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婚約破棄された勇者、戦友の令嬢から溺愛される  作者: アレセイア
第四章

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第44話

 襲撃から数刻後――。


「近衛騎士計三十三名。ここに名簿が揃ったのぅ」

「えっと、宿舎襲撃犯も尋問は終了しました。襲撃者は百名近く。内、近衛騎士が八名。名前を聞き出しています」


 マーロック家屋敷の執務室。そこではギリアスが満面の笑みを浮かべ、報告に来たクルスはどこかぎこちない表情の元、名前が記された用紙を提出した。

 それを受け取るアヤトもわずかに表情が強張ってしまう。


「――ギリアス、よくこんな短時間で三十三名も名を聞き出せたな」

「ほほ、存外、根性なしばかりでの。どいつもこいつも命は惜しいと見えた」


 ギリアスはそう言いながら懐から小瓶を取り出し、にやりと笑う。


「うっかり傷口にこれを塗るだけで、随分と聞き分けが良くなったわい」


(……さすが猛毒翁)


 アヤトも見ていたが、その小瓶の薬を塗った瞬間、男たちの傷口が徐々に腫れ始め、脂汗を流し始めたのだ。それを見ながらギリアスはにこやかに別の小瓶を取り出した。


『すまんが、解毒剤はこれしかなくての。儂たちが知りたいことを洗いざらい吐いてくれたものから、早い物順で解毒剤を打ってやるわい』


 その瞬間、男たちが雪崩を打つように早口に自白を始めたのである。その様子には思わず傍にいたアヤトがドン引きするくらいだった。

 同席するルナリアは軽く首を振りながらため息をこぼす。


「こちらが聞いていないこともべらべら喋ってくれましたね」

「本当だ。訓練が全くなっていない」


 第七軍の兵士ならば、どんな毒でも屈せずに沈黙を保ったことだろう。ギリアスも深々と頷きながら軽く小瓶を眺める。


「この毒は毒蛇から取ったもので、激痛は走るものの、死にはせんのだが」

「そうは言っても、あの近衛たちは毒蛇に噛まれた経験すらないんだろうが」


 アヤトは吐息をこぼし、視線をギリアスとクルスに向ける。


「二人ともご苦労だった――整理すると、今回はこの屋敷と第七軍の宿舎を襲撃したものだったが、撃退は無事に完了したわけだな」


 屋敷の方は主に裏庭の物損はあったものの、負傷者はゼロ。襲撃してきた者は逃げた者を除いて全て捕縛に成功。犠牲者は当然、ゼロ。

 軍の宿舎は塀が魔術で破壊され、多少の負傷者。ただ、歴戦の兵士たちが詰めていたこともあり、確実に制圧。一部の暗殺者は最深部まで辿り着いたものの、そこは待機していたニムエが制圧。逃げた者を除いて捕縛に成功している。


「その目的は自白によると、ドリウスの奪還と勇者暗殺だったわけだな」


 その確認の言葉にクルスは頷き、手元の書類に視線を落とす。


「はい、第七軍の尋問部隊に対し、近衛を自称する者たちは素直に自供しました。名目は強制捜査であり、不当に捕らえられたドリウスを奪還するという名目です」

「捜査なら堂々と正面から来ればいいものを――」

「無論、それについて言及も行いました。それに関しては、上位の騎士による命令があったとされます。彼らに命令した騎士についてはこちらの書類に」

「ありがとう。ギリアスの方も、自供は似たようなものか?」

「うむ、こちらはがドリウス殺されたことにされており、それの仇討ちと言われているものもいたな。まぁ、その割にはあっさり罠に引っかかってくれたわけだが」

「なるほどな、了解した」


 整理を終えて吐息を一つ。状況は全て理解できたが、あまりにもお粗末な顛末に呆れてしまう。だが、アヤトは気を取り直すと、部下二人を見て労いの言葉を掛けた。


「二人とも、ありがとう。夜遅くによく対応してくれた」

「僕は何もしていませんけど――ほとんど軍のみんなと、ニムエさんのおかげです」

「まぁ、間抜けらしく間抜けな軍勢だったおかげでもあるの。この程度、苦労の内に入らんわい」


 クルスは少しだけはにかみ、ギリアスは何でもなさそうに軽く肩を竦める。頼もしい二人の姿にアヤトは軽く笑い、手を振って告げる。


「今日はもう休んでくれ。また明日、将軍を交えて今後の対応について話し合う。それに応じてまた二人にもお願いするつもりだ」

「了解しました。おやすみなさい」

「うむ、休ませてもらうわい」


 クルスとギリアスが頭を下げてそれぞれ部屋を後にする。後に残されたアヤトとルナリアは手元にある名簿を見て、同時にため息をこぼした。

 それから何気なく視線を合わせて苦笑する。


「まさか、王家――シグバード陛下がここまで愚かであったとは」

「本当に。状況も読めない、彼我戦力の分析もできない、楽観的過ぎる――よくこんな指揮官を以て、魔王軍を今まで撃退できていたことか」

「軍の精強さを正しく理解していなかったのでしょう。先代と比べると、彼は戦場に出たことすらなかったようですし」

「なるほどな――ただ、こうなると今後の先の見通しは暗いな」


 アヤトとルナリアが目指す、王家の謝罪と賠償――それが通らない可能性が出てきた。何せ、知ってか知らずか、内戦の火ぶたをあっさり切ろうとする王である。

 この状況だと事態は平行線――それこそ、本当に内戦が勃発しかねない。

 それはアヤトとして望むところではなかった。


(内戦となれば、無辜の民が傷つきかねない――)


 それに魔王軍は現在、テオドール将軍が抑えているものの、王国軍が弱体化すれば黙っていない可能性もあるのだ。そうなれば、今まで以上の流血になる。

 それを避けるにはもはや選択肢は一つだった。


「……これが、公爵家が考えていた『その先』なのかな」

「はい、すでに公爵家はその決断を下しているでしょう」


 ルナリアの言葉にアヤトは吐息をこぼすと、一つ頷いて視線を上げた。


「明日、公爵家に会う――『その先』について話し合わねばならない」

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