第11話 脅威の到来
ダンジョンの二階ではコボルト、ゴブリン、ゴブリンメイジ、マッシュマン、アシッドフロッグが生息しており、俺はそれらのモンスター達をくるみんの力を借りずに倒していった。
空中に浮いているキューブ型のドローンを見る。あれはくるみんが持ってきたものだ。ダンジョンの二階に降りてから俺達をずっと録っているとのこと。
「どうだくるみん、俺強くなってるか?」
俺は戦いを挑んできたコボルトとマッシュマン十数体を倒した後、くるみんに近づく。
「サーチ……力、速さ、耐久力の数値が共に昨日の三倍以上になってる、今ならコボルトやマッシュマンが三〇体いても難なく倒せるわ、毒耐性はレベル一のまま、あとこの森でゴブリンメイジと戦って炎の攻撃魔法を受けたことで炎魔法の耐性がレベル一になってる」
彼女は青パネルを宙に浮かび上がらせて俺の情報を読み取る。
「正直、数値やらレベル一とか言われてもピンとこないけどな」
俺は首を傾げて疑問符を浮かべる。
「んーそうだなー今のブルーと近い戦い方をする覚醒者は強化属性の魔法を使う人ってことは分かる?」
「分かるぞ、魔力で自身の肉体を強化して拳や武器を持って戦うタイプの覚醒者だろ。強化属性じゃなくても覚醒者はコアの成長と共に身体能力はあがるらしいけど基本的に近接戦が一番強い覚醒者だよな、氷属性のもっちーちゃんとかは強化属性じゃないけど刀を持ってるけどな」
望月天使こともっちーちゃんは刀を振るいながら氷を生成し、モンスターと戦う、氷の透き通るような美しさが容姿と相まって視聴者の目を奪うような戦い方をしている。
「エンジェルちゃんは純粋な氷属性ってわけじゃないけどね」
「そうなの?」
「おそらくね、あくまで私の見立てだけど基本的にトップクラスの実力者を持つ覚醒者は秘密が色々あるもんだと思う」
「へぇー」
じゃあ探索者たちが配信で使っている魔法には何か裏があるんだな。
「話戻すけどブルーの実力は強化属性の覚醒者でいうセカンドコアってところかな? あくまで私の見立てだけどね。ただ、普通の覚醒者と違って再生能力があるうえに五感が優れてるし、並みのセカンドコアよりは強いかな」
「非覚醒者の俺としては十分すぎる実力だな、まあ満足はしてねえけどな!」
「それでこそブルーだ。夢も希望もないくせに無駄に向上心はある!」
「てめえぶっ飛ばすぞ」
「ぶっ飛ばしてみろ~」
俺達は軽口を叩き合いながら帰る準備をする。
「とりあえず、モンスター解体して換金できるもんあつめようぜ!」
「私はあんま解体したことないけど」
「俺もないよ、でもたくさんそういう動画見てきた」
「現代っ子か」
「そりゃお互い様――――」
俺は何かの気配を感じて口を噤む。
―――――背後に誰かいる。
俺の横にいるくるみんもそれを感じ取っているはずだ。
背後に立つやつは強い。そして人間ではない。
これは勘ではない、生物としての確信だ。
緊張から心臓の鼓動が速くなる。手から汗が出る。
「――誰だ、てめら」
「「っ!?」」
俺達は息を呑む。確実に背後に立つ何かは人語を喋っていた。
おいおいおい! くるみんが言った最悪な予想が当たったじゃねーか!
ここのダンジョンのボスを倒してもモンスターが活発に活動してた原因は言語を操れるほど高度な知能を持つ――知性種によってダンジョンにいるモンスターは活性化したということになる。
何より言語を喋れる知性種は二六年前に殲滅されて以来、発見されてないと聞く。そして、知性種を倒すためにトップクラスの覚醒者が殺されたという事実がある。
後ろにいる知性種の実力が噂通りの強さなら終わりだ。俺の人生はここで終了だ。
仮にそうじゃなくても俺なんかより遥かに強いってことぐらい感じ取れる。
知性種が言葉を発してから一瞬だったかもしれない。数分経ったかもしれない。
緊張のあまり時間の感覚がおかしくなったそのとき、
――――ズサッ!
敵意を感じるそれは動き出した。
俺とくるみんは相手の方を振り返り、後ろへと跳ぶ!
知性種の姿は二足歩行型の……人間!? いや違う! 人の体に鋭い爪を携え、頭から狼耳と尻尾が生えている!
いわゆる獣人だ。 相手を睨み殺すような目つき、口の中に見える鋭い歯、灰色の髪に同色の耳と尻尾! 身長は一八〇センチといったところだろうか。
横目でくるみんを見ると彼女は冷や汗をかきながら素早く詠唱を始める。
「水の羽衣! 三重・水刃壁!」
彼女の体は青色で透明な羽衣を身に纏う、青色の羽衣は彼女の膝辺りまで丈がある。さらに前方に三重の水の壁を生成した。
俺は近接戦闘しかできないので構える。
灰色髪の獣人は前傾姿勢で突っ込んできながら右手を猫の手にして突き出し、
「フェンリル・ディザスター」
技名のような言葉を口にした途端、暴風が獣人の中心から吹き荒れたかと思えば、空気を裂くような音を立てながら、周囲の地面と木々を削りながら衝撃波が俺達の方に向かってきてるのが分かった。
衝撃波はいとも簡単にぷしゃあという音を立てながらくるみんが生成した水の壁を壊す。
「ブルー! 私頑張ってあれ食い止めるけど! そこまで魔力残ってないから! あとは全力で私を守って!」
「おいおい! 無茶ぶりすぎるぜ! 俺に死ねと!?」
暴風が吹き荒れる中、俺達は言葉を交わす。
「いいから守って!」
「あんなもん俺防ぎようないけど――!」
俺は喋り終えると同時に前を向く、最後の水の壁が破れたからだ。
「もう一度……! 三重・水刃壁!」
くるみんは俺の前に出る。次に再び三重の水の壁を生成し、向かってくる衝撃波に対処する。
衝撃波は確実に水の壁を一つずつ破り――
「――ぐっ!」
くるみんは水の羽衣を身に纏いながら腕を交差させて衝撃波をその身に受ける。衝撃波は水の羽衣に吸収されているようで俺がいるところまでは被害が及ばなかった。
「くるみん!!!」
くるみんは遥か後方へと吹っ飛ばされてしまう、俺は叫びながらくるみんが吹っ飛んでいった方向を見ようとするがそれどころじゃない。
「くそ!」
俺は悪態をつきながら突っ込んでくる獣人と相対する。
「お前はなんなんだ!」
「それは、俺様の台詞だぁ!」
俺の言葉に応じた獣人は俺の方へと駆け出し――消えた。
いや、正確には見えない。目で追えないほどに早い。
だが今の俺の五感なら地面を踏む音を捉えて大体の居場所を把握できる。
「……ここだ!」
俺は右斜め前に踏み込んで右拳を振るう。すると、相手は姿を現し俺の前で立ち止まり、
「おせぇ……!」
「――――――!」
俺が殴るより早く相手は俺の腕を弾く。
「ぁ……」
俺は声にならない声を上げる。圧倒的な違和感を感じる――右腕が軽すぎる。
右腕にあるはずのものがない。肘から先が吹っ飛ばされてる。
立ってられない。俺は両膝をつく。
吐き気がする。寒気がする。意識が朦朧とする。
痛い痛すぎる。痛みが強くなってきてる。
俺は朦朧とする意識の中、背後にいる敵に目を向ける。敵は駆け出そうとしていた。こいつをこのまま行かせるとくるみんに止めを刺すに違いない。
「…………………ゥォォォオオオオオオオ‼」
俺は痛みを紛らわせるように雄たけびを上げながら立ち上がる。
寒気がしていた体が熱くなってきてる。おそらくアドレナリンが出てるのだろう。
俺に再生能力があるというなら腕ぐらい再生しやがれってんだ!
「こいつ……!」
灰色髪の獣人が俺を睨みつけて態勢を整えていた。
「くるみんは私を守れって言った、あいつはとんでもない奴だが無意味に人を死地に向かわせるやつじゃねえよな」
「何をブツブツと……なっ! てめえ、腕が……!」
獣人は俺の右腕があった辺りを見ていた。
俺は自分の腕に目もくれず、相手を見据えていた。腕を見なくても分かる。吹き飛ばされた俺の右腕が徐々に再生している。骨、神経、肉、皮が徐々に形成されているのを感じていた。
「てめえ、化け物か」
「そりゃお前もだろ、にしても日本語上手いなお前、俺の腕を飛ばしたことを謝ればお前を日本語教師として仕事を斡旋してやるよお!」
俺は相手を煽る。
「てめえは人間の癖に日本語が下手だよな」
煽り返してきやがった。
「お前のレベルに合わせてんだよ」
「あ?」
「は?」
俺達は視線を合わせて火花を散らした。




