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身代わり花嫁は、皇帝陛下に正体を知られている  作者: 小林翼


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第39話

 大夜会は、絢爛たる光に満ちていた。


 広間には、帝国中の貴族が集っていた。シャンデリアの輝き、楽の音、ざわめき。その華やぎの中を、ローザは皇帝と並んで進んだ。


 貴族たちの視線が、二人に注がれる。


 そして、その時は、唐突に訪れた。


 皇太后アマーリエが、満を持して、広間の中央へと進み出た。


「皆様。本日は、お耳に入れたいことがございます」


 優美な声が、広間に響き渡った。ざわめきが、ぴたりと静まる。


 アマーリエは、ゆっくりと、ローザを指し示した。


「この方は――皇妃ヴィオレッタ様ではございません。その妹の、ローザ。身代わりの、偽りの皇妃なのです」


 広間が、凍りついた。


 次の瞬間、貴族たちの間に、どよめきが走った。偽りの皇妃。身代わり。その衝撃的な言葉が、波のように広がっていく。


 アマーリエは、勝ち誇った笑みを浮かべた。


「証拠もございます。この女は、姉になりすまし、陛下と帝国を欺いてきたのです。なんと、おぞましいこと」


 すべての視線が、ローザに突き刺さった。


 糾弾、軽蔑、好奇。あらゆる感情の混じった、無数の目。


 だが――ローザは、ひるまなかった。


 彼女は、静かに一歩前へ進み出た。そして、凛とした声で告げた。


「皇太后様の仰るとおりでございます」


 その言葉に、広間が再びどよめいた。まさか、本人が認めるとは。


「私は、ローザ・フォン・アーベライン。姉の身代わりとして、嫁いでまいりました。それは、紛れもない事実でございます」


 ローザは、堂々と、貴族たちを見渡した。


「ですが――なぜ、私が身代わりとなったのか。皆様は、その理由をご存じでしょうか」


 ローザの声が、広間に朗々と響いた。


「姉は、失踪したのではございません。攫われ、囚われたのです。この帝国を内側から崩そうとする、ある陰謀によって」


 貴族たちが、息を呑んだ。アマーリエの表情が、わずかに揺らいだ。


「証拠を、ご覧に入れましょう」


 ローザは、合図をした。


 広間の扉が開き、保護されていた姉ヴィオレッタが、姿を現した。やつれてはいたが、毅然とした足取りで、姉は進み出た。


「私は、ヴィオレッタ・フォン・アーベライン。本物の、姉でございます」


 姉は、震える声で、けれど力強く証言した。


「私は、隣国の密偵ユリウスに誘惑され、囚われておりました。すべては、皇帝陛下を孤立させ、毒殺するための、陰謀の一部だったのです」


 広間が、騒然となった。


 続いて、ローザは、押収した異国の毒と、皇太后と隣国を結ぶ書状の写しを、貴族たちの前に突きつけた。


「皇帝陛下に、長年盛られてきた毒。それは、ユリウスが手配し、隣国が後ろ盾となり――そして、宮中で実際に盛り続けてきたのは、皇太后様、あなたでございます」


 ローザの声が、広間を貫いた。


「あなたが私の正体を知り得たのも、姉を囚えるユリウスから、その情報が流れたから。すべては、ひとつの陰謀のもとに、つながっているのです」


 アマーリエの顔から、優美な仮面が、剥がれ落ちていく。


「な……何を、馬鹿な……!」


 だが、物証は、あまりに揃いすぎていた。


 動揺は、瞬く間に広がった。アマーリエ派の重鎮であった宰相グレゴールが、まず青ざめた。書状には、彼の関与を示す証拠も含まれていたのだ。


「グレゴール卿。あなたの名も、ここにございます」


 ローザが告げると、グレゴールはがくりと膝をついた。彼に連なる貴族たちも、次々と顔色を失っていく。


 形勢は、完全に逆転した。


 告発する側だったアマーリエが、いまや、告発される側に立っていた。


 広間中の視線が、皇太后へと集まる。糾弾の目となって。


 アマーリエの、微笑みの仮面が――音を立てて、剥がれ落ちた。


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