第13話 死闘の終わり
巨大な斧を持って現れたくるみんは、確かにセカンドコア・レベル五といった。
今この瞬間にコアを三段階も成長したというのか……彼女は自分を天才と自負しているが、その言葉に偽りない。彼女は本当に天才だ。
くるみんは口を開く。
「私は昨日から魔力をろくに回復させてない、コアは魔力を使えば使うほど成長する。その特性を利用し、私は私自身を追い詰め続けた、今この瞬間に強くなるために! それでもやるか?」
と言い切るとくるみんは相手を脅すように斧の刃を地面へ叩きつける。
ドスン、と地面が揺れる。
「それでビビると思ってんのか? ああ?」
ヴァルグは片眉を吊り上げていた。怒っているようだ。くるみんの挑発が気に食わないらしい。
「あの~ちょっと、くるみんに質問あるんだけど」
俺はそんな緊迫した雰囲気をぶち壊して聞きたいことがあったので挙手をした。
「「…………」」
くるみんとヴァルグは俺を一瞥した後、動き始めた。というかくるみんは俺を無視した。
「フェンリル・ディザ――」「オラァ!」
ヴァルグが魔法を唱え終わるよりも早く、くるみんは斧を持っていない方の手で地面を全力で殴った。
すると、地面が大きくひび割れて足場を崩されたヴァルグは大きく体勢を崩す。
「なんだこの馬鹿力は!? まるで……」
まるで俺みたいな馬鹿力だ。
俺が慌ててるとくるみんがこちらを見る。
「ブルー! 質問なに? 手早く答えて、あいつ相手に隙できそうにないんだけど」
「いや、なんでそんなに重たい斧持ててるのか聞きたかったんだよ」
「それは……これ見て分からない?」
くるみんは先程砕いた地面を指さしていた。
「元々馬鹿力?」
「魔法で強化してるの! 強化属性の魔法で」
「今なんつった? 強化属性の魔法? お前の魔法は確か、水と治癒と補助、そして召喚だろ?」
「世間には四つしか属性持ってないって公表してるけど、本当は五つなんだよ」
「マジかよ」
口に出したら調子乗るから言わないが、ほんと……こいつは正真正銘、天才だ。
四つの属性を持ってるってだけで世界で唯一の覚醒者なのに五つも持ってるのか。しかも隠し持ってるし。
「ブルー! あいつ倒すよ!」
くるみんはヴァルグを指さす。ヴァルグは態勢をすでに整えていた。
「そうだな、とにかく今はあいつを倒すか」
くるみんは斧を持ち、俺は素手のまま中腰で構える。
「くるみん、今のあいつは身体能力をとんでもなくあげている」
「知っている」
「……そういや俺の腕が再生したのも知ってたな、どこから見てたんだ」
「戦いを録画するために空にドローン飛ばしてたでしょ」
「うん」
「あいつにぶっ飛ばされたあと、魔力が回復するまでスマホでドローンが撮った戦いを見てた、ポテチ食いながら」
「なるほどな……ポテチ食いながら!?」
「さあ話はあと」
「ポテチ食いながら!?」
「うるさい」
「ポテ――」
「黙れ」
くるみんは食い気味で突っ込んできた。
「戦いに集中しやがれ人間ども!」
俺とくるみんが話しているとヴァルグは突っ込んでいた。
相手に応じるように俺とくるみんは走りだす。強化属性の魔法で身体能力を底上げしたくるみんは、俺と並走できている。
俺と彼女の早さは同じぐらいだ。だが、ヴァルグの方が速い。
だから俺達は二人でいることを利用して、手数で押し切るしかない!
くるみんは頭上に振りかざした斧を振り下ろす。ヴァルグは斧をバク転して避ける。
その間に俺はヴァルグの横に回り込んでしゃがむ。
「くらえ!」
「甘い!」
俺は低空姿勢で足払いをすると、ヴァルグは上へと跳んで避ける。
しかし、ヴァルグが跳んだのと同時にくるみんも跳んでいた。
「甘いのはお前だ!」
「くそっ!」
くるみんは再び斧を振り下ろす。
空中では回避行動がとれないヴァルグは顔をしかめながら並外れた反射神経で斧の刃を両手で挟み込んで攻撃を止めた。
そして、ヴァルグが地面に足をついた瞬間、俺は彼の腹部を右拳で殴りつけようとする。
ヴァルグは右足を上げて、太ももで俺の拳を受け止めると顔を歪ませる。くるみんはどうやら斧を引いて後ろに後退したらしい。
「ブルー今すぐしゃがんで!」
「は!?」
俺は訳の分からないままうつ伏せになると斧が頭上を通った。あいつ! 俺の背後から斧投げやがった!
目の前にいるヴァルグは俺から見て右側に体一つ分跳んで斧を避けていた。
くるみん、正気じゃねえが……それがいい! 相手を避けさせた位置がいい! 俺の右斜め前! それがいいんだ!
「うおおお!」
俺は気合を吐きながら、その場で左へ一回転しながらヴァルグの方に向かって右拳を繰り出す。相手は遠心力を利用したパンチを繰り出していると思うだろう。
「そんなもんでこの俺が……ァ!?」
ヴァルグは右手を手刀にして俺の拳を叩き落そうといていたが彼は一つ見誤ったことがあったようだ。
「さっきみたいにグーが飛んでくると思ったか! ヴァルグ!」
「くっそたれがああああああ!」
ヴァルグは怒気を放つ。
俺は腰に携えたダガーナイフでヴァルグの手のひら刺していたからだ。俺は彼が逃げないように左手でヴァルグの右腕を掴む。
「俺がわざわざ回転したのは遠心力を利用したとかじゃないんだぜ! お前に見られないようにナイフを取り出したんだよ! お前とはずっと素手でしか戦ってない! だからお前は間合いを見誤った!」
「離しやがれ!」
「ぐっ!」
俺はヴァルグに腹を蹴られるも手を離さなかった。苦虫を嚙み潰したような顔をしながら口を開く。
「くるみん今だぁああああああああ!」
ヴァルグはハッとした顔でくるみんの方を見る。
くるみんは砲丸投げの選手が砲丸を投げるときのような構えで斧を投げようとしていた。
「ブルー! でかした! お前はやるときにはやるやつだ! おらァァ!」
彼女の手から斧が離れる。
そしてそれはヴァルグの方に向かっていく。
「…………!」
ヴァルグは大きく目を見開き、俺は彼から距離をとる。
――――ヴァルグの体は飛んできた斧をその身に受けて、右肩から腹部までごっそり切断されていた。かろうじて彼の首は繋がっているようだ。
「「…………」」
俺とくるみんは静かにヴァルグを見据える。
すると、ヴァルグの足元が光り出して魔法陣のようなものが出現した。
思わぬ展開に俺とくるみんは顔を見合わせる。
「クソが……てめえらは……絶対に俺が殺す……次はねえぞ……」
「いや……なんで半身飛ばされて生きてんだよ……喋んなよ」
俺は苦しそうに喋るヴァルグに突っ込む。
「てめえらに……受けた借りは必ず返してやるからな……」
そう言ったヴァルグは魔法陣のようなものと共に消えた、俺がヴァルグに刺したナイフだけを残して。
「くるみん……ってくるみん!?」
彼女はいつの間にかうつ伏せで倒れていたので駆け寄った。
「また魔力を使い果たした……しんど」
「俺もなんか戦いが終わったと思ったら体に力が入らなくなったな、まだ動けるし、かろうじて戦える状態ではあるが」
俺は両手で拳を作ってまだ元気ですよとアピールをする。
正直無理やり拳を作っている。筋トレしすぎて体に力が入らなくなるような感覚に似ている。
「ブルーの体も限界ってことね、にしても最後にダガーナイフを使ったのは良いアイディアだった、内定がない癖に」
「最後の一言うるさ」
「私と違って大学に進学してる癖に」
「世の中、学校が全てじゃないからな……色んな生き方があるから。普通、学校行かない側が言う台詞だけどな! てかくるみん大学行かないんだ」
「うん、ブルーみたいに無職になるなら、そんなに行く意味ないかなって思うし、色んな生き方とか言ってるけどお前無職で偉そうに何も言えない立場なのに、何言ってんだろ~って思ったし」
「うん! 黙ってろ」「お前が黙れ」
くるみんは食い気味で言い返してきた。
とりえず、どうやってここから移動しようか。
「くるみん、立ち上がれる? 今の状態でモンスターに囲まれたらヤバそうなんで早急にダンジョンから脱出したいんだが」
「無理~」
「はぁ……しょうがねえな」
俺はため息を吐きながら彼女を運ぶことにした。
こうして俺達、満身創痍のまま四〇分ほどかけてダンジョンを脱出したのであった。




