↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第五章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/60

第46話

 その突然の言葉にアヤトは動揺しなかった。ルナリアも平然とした表情で頷いている。でしょうね、と言わんばかりに。

 それに公爵は苦笑をこぼし、軽く首を傾げる。


「想定内でしたかな」

「ええ――ここにいるルナリアが、その可能性を予見していました」


 視線をルナリアに向ければ、彼女は頷いて静かに告げる。


「クラリッサ殿下は公爵家の血を引いています。彼女を王座に据えれば、外戚として実権を握ることもできるでしょう。暴君を廃し、実験を握る。一石二鳥の策です」

「現状、それが穏便に済む選択肢である。王弟殿下を呼び寄せるにも時間がかかる」

「それは他の公爵家に実権を渡したくないという思惑もあるのでは?」

「それも否定はせん。故に勇者殿には選ぶ権利がある――誰を王位に据えるかを」

「――自分が選ぶ、ですか」


 アヤトが口を開くと、公爵は深く頷いてみせた。


「勇者殿は国を救った英雄であり、現状の王家よりも支持を得ています。勇者殿が支持を表明すれば、公爵家と同等の後ろ盾となるでしょう」

「つまり――自分と公爵家が協力して、クラリッサ殿下を女王にすれば体制変化による動揺は少なく済む、ということですね」

「ご明察です。勇者殿」


 なるほど、とアヤトは頷きながら、ちら、とルナリアを見る。ルナリアの表情は芳しくない――それも無理はない。

 彼女はこの可能性を示唆すると同時に、その先を読んでいた。


『仮に公爵家がクラリッサを女王として擁立しようとすれば、是が非でもアヤトさんのことを取り込みたいと思うはずです。とすれば、やることはたった一つ』


 彼女の言葉を思い出しながら、公爵家の言葉をアヤトは予見した。


「そして――勇者殿には、クラリッサの王配として王家に入っていただきたい」


(――やはり、か)


 王配、つまりは女王の伴侶を意味する。

 つまり、公爵は一度、婚約破棄されたことを忘れ、クラリッサと結婚して欲しい、と言っているのだ。その可能性を聞いていたとはいえ、アヤトは閉口してしまう。

 そのアヤトの心中を代弁するように、ルナリアは口を開いた。


「正気ですか。アヤトさんはクラリッサ殿下から婚約破棄されたというのに」

「だが、まだ正式な発表はされていない。である以上は、まだこの婚約は生きていると考えることができる」

「クラリッサ殿下がこれを受け入れるとは思えませんが」

「受け入れるとも。政略結婚は王家の常だ」

「百歩譲ってその通りだとして――アヤトさんのお気持ちは、どうなりますか」


 公爵の堂々たる言葉にルナリアは一歩も退かず、アヤトのために抗弁する。その様子にメリッサが申し訳なさそうにしているのを見て、アヤトは小さく吐息をこぼした。


(利害があるのは分かるし、それを明け透けに言ってくれるのは助かるが)


 改めて実感する――勇者という称号の重みを。

 これはただの英雄としての称号ではない、国の今後も左右する重みがあるのだ。だからこそ、公爵はその責務を果たせと暗に言っているのだろう。

 だが、ルナリアも凛とした声で反論する。


「アヤトさんは原則的に一兵卒に過ぎません。それでも国を救うために戦い続けてきた方です。この方にさらに重荷を背負わせようというのですか」

「それについては心苦しく思う。故に望む褒賞を与える予定だ。無論、これにはマーロック子爵家も対象だ。大幅な加増、爵位の向上は確約する」

「――っ、それに関して、私からは何も申し上げられません。当主は兄です故に」

「それは失礼した。では今、其方はどういう立場でここにおられるのかな?」


 公爵の指摘にルナリアは黙り込む。その沈黙に付け入るように、公爵は目を光らせると淡々とした声で告げる。


「貴方は勇者殿の戦友という立場でしかなく、今は副官しかない。それは勇者殿の厚意に甘んじておられるのではないかな?」


 その言葉にルナリアの瞳が微かに揺れ、ぐっと唇を噛みしめる。その表情を見た瞬間、アヤトの思考が一瞬にして凍てついた。

 自然と身体から気迫がこぼれ出す。それに公爵が気づいて口を噤んだ。

 アヤトはその公爵に言葉を投げかけようとして――直後、乾いた音が響き渡った。

 それに我に返る。視界に入ったのは、メリッサが公爵の頬を叩いた姿だった。公爵自身も孫娘の暴挙に呆然とする中、彼女は声を荒げる。


「お祖父さまのばかっ、お二人のことを知らずになんてことを……っ!」


 それからメリッサはすぐにアヤトとルナリアに向き直ると、勢いよく頭を垂れた。


「申し訳ありません、勇者様、ルナリア様……っ、祖父が失礼なことを――」

「――いえ、それは……」


 ルナリアも面食らい、対応に困ったように視線を彷徨わせている。アヤトは深呼吸を一つし、気迫を鎮めながら穏やかに告げる。


「メリッサ嬢、ありがとうございます。お気持ちは大変ありがたい。そして、公爵閣下」


 視線を公爵に向ければ、公爵は深呼吸して向き直る。一瞬にして動揺が覆い隠されているが、まだ冷や汗は滲んでいるようだ。

 その目を見て淡々と言葉をかけた。


「公爵閣下のお考えは理解できました。貴族様らしいご立派で崇高なお考えだと感じます。我々には、到底理解が及ばないくらいに」


 その言葉に皮肉が滲んでいることに気づき、公爵は顔を強張らせる。


(――公爵閣下、貴方はメリッサ嬢から何も聞いていなかったのか)


 貴族や王族であれば、その考えは正しいことだろう。だが、ここにいるのは勇者である以前に、一人の兵士なのだ。隣にいる大切な人を守るために戦い続けた。

 つまり、利益、恩賞、責務――それらには何ひとつ心が動かされない。

 望むのはただ自分と仲間たちの平穏、ただそれだけだというのに。

 ルナリアの様子を見る。勇者であるアヤトではなく、一個人としてのアヤトのことを想い、ひたすらに公爵相手に弁舌を振るったルナリア。

 その彼女の揺れる瞳を見て、心に決める。


(――手切れだ)


 その結論を発しようとした直前、メリッサが口を開いた。


「勇者様、申し訳ありません、国を想うあまりに祖父も冷静ではなかったと感じられます。こちらで一度、持ち帰って検討のお時間をいただいてもよろしいですか」


 その言葉に機先を制され、アヤトは思わず口ごもる。それに対して横からルナリアが賛同の声を上げる。


「そうですね。我々も考えをまとめる時間が必要そうです――ここは一旦、お開きといたしましょう。アヤトさん」

「――そう、だな。悪い、ルナ」

「いえ、お気になさらず。私はお二人をお見送りしますので」

「お祖父さま、行きましょう。ここは頭を冷やすべきです」

「う、うむ――すまない、メリッサ」


 公爵はメリッサに支えられるようにしてよろよろと立ち上がる。その顔つきはいつの間にか老け込んだように感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。