第17話 今後の方針を練ろう その3
轟矢さんは先程と打って変わって真剣な面持ちになる。
「さて……そろそろ本題に入るかね。用件は事前に聞いているが改めて伺おう」
轟矢さんに応じようとくるみんが口を開こうとする。しかし、俺はくるみんに対して手のひらを向けて代わりに喋ると暗に伝える。
俺が探索者になるための頼み事でもあるから俺から喋るのが筋だと思った。
「えっと、自分とくるみんが知性種と戦った映像は見ましたか?」
「しかと拝見した。あの獣人と戦っている君は最初はまるで戦えてなかったが戦いの最中に身体能力が益々、向上しているように見えた。歴史上に存在していた特異体質の中でも目を見張る成長速度だと感じたね」
これはきっと褒められてるんだな。
「見ていただきありがとうございます。話は聞いてると思いますが日本ダンジョン協会の会長に知性種の脅威を伝えるために直接取り次いでほしいのです」
「会長とはビジネス上の付き合いがある。取り次ぐのは簡単だ。それにメリットもある、今やダンジョンで採取採石できるものはこの星の資源となっている。もし知性種が増え、活動的になれば経済的打撃を受ける可能性もあるのでな」
そういう考え方もあるんだな。考えてみればそれはそうだろうって話なんだけどそこまで頭が回らなかったな。
にしてもこの人さっきまで一瞬、むせび泣いてた人と思えないんですが。
「ブルー君よ私からも頼みがある」
「え、あ、はい」
思わず俺は体を強張らせる。俺に頼むってことはそんなに難しいことじゃないよな、多分。
どうしよう、度胸を見せるためにロープウェイを素手で渡ってこいって言われたら。
「娘と仲良くしてやってくれ、そして全力で守ってくれ」
「私ブルーに守られるほど弱くないけどね」
真摯な眼差しを向けてくる轟矢さんに対してくるみんはあっけらかんとしていた。親の心子知らずとはこのことか。
「くるみんには無職から救ってくれた借りがありますし、それに一緒に活動する以上そのつもりですよ」
俺は思っていることをそのまま口にした。
「その言葉が聞けて良かった」
「この人は今も無職だけどね」
「私もそう思うけど、今はそんなこと言う場面じゃないよ」
真面目な父親と違ってくるみんは茶化してきた、その上あやねんは俺をフォローしてるようでフォローしていない。
俺はふと壁にかかっているアンティーク調の壁を見た。時刻は朝八時一五分だ。
あれ……てか今日月曜日だよな。俺はくるみんとあやねんを視界に入れて口を開く。
「二人とも今日学校じゃないの?」
「「あっ」」
二人は思わず声を漏らしていた。
「私、講義1限目だからちょっと準備してくる。またね、ブルー君」
「おうおう」
あやねんは手を振って部屋から出ていった後、俺はくるみんと視線を合わす。
「私は全然学校忘れてないけど、そろそろ準備するわ」
「嘘つけ忘れてただろ」
「忘れた証拠ないじゃん」
「なんだよ忘れてた証拠って、滅茶苦茶だぜ。そんなもん提示できるわけないだろ」
くるみんはふんっと鼻を鳴らして部屋を出て行こうとするが扉に差しかかった辺りでこちらを振り向いてくる。
「ダンジョン協会に行く日が分かったら連絡するから、あと平日は私の学校帰りに合わせて渋谷駅にいてレクイエムの企画の日までなにするか話すぞ」
「何時ぐらいに渋谷にいればいいんだよ」
「一六時一五分に授業終わるから、その時間には待機しといて、2、3分で駅に着く」
「いいところに学校あるな」
「まあね~まったね~」
くるみんはふんふんと鼻を歌を鳴らしながら去っていく。なぜか機嫌がいいらしい。
その後、俺は轟矢さんにお暇を告げて自宅へと帰ることにした。
育ての親から家や土地を譲り受けたものの現金は少ないので俺はダンジョンを潜って得た薬草、鉱石、皮、骨等を換金することにした。これらは世間一般ではダンジョン資源と呼ばれる。
益々、くるみんに頭が上がらないな。あいつのおかげで生活できそうだ。
家に着いた俺はパソコンを立ち上げてダンジョンで得たものを買い取るサイト――ダンジョン資源回収業者のサイトを開いてダンジョン資源を売ることにした。
というか気味が悪いから倒したモンスターの皮やら骨をさっさと売ろう。
俺はサイトでダンジョン資源の納品申請をしたあと、業者へ引き渡すために資源を梱包する。
大手ダンジョン配信事務所だと梱包するためだけに人を雇ってると聞くな。
作業を終えたあと、俺はリビングのソファーに座って天井を見上げる。
「低級ダンジョンの資源とはいえ量が多いから、3万ぐらいになるだろ」
ほんとくるみん様々だな、あの子が召喚魔法で異空間から物を出し入れできるから多くの物を運べる分、ダンジョンの資源を多く持ち帰れる。
俺は天井から自分の腕に視線を移す。
力こぶを作って自身の上腕二頭筋に服の上から触れる。
「自分の体じゃないみたいだ」
筋肉が想像の倍ぐらいある感じがする。服の上から腹筋を触ると立派なシックスパックができていることが分かる。
「戦えば戦うほど成長する特異体質つっても人間の体が魔力無しで肉弾戦するには限度があるだろ……」
俺は自分の考えを口に出して整理していた。
「魔力がある人間はステゴロでもサバンナに住む動物に勝てる人はいるが魔力が無い人間が純粋な筋力だけで勝てるわけないしな、俺の体には俺の知らない何かがあるのかな……まっ、なんでもいいが俺の戦いに利用させてもらうぜ」
拳に意識を集中させてヴァルグを殴ったとき、ヴァルグは10メートルぐらい吹っ飛んだ。得体の知れない力が俺の中にある……気がする。
とりあえず俺はソファーで横になり、くるみんと待ち合わせの時間までゴロゴロすることにした。
――――それから、その日の午後一六時半。
俺とくるみんは渋谷駅近くのカフェにいた。
アンティーク調の内装で落ち着いた雰囲気を醸し出しているカフェだ。
「いい雰囲気のお店選ぶじゃない」
店内のソファーに座ったくるみんは辺りを見渡した後、テーブルの上にある紅茶が入ったティーカップを手に取って口につける。
「ふっ……まぁな。俺は無職で時間が余っている分、都内どころか日本中の観光地やお洒落スポット、人気店から隠れ家的なお店も知っているんだぜ」
俺は得意気に自慢にもならないことを自慢した。
「まだ22歳で良かったね。それで一回り二回り歳食ってたら、お前やばかったよ。てかそうなる可能性はまだあるな」
「何怖いこと言ってんだよ、でも全然怖くないぜ」
「どっちだよ」
嫌な未来を想像しちまったぜ。
「じゃあ今日は今からダンジョン潜るわよ」
俺はティーカップに入っていたミルクティーを飲んでいたが吹き出しそうになった。
「今からかよ」
「嫌なの」
「そんなわけないだろ。ヴァルグとの死闘を経て強くなった自分をさっさと試してみたいと思ってたぜ」
俺は口端を吊り上げて笑ってみせる。くるみんはそんな俺を見て鼻で笑い、口を開く。
「戦闘狂め」
「そんなんじゃねえよ。ただ純粋に強くなった自分を試したいだけ」
「じゃ、今後の予定を言うわね。クリスマスイブイブの企画に参加するまでの予定を言うわね」
「おう」
くるみんが鞄からスケジュール帳を出して開く。俺は普通にくるみんの一二月中の予定を見る。
「なにジロジロ見てんの」
俺の視線の動きに気付いたくるみんは口を尖らせていた。
「別に今週の日曜日に友達と一緒に千葉にある遊園地に行くなんて知らねえよ」
「しっかり見てるじゃん」
「案外、女子高生らしいことしてんな。性格が尖りすぎて友達いないかと思ったぜ」
「お前と一緒にすんな」
「うるせえよ」
俺達は軽口を叩き合った後、本題に入った。




