第14話 羽衣姉妹
俺はくるみんをお姫様抱っこし、なんとかダンジョンから脱出した。道中、モンスターと遭遇したがヴァルグとの戦いで戦闘能力が向上した俺は蹴りのみでモンスターを倒した。
「長い戦いだったぜ……お、警備員だ」
「お、お疲れ様です! 大丈夫ですか⁉︎」
独り言を言っているとダンジョンの外にいるダンジョンの警備員に声をかけられた。
「俺は大丈夫だけど、こいつが……」
俺は抱えてるくるみんを確認するとスヤスヤと寝息を立てていた。全然無事そうだな……心配はご無用だ。
こいつが俺の腕の中で寝るなんてよっぽど疲れてたんだな。
「く、胡桃様!」
前から慌てながら走ってくる女性がいる。くるみんの付き人である浅井さんだ。
「き、貴様! 胡桃様に何をした!」
「何もしてねぇよ……誰が好き好んで社長令嬢を昏睡させるかよ」
俺は呆れつつ、くるみんの様子を窺う浅井さんを見守る。
「ふわぁ……浅井じゃん、やっほー」
騒いでたせいでくるみんが目を覚ましたのだろう、目を擦りながら浅井さんに声をかけていた。
「ご無事ですか」
くるみんはコクリと頷いたあと、俺と目を合わせる。
「寝心地はどうだった? 眠り姫さんよ」
「ふっ、なにギザな台詞吐いてるのよ。そういうのは二枚目が言う台詞だから」
彼女は吹き出しそうになりながら言葉を返してきた。
「あれ? 俺、二枚目じゃなかったけ!」
俺は首を傾げてすっとボケる。
「お前、家に鏡ねぇだろ!」
「い、言い過ぎだろうが!」
言葉という名のナイフを投げつけられた気分だよ。
「お前! 胡桃様になんて口の聞き方をするんだ!」
浅井さんが口を挟んできた。
「もう、ややこしいって、同時に喋りかけないでくれ」
「あ、そうだ!」
くるみんが思い出したように口を開く。
「浅井、私が寝てた理由知りたい?」
「ええ、もちろんですとも!」
なんか嫌な予感する、くるみんイかれてるから、イカれてること言いそう。
「ブルーのやつが私を身代金目当てに気絶させたんだよ」
「ちょ、おま! そ、そんなわけねぇだろ!」
人を揶揄いやがって! いくら主人の言うことだからって、浅井さんもこんな出鱈目を信じるわけないよな。
「貴様! 許さんぞ!」
信じるんかい!
「貴様をニートだと思って軽んじていたが、認識を改めたほうがいいな」
「軽んじてたのかよ! てか待て待て! 拳銃を取り出すな!」
俺は前を向いたまま浅井さんから逃げる。
「なんだその逃げ方は、舐めてるのか」
「そーいうわけじゃない」
今の俺なら視界にさえ入れれば拳銃だって避けれるので前を向いてる。背中を見せて逃げても弾を避けれる自信はあるが安全とは言えないからな。
あ、そうだ。くるみんを適当な場所に置いて放置すればいいのでは。俺がくるみんを地面に降ろそうとすると、彼女はニヤつく。
「え〜ブルー、弱ってる女の子を山奥に置くんですかぁ」
聞いたことない猫撫で声を出してきやがったぞ。ふざけやがって。
「お前はそんなヤワな奴じゃないだろ」
「え…本当に私を置いていくの?」
くるみんが悲しそうな顔をしていた。
「え」
俺が戸惑っていると彼女はぷっと吹き出す。
「あはは! ちょろ! ブルーちょろ! 態度変えたらころっと騙されてやがんの」
「くそ、揶揄いやがって! くるみん、終わってるわ」
それから10分後、家に着き、なんとか浅井さんの誤解を解いた。そして、俺はくるみんらと別れて飯を食って寝て、今後のことはくるみんと連絡して決めることにしようと思ったのだが、
――翌日、一二月八日月曜日の朝。俺は二五畳ほどの広さがある豪華絢爛な寝室で目が覚めた。
そして目が覚めて少ししたあとに大きな扉をノックする音が聞こえたので「どうぞ」と言って室内に入ることを促すと、白い髭を蓄えた老紳士が現れた。
ちなみに俺はカッコつけて窓辺に膝を立てて座っている。
「おはようセバスチャン、いつもの紅茶を頼む」
「私の名前は安堂です。それと貴殿の紅茶の好みは知りません」
「冗談だセバス」
「安堂です」
ついこの場の雰囲気に酔って適当なことを言ってしまった。
「胡桃様と彩音様が応接室にてお待ちしています」
「あ、はい、すぐ行きます」
安堂さんは俺の返事を聞いたあと一礼をして踵を翻した。
今、俺は東京の世田谷という場所の中でもとびきり高級住宅が揃う場所におり、ここはその高級住宅――羽衣製薬の社長の家だ。つまり、くるみんの実家だ。
なぜ俺がくるみんの家にいるかと言うと単純に招待されたからだ。昨日は来て早々眠りについてしまい、くるみんの姉である羽衣彩音と先ほど部屋にきた安堂としか会っていない。
そもそも人と会うのに苦労する。何故なら大きな敷地内に幾つも家があり、親族や給仕が違う場所に住んでるからだ。例えば、くるみんの親と会う場合はこの家から徒歩五分かけて庭を歩かなければならない。
「お、あやねんだ」
廊下を歩いていると、今まさに応接室に入ろうとしていたくるみんの姉である羽衣彩音がいた。俺はくるみんの姉をあやねんと呼ぶことにしてる。
あやねんはくるみんと血は繋がってないのだが顔立ちはくるみんと同じく可愛い系だ。また、可愛さの中に大人びた憂いを感じさせる顔立ちをしてる。
彼女は麦色の髪の毛と同色の瞳を有しており、襟と手首に白い装飾が施された水色を基調とした足首が隠れるくらい長い丈のワンピースを着ていた。見るからにお嬢様と分かる。ちなみにくるみんが一五〇センチ未満位の身長に対してあやねんは160センチぐらいの身長がある。
「よっ」
あやねんは手をあげて俺に軽い挨拶をする。あやねんは気さくな人だがくるみんのように棘があるという印象だ。多分、くるみんがあんな感じなのは姉の影響受けてるだろ。
「こうして会うのも久しぶりだな」
「ほぼ初対面だろーが」
そうだな。昨日会ったばっかだしな。
「姉妹揃ってお口がお悪いでございますよ」
俺はボケ続ける。
「敬語下手か、あ、そっか! 大学卒業してから今に至るまでずっと無職だもんね。だから敬語知らないかあ」
羽衣姉妹特有の棘のある台詞が来ましたね。
「俺が無職なわけないだろ!」
「え、そうなの? 聞いてた話と違うけど……」
彼女は眉をしかめていた。
「本当は無職」
「おい」
「いてっ」
ジト目を向けられつつ右手で小突かれてしまった。すると、応接室のドアが開く。
「朝からうるさ、早く部屋入れば、あとお姉ちゃんこの人と話してると口調が移って敬語使えなくなるよ」
くるみんは顔を出すや否や、毒を吐く。
「俺、今日から二人のこと煽り畜生姉妹って呼ぶわ」
正直、口が悪い部分は可愛いから許してるところもある。まあ、これが羽衣姉妹らしさというやつか。




