるぜ!」
俺はクロの腕の下をくぐり前に出る。すると一体のアイアンナイトがゆっくりと歩いてきた。
「下がってねえじゃねえか! しかも一体反応してる」
クロは慌てふためいていた。
『言ってることとやってることが真逆で草』
『魔力がない人間は下がれ』
『おいおい、あいつ死ぬぞ』
リスナー達は俺を窘めている。
「ブルー、かましてこい」
背後からくるみんの声がしたので肩越しに視線を合わせ、
「いえーい!」
後ろの人達に向かって、手のひらを自分側に向けたままピースサインを作った。そして、駆け出す。
「「「なっ!」」」
くるみん以外は驚きの声をあげていた。きっとコメント欄も騒然としているに違いない。
「待てブルー! 何する気だ」
クロは追いかけてくる。彼は二属性の魔法を使える。金属を生成するとこのできる金属属性の魔法と肉体を強化する強化属性の魔法だ。彼は優れた身体能力ですぐに俺に追いつくが、
「馬鹿な! 俺と同等の早さだと……!」
俺もさらにスピードを上げる。この一週間ダンジョンに潜ってモンスターを倒してきただけじゃない、劇的に成長するには実力の近い相手と死闘を繰り広げる必要があるため、俺はくるみんと戦い続けた。はっきりいって常軌を逸した修行方法だったが、そのおかげで俺とくるみんはまた強くなれた。
俺とクロは並走している状態になっていた。また、スタッフが操作する映像投影用ドローンも俺たちを追ってきてたが俺達に追いついてない。
俺はコメント欄を一瞥する。
『ファ!?』
『魔力を隠してたってコトか!?』
『くろっちは肉体強化の魔法を極めてないとはいえ凄くね?』
コメント欄はずっと驚きっぱなしだ。
「どうなってる! 魔力を感じないぞ!」
「俺、足早いんだよね」
「お前の中学時代の五〇m走の記録は知ってる! いたって平凡だったはずだ!」
「きもちわる! なんでそんなこと覚えてんだよ!」
そういやスポーツテストでも勝負挑まれまくったな。
『なんか草』
『同級生かよw』
『にしてもブルーなんて名前の探索者聞いたことないな』
『この人おもしろくて好きかも』
『フォースコアクラスと並走できる実力なら有名になると思うんだが』
『こいつ何者だ』
リスナーが俺の正体を探ろうとしてる。
「いや……もうお前の力の正体はなんだっていい! 今のお前は戦える力あるんだな!」
「あるわけないだろ」
「嘘つけ! お前はいっつもそうやってはぐらかす! 戦え俺と! どっちが多くのモンスターを倒せるか勝負だ!」
あーあ、クロに火が点いちまった。こうなるとは思ってたが。
だが……勝負事は嫌いじゃない。
「じゃあまずは前にいる一体をどっちが先に倒せるか勝負だ」
「へっ! 楽勝だぜ!」
「あっ! なんだあれは!?!?!?」
俺はいきなり大きな声で叫び横を指さす。
「え!」
クロは俺に釣られて指の先を見る。
「あばよ!」
「あ、てめえ!」
俺はクロがよそみした瞬間に全力で地面を踏み込んで前へと跳ぶ。俺の方に向かって歩いていた一体のアイアンナイトの前に到着すると同時に右拳でアイアンナイトの甲冑を貫き、中にある魔力核を握りつぶした。
魔力核を無くしたアイアンナイトの甲冑はバラバラになりながら崩れていった。
『一撃で倒しやがった!』
『てか素手で倒したのすごっ』
『面白いし強いし推しになりそう』
『かっこいい……』
俺は奥にいるアイアンナイトと距離をとるために背後に下がる。
これで俺のことが七万人のリスナーに知れ渡った。
きっと配信が終われば、いや今この瞬間に俺のことが人々に知れ渡るだろう。
もう後戻りはできない、俺はこの未知で危険と冒険が広がる世界に足を踏み入れたんだ。
・あとがき
以上で一旦完結させていただきます。
元々、公募に出していた作品です。執筆した分を公開しました。
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