第50話
すべての事件が、収束へと向かっていた。
皇太后アマーリエには、厳正な処分が下された。先帝の后という地位も、もはや彼女を守りはしなかった。皇帝暗殺を企て、隣国に国を売ろうとした大罪。その報いを、彼女は受けることになった。
黒幕ユリウスもまた、断罪された。隣国の密偵として、数々の陰謀を巡らせた罪は、重い。彼が引いていた糸は、すべて断ち切られた。
姉を誘惑し、皇帝を毒で蝕み、皇太后を操り、ローザを苦しめた男。すべての悪意の源であったその人物が、ついに、裁きの場に引き出された。彼の断罪をもって、長きにわたった陰謀は、完全にその幕を閉じたのだ。
そして――姉ヴィオレッタの、名誉が回復された。
姉は、自らの意志でないまま陰謀に巻き込まれ、利用された被害者だった。そのことが、皇帝の裁定によって、公に認められた。失踪の汚名は、晴らされたのだ。
「お姉様。よかった……本当に、よかった」
ローザは、姉と再会し、手を取り合って喜んだ。
姉は、穏やかな表情をしていた。囚われの日々の影は、まだ残っていたが、その目には、再び生きていく力が、宿り始めていた。
かつての、ただ美しく華やかだった姉とは、どこか違っていた。苦難をくぐり抜け、自らの過ちと向き合い、それでも前を向こうとする。そんな、芯のある強さが、姉には備わっていた。妹のローザが、誰よりもそれを感じ取っていた。
「ローザ。あなたのおかげよ。あなたが、私を見つけ出し、信じてくれたから」
姉妹の絆は、かつてないほど、深く結ばれていた。
アーベライン家も、安泰を得た。
皇帝の庇護のもと、辺境を脅かしていた不穏な動きは、すべて取り除かれた。ローザが守りたいと願った、あの家の人々も、もう危険にさらされることはない。
隣国ヴェルダとも、手打ちがなされた。
関与を認め、賠償を支払った隣国は、二度とガルディアに手出しできぬよう、固く誓わされた。長年の緊張は、ようやく、緩和へと向かった。
毒の陰謀。身代わりの清算。姉の失踪。隣国の黒幕。
物語を動かしてきた、すべての謎が、ひとつ残らず解かれ、決着した。
ローザは、宮廷の庭園を、ひとり歩いていた。
長い戦いが、ついに終わった。深い安堵が、胸を満たしていく。
だが――その安堵の中に、ひとつだけ、解けぬ問題が残されていた。
それは、ローザ自身のことだった。
皇帝の命を救い、陰謀を打ち砕いた。けれど、ローザはあくまで、姉の身代わり。偽りの皇妃という立場は、何ひとつ、変わってはいない。
本物のヴィオレッタが、名誉を回復したいま。身代わりであった自分は、いったい、どうなるのか。
もし、姉が本来の役目に戻るべきだと言われたら。あるいは、偽りの婚姻そのものが、無効とされたら。ローザの居場所は、どこにもなくなる。皇帝と心を通わせたあの日々さえ、偽りの上に咲いた、徒花だったことになりはしないか。
この場所に、自分が居続けてよいのか。
愛する人の傍に。皇妃という座に。偽りで始まった自分が、本当に。
ローザの胸に、晴れやかな安堵とは裏腹の、小さな影が差した。
すべてが解決した、その先に。最後の問題が、静かに、ローザを待ち受けていた。
国を救った大きな働きも、皇帝との想いも、すべては本物。それでも、自分の立場だけが、偽りのまま取り残されている。その矛盾を、これからどう解いていくのか。ローザには、まだ、答えが見えなかった。庭園に咲く花々が、夕日に赤く染まって、静かに揺れていた。




