第12話 初めての死闘
俺はヴァルグから間合いを取り、再度、戦闘を開始しようとしていた。
獣人からすれば俺なんか一瞬で潰せる相手のはずだ。しかし、彼は警戒している。
きっとそれは俺の腕が再生したせいだろう。
「体が再生するなら……てめえの心臓か頭を潰す」
獣人は右手を貫手に構え…………そして目の前から消える。
「今だ……!」
「なに!」
俺は背中を仰け反らせて、獣人の突き手を避ける。相手は俺の心臓を狙ってきた。
「おらぁ!」
「ぐっっ!」
俺は勢いよく左足で相手の横腹を蹴る。
苦悶の表情を浮かべた獣人は横に吹っ飛ぶが後方宙返りをして、地面に着地をする。
今の俺ならかろうじてあいつの攻撃を避けられる!
右腕が再生してから身体能力が向上した気がする、しかしそれ以上に動体視力が上がっている。
きっと俺の体が適応してるんだ、あいつの速さに。
「得体のしれねえ野郎だ」
獣人は吐き捨てるように喋る。
「そりゃ俺の台詞だぜ。なんで知性種がここにいるんだ」
「知性種なんて名前じゃねぇ! 俺様の名はヴァルグだ」
名前があるのか。いや喋るんだ。そりゃ名前もあるか。
とりあえず、俺が相手の攻撃を避けれるようになってもあいつはとんでもなく速いことには変わりない。今度こそあいつの攻撃を食らえばくたばっちまう。必死こいて避けなきゃな。
「ヴァルグ! お前の目的はなんだ! 言え!」
「なんで、てめえにそんなこと教えなきゃならないんだ」
素直に教えてくれるわけないよな……適当に時間稼ぐか!
「何が目的だ! なんでここにいる! なんで日本語を喋る! どこからきた! 誰がその名前付けた! 親はいるのか! 好きな食べ物は!? 血液型はなんだ!? 趣味は!? 身長は!? 体重は!? 彼女はいるのか!? 偏差値は!? どこ中だお前!」
「なに訳のわからねえこと言ってんだ! お見合いか!」
獣人にボケを突っ込まれるとは思わなかった。
「殺す!」
「うわ!」
今度は物理的に突っ込んできやがった。目に留まらぬ速さで敵は突き手で俺の体を刺そうとしていた。
相手の攻撃を見極めながら俺は後退しながら敵の攻撃を避けることにした。
右! 左! 右! と体を傾けて相手の攻撃をなんとか回避する。
正直避けるので精一杯だ。
「あぶねえ!」
今度は蹴りを繰り出してきやがったので俺は横に飛んで避ける。
さらに相手は距離を詰めてきて幾度も突き手で突きを繰り出す。俺は必死に上体を動かして攻撃を回避する。
いや、回避しきれなくなってきてる……!
頬を、肩を、横腹を、掠められて皮膚が裂け、赤い液体が地面へと零れる。
「はぁ……はぁ……!」
「息が上がってんぞ! 人間!」
「俺にはブルーって名前があるんだよ! ごらぁ! お前の毛をむしりとって冬用の服にしてやるよ!」
「避けるのに必死な癖に何言ってやがる!」
俺は攻撃を躱すために横に跳んだり、上体を反らしたりしながら考えを巡らす。
こいつの言う通りだ。カウンターを食らわそうと思ったが、その隙がない。
最初に蹴りを食らわすことができたのは相手が面食らってたおかげだ。
「!」
ヴァルグのやつ俺から距離をとって飛び退いたぞ!
それから奴は右手を猫の手にして突き出す。
くるみんをぶっ飛ばした技を使う気だ! あんなもん発動されたら最悪死んじまう!
だがあの技は発動まで二、三秒かかる! その隙を狙う!
俺は全力で右足を踏み込んで地面を蹴り、
「なっ! 速い……!」
一気にヴァルグの目の前まで跳んでいき――
「――――うおおおおおお!」
俺は跳んでいった勢いのまま、右拳を振るってヴァルグの顔面を全力で殴る。
ヴァルグは一メートル、二メートル…………一〇メートル先まで吹っ飛んでいき地面を転がる。
「はぁはぁ……」
俺は両膝に手をつく。今の一撃、やたらと体力を消耗した。
今、実力以上の力が出た気がする。だからあいつは避けられなかったんだ。
自分の体なのに分からないことだらけだが、力を右拳に集中したら実力以上のパワーとスピードを持つパンチを繰り出せた。その分、体が疲労してしまったようだ。
だが、あの一撃でやられるようなやつじゃない。
「くそ、起き上がってくるか」
ヴァルグは殴られた箇所を手で押さえながら立ち上がってきた。
彼は両手を広げながら口を開く。
「もう油断はしねえ。ブルー、てめえは俺が全力で殺す……ビースト・ドライヴ」
と、ヴァルグが喋り終えた瞬間、周囲の空気が震撼する。
まずいな……こいつと相対してから常に死を感じていたが今はより身近に死を感じる。
それにこいつが今何をしたかは感覚で分かる。
「その技、身体能力を爆上げするやつだな」
「よく分かったな」
「ふっ、大卒無職を舐めるなよ、皆が仕事をしてる間に考え事をすることで考察力が鍛えられてんだ」
俺は鼻を鳴らし得意気に語った。
「ダセェな、てめえ!」
「うるせぇ!」
俺達は距離を詰めて再び交戦する。
「ぐぁ!」
俺は顔面に軽く右フックを食らうが、なんとか反撃しようとする。
「どうした! さっきの一撃はまぐれか!」
ヴァルグは意趣返しのつもりか、左拳を俺の顔面に全力で叩き込んでくる。
さっきまで避けれた攻撃が避けれない……!
「ぐあぁぁ!」
顔面を殴られた俺は後方に吹っ飛んでしまう。茂みがクッションとなり、俺の体はそこで止まる。
一〇メートル以上飛ばされたにちがいない。茂みがなければもっと吹っ飛んでいたかもしれない。
前を見ると、ヴァルグが走ってくるのが分かる。俺は立ちあがって応戦するが、足元が覚束ない。
殴られた顔面は腫れ上がっていたが次第に癒えているのが分かるが、体が重い。
そういえば、くるみんが言ってたな体は回復しても疲労感は癒えてないみたいだってな。
「もう逃げられねぇぞ、ブルー!」
「ヴァルグ!」
いつの間にか俺は相手の間合いに入っていた。
ヴァルグは突き手で俺の腹を突き刺そうとする。
避けれない……!
「――――戦斧・揺籠」
「「!」」
俺達は突然聞こえたくるみんの声を聞き、横を向くとそこには、
ぶおん! ぶおん! と空気を裂きながら縦回転している巨大な斧が向かってきていた。
「「うおっ!」」
俺達は斧を避けるようにその場から飛び退く。俺は茂みの中に、ヴァルグは茂みの外側に移動した。
斧は全長二メートルあり、刃の幅は一メートル前後もあった。特に煌びやかな黄金色の装飾が柄に施されているのが目立つ。
三〇キロぐらいあるんじゃないかあれ。
俺はヴァルグから距離を取りながら茂みから出る。
回転している斧は上空へと向かい空中で弧を描いて、飛んできた場所へと戻る。
俺は斧が戻った先を見ると、身長一五〇cmあるかないかぐらいの少女――くるみんが斧を片手で悠々と持っていた。
くるみんはゆっくり歩きながら近づいてきた。やはり、持っている斧に対してまったく重さを感じていない気がする。
「「ば……化け物」」
「は!? そこの獣人はともかく、なんでブルーにもそんなこと言われなきゃならないんだよ」
くるみんは憤慨しながら二の句を継ぐ。
「それを言うなら片腕が再生したお前の方がばっけもの~♪ ばっけもの~♪ ばっけもの~♪」
彼女は馬鹿デカい斧を頭の上でブンブンと振り回しながらリズムにのっていた。
「怖い怖い……それよりどうなってんだ、その斧はなんだ、そもそもなんで軽々と持ってんだ。魔法で軽くしてるのか?」
「軽くしてない、三五キロぐらいあるし」
は!? 軽くしてない!? 素の力!? でもあいつの魔法の属性は――水属性、補助属性、治癒属性、そして召喚属性だったはずだ。
俺が戸惑っているとくるみんは静かに口を開く。
「私は成長した……」
なんか厨二病みたいなことを言ってるなと思っているとヴォルグがさらに後ろへと後退していた。くるみんを警戒しているらしい。
そういえばくるみんの威圧感が増してるような。いつも圧があるやつだけど。
くるみんは口を開く。
「セカンドコア・レベル三……! セカンドコア・レベル……四!」
彼女の周囲から目に見えない何かが溢れ出てるのが分かる。おそらくこれが魔力だ。くるみんのコアはセカンドコア・レベル二だったはず、それが二段階も成長しているのか! 普通コアのレベルを上げるには数カ月かかる人もいれば、数年かかる人もいるがこうも早く成長するとは。
「こいつ……!」
ヴァルグは右手を猫の手にして突き出す。攻撃する準備をしているようだ。
「……セカンドコア・レベル五!」
「なっ!?」
ヴァルグはくるみんの言葉に思わず声を漏らし、俺は大きく目を見開いた。一気にコアが三段階も成長しやがった……!




