第16話 今後の方針を練ろう その2
羽衣家の応接室で話し合った結果、あやねんが俺達の仲間になるのは事務所設立してからということになった。そのためにはまず知名度を上げつつ稼ぐ必要があるが、くるみん曰くそう難しいことじゃないらしい。ちなみにあやねんは学業を優先するために裏方に徹したいらしい。
「私がすでに持っている知名度、そしてブルーの特異体質を世間に知らしめたら、収益を得つつ有名になることも可能だと思う、多分ね、おそらくね、きっとね!」
「めちゃくちゃ予防線張ってるじゃねえか」
流石のくるみんでも不安らしい。
「仮に収益化できなくても、ダンジョンを探索して未知の魔道具や特殊な植物やら鉱石を得たり、倒したモンスターの素材を売れば稼げはするしな、もしかしたら凄いお宝を手に入れることもできるかもしれない」
「それは希望的観測すぎるし、そもそもそれでお金を手に入れても結局、収益化しないと事務所を立てる意味ないからね。ダンジョン潜ってない間も寝ながら稼ぎたいでしょ」
「確かに!」
俺はくるみんに同意した。
「もうちょっと考えてから喋れ」
なんか軽く怒られてしまった。4歳下の子に怒られたわ。
よく考えたらいつも怒られてる気がするわ。
「知名度上げたいなら二人ともこれに出れば? これ、ネットで配信もするらしいわ」
くるみんの横にいるあやねんはスマホを操作しており、何か見つけたのかスマホをテーブルの上に置いて画面を見せてくれた。
「「レクイエムの人達と一緒に東京メインダンジョンに潜ろう! 今年もクリスマスイブイブに東京メインダンジョンの踏破済エリアに潜るぞ! 探索者募集中!」」
俺達は画面に見える一番大きな見出しを読む。
そういえばこの時期、いつもそんなイベントしてたな。日時は二〇二五年一二月二三日か。
まあ無職の俺は暇だけど、二人はどうだろうか。
「二人とも出れる?」
俺は二人の予定が空いてるか確認する。
「その日は火曜日でしょ? 私、実験の必修科目あるからいけないわよ。そもそも大学サボる選択肢ないし」
「え~、お姉ちゃんきてよ」
「一回でも実験休んだら留年するって! 姉を留年させる気か!」
どうやら妹の方しかこれないらしい。
「むぅ~、しょうがないブルーと二人で行くか」
「なんで不服そうなんだよ」
俺は口をへの字に曲げるくるみんにジト目を向ける。
とりあえず、話はまとまったので俺達は応接室を出てくるみん達の父親と会うために移動する。
「東京メインダンジョンに潜るまで鍛えなきゃな」
歩きながらくるみんに声をかける。
「今の私達でも低階層は余裕でしょ」
「昨日の死闘のおかげだな」
俺は東京メインダンジョンについて考える。俺達が昨日潜ったダンジョンはサブダンジョンと呼ばれており、東京の新宿にある超巨大迷宮である東京メインダンジョン以外はサブダンジョンと呼ばれる。なぜメインダンジョンと呼ばれるかというと、日本に最初に出現したダンジョンだからだ。
そして、未だに未踏破ということと大規模であることを踏まえて世界三大ダンジョンの一つとも呼ばれてる。階層は推定一〇〇階以上あると言われており、1階1階が広大な広さを誇る。ちなみに七二階層まで踏破されているが、ここ20年で60階層を超えたものはいない。
そもそも、一チームしか七二階層までしか到達してない。そしてそれは九条厳が率いるパーティであり、彼らは引退し別の職に就いている。
ちなみに世界三大ダンジョンのうち他の二つは、アメリカのラスベガスにあるラスベガス・アビス、エジプトのネクロポリス・アビスだ。ラスベガス・アビスは82階層、ネクロポリス・アビスは六五階層まで踏破されているらしい。
考えごとをしているうちに執務室の前に着いたようだ。
これから巨大企業の社長に会うわけだが、
「俺、髪型大丈夫かな? 眉毛とか良い感じの角度かな? ニキビとかない? 美肌ローラー使おうかな」
不安になったので俺は両横にいる二人に身嗜みを確認してもらう。
「見た目はいつも通り終わってる、肌硬すぎて美肌ローラーとか使ったらぶっ壊れると思う」
「しばくぞくるみん、壊れるわけないだろ」
生意気な小娘だぜ。
「自分の姉を見習え、くるみんと比べてまともな受け答えができてるぜ」
「ブルー君、跳ねてる髪切ってあげるよ」
姉の方は姉で頭がどうかしてるらしい。召喚魔法でハサミを召喚してきやがった。
「前言撤回、皆どうかしてたわ」
「お、ま、えに言われたくない~♪」
くるみんは小気味よく執務室のドアを開ける。というか突然開けるな。
「やっほ、パパ~」
「おはよう、パパ」
くるみんとあやねんは執務室に入って中にいる父親に挨拶をする。彼女らに続いて俺も部屋の中に入る。
執務室の机に座っていた黒髪オールバックの男は立ち上がる。細身だが鋭い眼光の持ち主だ。彼こそが羽衣製薬の社長であり、くるみんとあやねんの父親である羽衣轟矢だ。
今年で五八歳と聞くが四〇歳ぐらいに見えるほど若々しい。
「おはよう、胡桃、彩音」
轟矢さんは娘たちに挨拶を返す。
俺も挨拶を返さねば。
「初めまして、天裂蒼と申します」
「初めまして羽衣轟矢だ」
俺は轟矢さんと握手を交わす。
「娘からは色々聞いてるよ」
「ははは……何言われてるか怖いですね」
俺はくるみんの方を一瞥する。彼女は舌を出してすっとぼけた振りをしていた。
絶対良くないこと言ってるよこの子!
「娘には大学に行ってほしいが、探索者に専念したいらしいのだ。胡桃は物心着く前に私達が養女にした子だ。三人姉妹の末っ子でもあり、ついついわがままを聞いてしまうところもある。親として甘いという自負があるが、彼女の意向を組みたいと思う」
「そうですか」
俺は再びくるみんを一瞥する。だから、こんな生意気……じゃなくて我儘に……駄目だ言葉を選べない。だから、こんな風に育ったのか。
「何よ、何かいいたげね。だから、こんな生意気で我儘で悪辣で卑怯だと思ってるんでしょ」
「そこまで思ってねえよ!」
「パパ、ブルーが虐めてくる」
「何も言ってねえだろ」
「仲が良いな君たちは、はっはっ」
轟矢さんは愉快そうにしていたが、すぐに真面目な顔になる。
「でブルー君、娘とはどういう関係かね」
「どんな関係って言われても出会って三日ですよ」
「いや私はこう思うね。元々私の知らないところで交流を深めていて、対面はしていないもののネットで仲良くなってそして三日前に出会って、二人の仲は進展して、うわあああああああ!」
急に早口で喋り始めたと思ったら、俺とくるみんのやり取りしてる想像をするのが耐えきれなくなったのか叫びながら懐からハンカチを取り出してハンカチで目を抑えていた。
…………めちゃくちゃ娘、溺愛してるタイプだったわ。まあ良いことか。それに一企業の社長と知って緊張していたが、こういった裏の顔を知ればリラックスできるってもんだ。
「親父さんいつもこうなの?」
姉妹はうんうんと頷いていた。
「取り乱してしまった。すまない、しかしブルー君、私は泣かすほど追い詰めるとは中々やるな」
「何もしてないですけどね」
勝手に絶叫してただろ。この親にしてこの子ありってことだな。
「ブルー君、この親にしてこの子ありと思っているだろ」
「はい」
「正直でよろしい」
簡単に心を読み取ってくる親子だ。怖いので正直でいることにした。
「てか、パパ世間話長いって」
「うむ、そうだな」
くるみんが父親に本題に入るように促す。
俺はその間にあやねんに話しかける。
「てか三姉妹なんだ」
「うん、お姉ちゃんはアメリカの大学院に進学してるけどね」
「アメリカの大学院とか凄いな。やっぱり薬学系?」
「いや、ブルー君と一緒だよ」
「理学系か、まあ理学を学んでも俺は無職だったんですけどね」
「実力不足なのかな?」
「やかましいわ」
俺はあやねんに突っ込んだあと、轟矢さんが咳払いしたので顔を向ける。
暗に本題に入るぞと伝えているようだった。




