第10話 キノコやらカエルやら色んなモンスターがいるな
家の近くにあるダンジョンに潜り、地下二階へ到達してから二五分が過ぎた頃。
俺は今、吐き気を催している。
「うおおお……!」
俺は腕を交差させて身を守っている。何故なら、子供の背丈ぐらいで二足歩行で動く五体のキノコにタコ殴りにされていたからだ。こいつらはマッシュマンというモンスターでキノコでありながら短い手足を持っている。そのうえ、俺を殴る度に緑色の胞子をまき散らしてやがる。
この緑色の胞子を吸い過ぎたら体に痛みが走ったり吐き気がするようになる。
今の俺みたいにな。
「アンチドーテ!」
というくるみんの声がすると俺の体から毒素が抜けていくのが分かる。
彼女は治癒属性の魔法の一つである毒を消し去る魔法を唱えていた。
「おらおらおら!」
俺は両拳を繰り出し続け、五体のマッシュマンを周囲に吹っ飛ばす。
「弾力性のある体しやがって、コボルトやゴブリンみたいに粉砕されないぶん厄介だぜ……!」
他のモンスターと違って体を拳で粉砕することはできない。
そんな俺の悩みと裏腹に、
「どう! 毒効いてる!? 耐性付いたんじゃない?」
くるみんは俺の特異体質で毒が徐々に効かなくなるんじゃないかと踏んで俺とマッシュマンが戦っている様子を楽しい実験だ! と言わんばかりの態度を見せてやがる。
「わからねえよ、気分が悪いし、なんなら吐き気の余韻があって今も具合悪いぞ」
「ピョー!」
俺が自分の状態を説明していると一体のマッシュマンが甲高い声を上げてジャンプしてドロップキックしてきた。
基本的にマッシュマンは声が高い。
「くっ!」
俺は両腕を立ててドロップキックを受けると倒れそうになるのを堪えながら後ろにたたらを踏む。
「また毒をまき散らしやがって」
キックを受けた瞬間にマッシュマンは緑色の胞子を散らしていた。
「ねえ! どうどう? 気分は?」
頭のイカれた女、別名くるみんが俺の様子を窺っていた。
「サイコパスすぎるだろこいつ……あれ、あんまり気分悪くならないな、最初は目が痛くなって開けられないぐらいだったのに」
「サーチ」
くるみんがサーチと唱えると宙に青いパネルが現れる。
「毒耐性レベル一を獲得してるね」
彼女はパネルに浮かび上がった文字を指でなぞりながら読んでいた。
「分からん分からん、毒耐性レベル一の基準が分からん」
とりあえずマッシュマンの毒なら平気になるということだろ。
「わりと羨ましいかも、私毒は一瞬で治せるけど、耐性ないからね」
「一瞬で治せるのもすげえだろ、即効性ありすぎ、俺が言うから間違いない」
珍しく俺を羨むくるみんに言葉を返しているとマッシュマンが俺を囲む。
ジリジリと距離を詰めてきている。距離を測っているようだ。
モンスターといえど、考える力はある。もしかしたらこいつらなりに俺に毒が効かなくなってるのではないか? と思っていて慎重に動いているのかもしれない。
「「「ピョーーーーーーーー!」」」
「うるさっ!」
五体のマッシュマンは耳をつんざくような高い声を出す。
そしてマッシュマンは俺の四方八方から同時にドロップキックしてきた。
「おらあああ!」
俺は勢いよく一体のマッシュマンにタックルし、その場を脱出する。俺に体当たりされたマッシュマンは俺と共に地面を転がっていく。
次に俺はマッシュマンから距離をとるためにその場から離脱しようとするが、
「なっ!?」
俺は目を見開く。視界がマッシュマン達の足に覆われている。なんとマッシュマン達の足が伸びてきたのだ。そういえばこいつら手足が伸縮するんだった。
マッシュマン達の伸びた足を顔面に受けた俺は後方へと吹っ飛び、
「かっっはっっ!」
木に背中を打ち付けて思わず息を吐く。
視界が歪む。
気分が悪い。
明らかに脳が揺れてる。
「ブルー!」
くるみんの声が聞こえる。
俺は構えを取りながら彼女の言葉に耳を傾ける。
「戦い方がもったいない! なんのための特異体質だ! 普通の人間みたいに戦うな、今のお前の戦い方は街のチンピラと一緒だ!」
「チンピラみたことねえだろ!」
「うっさい! 細かいことはいい! とにかくお前の身体能力はマッシュマンと戦っている間にも上がっている! 頭のイカれてるお前にしかできないお前の強さを活かした戦い方をしろ」
「一言多いわ!」
俺は言葉を返しながら彼女のアドバイスを聞いて思考する。
いや思考するまでもない。
「はは……そうだな、なんで俺普通に戦ってんだ、俺は俺をつかいこなさないともったいねえじゃねえか!」
俺は駆け出す!
「ピョ!?」
一体のマッシュマンは俺に体を掴まれると身を強張らせる。
そして俺はマッシュマンを掴んだまま地面を蹴って上空へと跳ぶ!
俺は周囲の木々の一・五倍高く上へと跳ぶ。
「うおおおおお!」
そして俺は地面へと落下しながらマッシュマンを上に掲げて地面に頭をぶつけさせる!
マッシュマンの頭が地面とぶつかった瞬間、重い音が周囲に響く。そして、マッシュマンは倒れたまま起き上がらなかった。
「くるみんの言う通りだな、もっと柔軟に戦うべきだぜ! さてマッシュマンちゃんたち! 君たち一体一体に今と同じ技を食らわせよう」
「ピ…………」
俺の言っていることが伝わったのかマッシュマン達は後退りしていた。
「さあて! いくぜ!」
「ピー!」
マッシュマン達が悲鳴のような声をあげる。
そんな声に構うことなく俺は残りのマッシュマンをさっきみたいにパワーボムのような技で次々に倒していった。
「―――ふぅ」
俺は一息つく。周囲には倒れたマッシュマンが転がっている。
「戦い方脳筋じゃん、はい、ヒール」
「そういう戦い方しかできないんだよ! ヒールの魔法サンクス!」
くるみんが治癒魔法であるヒールを使うと俺の体が黄金色に輝きマッシュマンに負わされた打撲傷を治してくれる。さらに俺の再生能力も組み合わさって尋常じゃないスピードで傷が治っていく。
というか俺は自分に再生能力があることを受け入れていいのだろうか。
今更ながら俺バケモンじゃん。
「そういや思い出したわ、特異体質って言われるまで気にしてなかったがガキの頃しょっちゅう鼻血出しててさ、でも数秒で治ってたな」
「バケモンじゃん」
「うるせえい」
俺も今同じこと思っていたけどな。
「――ゲコ!」
「うわ! 巨大ガエル!?」
草むらから身長が五〇センチほどあるカエルが飛び出してきた。
「ゲコ!」
「水刃壁」
カエルが粘性のある紫色の液体を吐き出してきたかと思えば、くるみんが水で出来た壁を目の前に生成する。
紫色の液体と水の壁が衝突すると、ジュワという音を立てて二つの液体は蒸発しつつ地面へと落ちていく。
「あの液体は酸か? 明らかに水と当たって熱を出した音が鳴ったぞ明らかに発熱したから酸だよな、こわっ…………くるみん、なに驚いた顔してんだ」
「いやだって、ブルーがなんか知的なこと言ってるから、ただの馬鹿じゃなかったんだなって」
くるみんは真顔でそんなことを言う。失礼すぎるだろ。
「お、俺だってついこの間まで大学生だったわ! それに理学部出身だからこの程度のことは分かる」
「り、り、り理学部!?!? 冗談は顔だけにして!」
くるみんは目を丸くしながら、また失礼なことを言う。
「て、てめえ! 失礼すぎるだろ!」
「ゲコ!」
「水刃壁」
俺とくるみんがやり取りをしてるとまたカエルが酸を吐いて、くるみんがそれを生成した水の壁で防ぐ。
「あれはアシッドフロッグと言って、酸を吐く巨大ガエルよ、体は柔らかいけど、マッシュマン同様弾力性のある体……というより弾力のある筋肉がついてるから油断しないで」
「合点でい!」
「誰の真似だよ……水刃壁」
俺が適当に返事すると、くるみんは呆れながら水の壁を前方につくる。それを破壊しようとアシッドフロッグは酸を吐く。俺はその間に跳躍し水の壁を越え、
「おら!」
空中からアシッドフロッグの脳天に拳を叩き込む。
ドスン! という重い音が森に響き渡ると同時にアシッドフロッグは地面にめりこんで息絶えた。




