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婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第二章

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第9話

 ふと欠伸がこぼれたのは、雑談が長く続いたある瞬間だった。

 思わずアヤトは噛み殺すと、話していたルナリアは言葉を止め、柔らかい眼差しを向けてくる。布団の上に座る彼女はアヤトのベッドに腕を載せていた。

 雑談相手のアヤトもベッドに寝転がり、気楽な姿勢だ。体勢を変え、ルナリアの方に顔を向けながら軽く謝る。


「――悪い、欠伸が」

「いえいえ、もう時間も遅いですよ。大分お喋りましたし」


 ルナリアは腕の上に顎を載せ、視線をベッド脇に置かれた蠟燭に視線を向ける。すでにその蝋燭は短くなっている――それだけ長い時間話していたということだ。


(本当に、昔みたいだな)


 野営していたときも、こんな風に眠くなるまでずっと話していたものだ。とはいえ、ここまで長く雑談が続いたことはそうそうなかったが。

 ルナリアはアヤトの顔をじっと見ていたが、やがて目を細めて口を開いた。


「少し顔色もよくなりましたね」

「――顔色、悪かったか?」

「はい、入ってきたとき、少し沈んでいたように感じましたが」


 そのルナリアの指摘に、敵わないな、とアヤトは軽く苦笑をこぼす。


「昨日のことをまたいろいろ考え込んでしまってな――もう過ぎたことだから、くよくよ考えるべきではないと、頭では分かっているんだが」

「そうでしたか。やはり」

「ルナはお見通しだな――こうして話してくれるおかげで大分気が楽になった」


 アヤトが笑うと、ルナリアは表情を緩めて頷いた。


「それなら良かったです。お邪魔になるかも、と思っていましたけど」

「まさか。あれだけ野営で一緒にいたのに」

「ふふ、今更ですよね。本当に」


 ルナリアの笑い声を聞きながら、込み上げてきた欠伸を一つこぼした。もう頭が回らず、眠気がだんだんと身体を支配してきていた。

 それを見てルナリアは優しい眼差しを向けていたが、ふと何か思いついたようにベッドに手をつき、よいしょ、とベッドに這い上がってくる。

 何をする気だろうか。アヤトは眠たい目でその動きを追いかけていると、ルナリアはベッドの端に腰を下ろして彼を振り返った。


「アヤトさん、こっちに寝返り打ってください」

「なんで……?」

「いいから」


 笑いながら手招きされる。アヤトは促されるまま、ごろりと転がってルナリアの方――ベッドの端まで移動する。

 ルナリアはそのアヤトの頭の方に寄ると、彼の頭に手を添えて持ち上げた。

 軽い浮遊感。だけど、すぐにその頭が下ろされ、柔らかく温かい何かに包まれる。そして視線を上げれば目に入るのは、見下ろしてくるルナリアの顔――。


 気づけば、アヤトはルナリアに膝枕をされていた。


「これ、手を出したことにはなりませんよね?」

「……まぁ、な。でも、なんでこんなことを……?」

「その、昔、私が怖い夢を見て眠れなかったとき、母がこうしてくれたんです。そうしたら心地よくていつも寝てしまったな、って」


(……確かに、これは悪くないな……)


 ルナリアの膝は肉付きが良く、程よい弾力があって寝心地が良い。それに温かさが膝からじんわりと伝わってきて、何だか安心する。

 視線を上に向ければ、慈愛の満ちた眼差しでルナリアが頭を撫でてくれる。


「どう、ですかね……? ゆっくりできそうですか?」

「ああ……ただ、これだとルナが寝れないような……」

「私のことはお気になさらず。ほら、このまま横になれば寝れますし」


 彼女は後ろのベッドを振り返ってそう笑うと、掌をアヤトの目にそっと乗せた。小さく温かい掌の感触が目元に伝わり、眠気が一気に広がってくる。


(ああ、もう、眠い――)


 膝枕の柔らかさ、温かさ、彼女の香りに包まれて一気に思考が闇に呑まれそうだ。


「悪い、ルナ――もう……」

「はい、おやすみなさい。アヤトさん」


 優しい声に誘われ、アヤトは辛うじて保っていた意識を手放す。

 もう夢を見ずにゆっくりと寝られそうだった。

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