↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/61

第59話

「せぃ、やぁああっ!」


 裂帛の気合と共に、アヤトは剣を振り払った。魔力を載せた斬撃が空を裂き、目の前の近衛兵たちをまとめて弾き飛ばす。

 たまらず体勢を崩した近衛兵――そこにアヤトの後ろから閃光が迸った。

 閃光が近衛兵に直撃すると、彼らは目や耳を押さえて悶絶する。無力化を確認してから、アヤトは再び王城の廊下を駆けながら後ろのルナリアに声を掛ける。


「ルナ、今ここはどこだ――?」

「王城の中層です! 敵性反応はこの先の玉座の間になります!」


 そう声を返すルナリアはすぐに隣に並び、わずかに目を細めた。その表情だけでアヤトはルナリアが何を考えているのか察する。


「――何か引っかかることでも?」

「はい、やたらとこの廊下だけ手薄です――警戒を」

「分かった。まぁ、十中八九、罠だろうが」


 アヤトは駆ける足を緩め――やがて、ぴたりと足を止める。

 肌で感じる、殺気に似た何か。戦場でよく感じる気配にアヤトは手を挙げると、ルナリアは静かに杖を持ち上げて魔力を巡らせる。


「なるほど、術式の張り方は一流です。巧妙に隠蔽していますので、余程でなければ看破されないでしょうが」

「ああ、ただ一流なのは術式だけだな」


 そう言いながらアヤトは苦笑をこぼす。

 間断なく襲い掛かって来た近衛の兵士たち。だが、目の前の廊下にはその気配が一切ないのだ。それにその先には開け放たれた扉まである。

 明らかに不自然である。逆に罠がないことすら疑いたくなる。

 だが――ルナリアはすぐに罠の存在を探知したらしい。軽く肩を竦めると、杖を突き出して魔力を放つ。直後、ぐにゃりと目の前の空間が歪み、欺瞞が解けていく。

 果たしてそこに刻まれていたのは、巨大な魔法陣だ。

 そこに足を踏み入れれば、ただでは済まなかっただろうが――。


「見え見えなんだよ、なッ!」


 アヤトが剣を一閃させると同時に、魔法陣が刻まれていた床にひび割れが迸った。直後、込められていた魔力が霧散し、光の残滓を散らす。


「……あまりにも呆気ないな。本当にこれが罠なのか?」

「私も正直、信じがたいですが、でもどうやら打ち止めのようです」


 ほら、とルナリアは目の前を杖で示す。そこには甲冑を身に纏った騎士たちが金属音を鳴らしながら、罠があった廊下に足を踏み入れていた。

 無論、そこで発動する術式はない――つまり、もう罠がないと教えてくれたようなものだ。アヤトとルナリアは苦笑をこぼしながら、それぞれ剣と杖を構える。


「敵の罠が稚拙なのはさておき、気は抜けないな」

「ですね。正真正銘の、虎の子を出したのでしょう」


 迫ってくる騎士たちは明らかにこれまでの近衛兵とは雰囲気が違う。真紅のマントを身に纏い、剣を手にした彼らの構えに隙はない。


「紅蓮隊――近衛の中でも最強と名高い部隊ですね」

「ああ。正面から斬り合えば、手こずること間違いなし、だな」


 名門貴族や選抜された者から構成されている第一軍――近衛。

 そのほとんどが親の七光りであり、戦場を経験したことがないものが所属しているが、この紅蓮隊だけは別格だ。彼らは戦場も経験した生え抜きの武人たちだ。

 当然、魔族とも互角に渡り合った経歴を持ち、アヤトと共に戦った武人の顔も垣間見える。その姿にアヤトは小さく吐息をこぼす。


(――彼らなら、洗脳を乗り越えてくれるのでは、と期待していたが)


 王家に対する忠誠心が仇になったのだろう。彼らは瞳から光を失い、ただ侵入者を排除する門番となってしまっている。

 それが三十人以上。それが広々とした廊下を封鎖している。


(隙を見せれば、すぐに斬り込まれるな――)


 間合いを詰めてくる紅蓮隊の騎士たちの気迫に、初めてアヤトは後退をさせられる。

 彼らと戦って負けるつもりはない。だが、生け捕りできるほど余裕があるわけではない。それに一人一人に手こずってしまいそうだ。


(あまり、時間はかけたくないところではあるな)


 このままだと魔族に逃げられる可能性がある。それは避けておきたい。

 アヤトはちら、とルナリアを見ると、彼女は目を細めて告げる。


「――正面から攻めるのは愚策です。ここは搦手で」

「何か策が?」

「ええ――もうすでに、手は打ってあります」


 その言葉と共にルナリアは魔力を練り始めていた。魔術を行使する気配に、紅蓮隊の騎士たちはすぐさまその妨害しようと間合いを詰めようとする。

 それをアヤトが防ぐように間に立ち、牽制。その間に彼女は魔力を練り上げ、魔術を行使していた。杖から無数の光線が迸り、紅蓮隊の騎士たちに向かう。

 騎士たちはそれぞれ防御を固め――その視界を奪うように真っ白な閃光が爆ぜた。同時に耳をつんざく甲高い音が響き渡る。


(音響閃光魔術か――!)


 先ほど近衛兵たちに放っていた魔術と似ている。近衛兵に対しては指向性がある音響閃光を放っていたが、今回は拡散性が高い。

 ルナリアは同時に結界も張ることで、アヤトの目と耳を保護している。

 それでもかなりの光と音――その直撃を食らった騎士たちは体勢をわずかに崩してしまう。辛うじて防御の構えを取っているが、視力と聴力を一時的に奪った。


 そして、それを合図に物陰から三つの影が走った。


 双剣が瞬く間に複数の甲冑を引き裂く。

 身軽な影が騎士たちに短刀を突き立てていく。

 矢が次々と風を切って騎士たちを射抜く。


 一瞬にして奇襲を決めた影たちはひらりと身を返すと、素早くアヤトとルナリアの傍に降り立った。アヤトは目を丸くしていたが、やがて苦笑を滲ませる。


(彼らには地下道を押さえるように頼んだはずなんだが――)


「随分と早く来てくれたんだな。ミレーヌ、クルス、ニムエ」


 仲間たちの名を呼べば、彼らは敵から視線を逸らさずに軽い口調で答える。


「第七軍の援軍が随分と早く来たおかげよ」

「第四軍、第五軍、第六軍も少ないながら手勢を連れて駆けつけました」

「ユニウス辺境伯も。彼らに地下道は任せた」


「なるほど――で、これがルナの仕込み、と」


 アヤトは横目でルナリアを見れば、彼女は悪戯っぽく片目を閉じた。


「丁度、地下道から出てきて挟撃できそうだったので、待機してもらいました。私たちに気を取られていたおかげで、奇襲は決まりましたね」

「まぁ――それは一部だけど」


 ニムエが小さく吐息をこぼしながら目を細め、軽く双剣を振って続ける。


「上手く斬れたのは最初の一人だけ――後は目も耳も聞こえないのに捌かれた」

「本当に化け物ね。気配だけで矢を叩き落とされたわ」


 ミレーヌも不服げに言いながら敵を睨む。その視線の先では音響閃光から立ち直った騎士たちが構えを取っていた。倒れているのはたったの三人だけ。


(――さすがに化け物揃いだな。紅蓮隊……)


 アヤトはため息をつきながら前に進み出ようとすると、ニムエが片方の剣を持ち上げて制した。そしてこちらを振り返ると、目を細めて告げる。


「隊長さん――ここは私たちに任せて」

「そうね。ここで油を売っている暇なんてないでしょう? さっさとこの騒動を引き起こした魔族にケリをつけてきなさい」

「ギリアスさんから道具を借りてきました。僕も足止めくらいならいけます!」


 ミレーヌとクルスも同意するように声を上げ、紅蓮隊の騎士たちと睨み始める。その頼もしい後ろ姿に目を細めると、アヤトは頷いて告げる。


「分かった――じゃあ任せるぞ」


 それからアヤトはルナリアと頷き合うと、息を吸い込んで肚の底から叫ぶ。


「来い! マーク!」


 その声に応じるように、激しい轟音が響き渡る。そして接近してくる凄まじい足音。勇者部隊の面々は瞬時に左右に分かれ、道を開き。

 直後、鎧を来た巨体が凄まじい勢いで廊下に突っ込んで駆け抜けた。

 行く手を阻もうとした騎士たちは一瞬で弾き飛ばされ、蹴散らされた瓶のように床に転がる。その埃が舞い散る中、アヤトとルナリアは間髪入れずに駆けた。

 マークが切り拓いた道を一瞬で駆け抜け、振り返ったマークとすれ違う。


「マーク、ここは頼んだぞ!」

「ん、一人も、通さない……!」


 鎧姿のマークが吼えると同時に、アヤトたちを追いかけようとする騎士に向かって拳を振るう。その重たい音が響き渡るのを聞きながら、アヤトとルナリアは真っ直ぐに駆け。


 玉座の間へと一気に踏み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。