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婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第五章

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第51話

ミレーヌ視点

 時は数刻前に遡る――。


(――奇妙ね)


 建物の屋上から王城を見張っていたミレーヌ・アーカイトは眉を寄せていた。

 傍には戻ってきた鳥たちが囀っている。普通の人ならただの囀りにしか聞こえないが、彼女にはその一つ一つが理解することができる。

 彼女は掌から穀物の餌を与えつつ、その鳥たちの言葉に耳を傾けていた。


(王城、人少ない、いつも通り――)


 鳥の報告はいつも端的だ。人々の暮らしの細かいところまで観察するのはさすがに難しいところがあるのだろう。その限られた情報の中でミレーヌは疑問を抱く。


(第七軍が接近して、兵が減っているのにいつも通り?)


 近衛の一部は王を見限り、城を離れていく今、残った兵士たちはいつも通りの業務を続けられるだろうか。動きがない、とも捉えることはできるが――。

 ミレーヌは吐息をこぼすと、ご飯を食べ終えた子たちを順々に送り出しつつ、じっと王城の方を見据えて思考を巡らせる。


(あと、あの子たちも帰ってこない――)


 このことに違和感を覚えた際、念のためにミレーヌたちはネズミたちを手なずけて王城内に送り出していた。彼らは狭いところに入り込める上に、鳥たちも賢く、気づいたことを細かく報告してくれる。

 戦場でも敵野営地に侵入し、敵の規模や備えなどを細かく彼らは割り出してくれた実績がある。だからこそ、彼らなら違和感を突き止めてくれると思ったが。

 百匹以上、送り出したにも関わらず、また一匹も戻らないのだ。

 明らかに奇妙。見つかって駆除された個体がいたにしても、一匹も戻ってこないのはおかしい。王城内で何かしらの異変が起こっている可能性がある。


(一旦、アヤト隊長に報告すべきかもしれないわね――)


 ミレーヌはそう思いながらじっと王城の方を睨み、少し考え込み――。


 ふと、視界に何かが映った気がした。


「――ん?」


 目を凝らす。一つの部屋で何か光が走った気はする。ミレーヌは眉を寄せていると、一匹の鳥が慌ただしく彼女の元に戻ってくる。

 その鳥は彼女の肩に留まることなく、中空で羽ばたきながら鳴いた。

 鳴き声を耳にしたミレーヌは一瞬で顔色を変える。


(女が追われている? 兵士たちに?)


 ミレーヌはもう一度目を凝らし、見えた窓の辺りを確認する。窓の位置は王城の中でも最上階の方――恐らく王族たちが暮らすような位置だ。

 アヤトに報告を優先すべきか、それとも――。


(――いや、迷っている時間が惜しいわね)


 ミレーヌは逡巡を振り切り、素早くその建物の屋上から飛び降りた。そして、迷いなく疾駆を始める――王城の方へと。


 アヤト率いる勇者部隊の中で、隠密や潜入が得意なのはクルスだ。

 彼は嗅覚や聴覚に優れており、的確に敵の動きを把握して進むことができる。次いでニムエ――彼女の抜群のバランス感覚は潜入でも活かせる。

 その二人がずば抜けて潜入が得意だが、ミレーヌも負けてはいない。

 彼女は人目を盗みながら瞬く間に王城の中に潜入していた。


(さすがに兵が少なくなれば、警備もザルね――)


 門はさすがに兵が詰めていて潜入は難しかったが、城壁の一部は隙が見えた。そのため、鳥にロープを持たせて飛ばし、それを城壁に引っかけて登ったのだ。

 無論、周囲に目がないことは鳥たちに協力してもらって確かめている。

 彼女は懐に忍ばせたネズミたちを解き放ちつつ、慎重に王城の中心地を目指していく。慎重に物陰に隠れながらわずかに目を細めた。


(――人、少なすぎない?)


 内部は全くといっていいほど人がいない。気配はあるのだが、話し声などは全く聞こえず、静まり返っていて不気味だ。

 だが、その静けさのおかげで足音はよく分かる。廊下から聞こえてきた足音にミレーヌは素早く身を隠す。視界に入ったのは、巡回の兵士だ。

 きびきびとした足取りで歩む近衛の兵士――ミレーヌはその様子を見て眉を寄せる。

 その表情は無表情、というか、どこか虚ろだ。目の焦点も合っておらず、ぼんやりとした顔で辺りを見渡しながら歩く。あまりにも不自然。

 まるで、何者かに操られているように――。

 息を殺しながらミレーヌは物陰に潜み――ふと、足元に何か転がっているのを見つけて屈む。ネズミの死骸だ。

 殺されたにしては違和感がある。指を伸ばして触れ、目を見開いた。


(皮膚の下が腐っている――魔力性の腐食……っ)


 まさか、と脳裏に過ぎる嫌な予感。咄嗟にミレーヌは腰のポーチから魔石を取り出すと、それをネズミの死骸にかざす。瞬間、魔石が淡い光を放つ。

 その光の種類は毒々しい紫――それが示すのはたった一つ。

 この魔力が、魔族由来であるものということだ。


(ということは、すでに王城内に魔族が侵入している――!)


 そう考えれば、あの兵士が虚ろだった理由も説明がつく。魔族の術に精神が乗っ取られているのだ。そうなれば、王城はすでに魔族の手に落ちている可能性が高い。

 血の気が引く。一刻も早く、このことをアヤトに伝えなければならない。

 素早く一匹の鳥を呼び寄せようと、ミレーヌは空を見上げ。


 瞬間、甲高い悲鳴が耳に飛び込んできた。


「――っ」


 その悲鳴が意味するのは、誰かが魔族に襲われているということ。

 それを見過ごすことは、魔族を仇としているミレーヌには看過できない話だった。彼女は瞬時に地を蹴ると、悲鳴が響き渡った方向へと疾駆していく。

 すなわち――王族の居住区である、王城の最奥へと。

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