第37話
姉から得た情報は、点と点をつなぐ決定的な鍵となった。
ローザは宮廷へ戻ると、すぐに皇帝へ報告した。姉の証言と、これまで集めた証拠。それらを突き合わせ、陰謀の全体像が、ついに明らかになった。
「押収した毒を、調べてみた」
皇帝が、ひとつの小瓶を取り出した。密偵が、皇太后の宮から密かに持ち出したものだった。
「お前の見立てどおりだ。これは、国内では作れぬ、異国産の毒だった」
ローザは、その小瓶を受け取り、慎重に検めた。
香り、色、わずかな結晶の形。それらを、母の薬草書と照らし合わせる。間違いなかった。茶会で盛られたものと、同じ系統の異国の毒だ。
「これは、ユリウスが手配したものでしょう」
ローザは、確信を込めて言った。
「緩やかな毒を調合し、隣国から持ち込んだのがユリウス。後ろ盾となったのが隣国。そして、宮中で実際に陛下に盛り続けてきたのが、皇太后様。三者が、一本の糸で結ばれています」
皇帝は、深くうなずいた。
「すべてが、つながった。これで、大夜会で突きつける証拠は揃った」
「それと、陛下」
ローザは、ずっと胸にあった疑問を口にした。
「皇太后様が、なぜ私の正体をご存じだったのか。ずっと、それが分かりませんでした。けれど、いまなら分かります。あの証拠は――姉を囚えるユリウスから、流れたものなのです」
ローザの声に、確信がこもった。
「私が偽物だと知る、唯一の外部の者。それが、本物の姉を囚えているユリウスです。彼が、その情報を皇太后様に流し、身代わりの証拠を握らせた。すべては、同じ黒幕の手の内にあったのです」
謎のひとつが、また解けた。だがそのとき、ローザは、もうひとつの異変に気づいた。
小瓶の毒を、改めて検めるうちに、奇妙な点が浮かび上がってきたのだ。
「陛下……。この毒、これまでのものと、少し違います」
ローザの表情が、険しくなった。
「ここ最近、盛られ方が、変わっているように見受けられます。これまでの緩やかなものに加え、別の、より強いものが混ぜられた痕跡が……」
皇帝の顔色が、変わった。
「どういうことだ」
「分かりません。ですが――」
ローザの胸に、不吉な予感が走った。
「もしや、皇太后様は、計画を変えようとしているのではないでしょうか。陛下を生かして操る、という方針を、捨てようとしているのかも」
ローザの解毒によって、傀儡化の計画は崩れ始めている。ならば、皇太后が次に取る手は――。
皇太后にとって、生きたまま操れぬ皇帝は、もはや邪魔者でしかない。むしろ、解毒の事実が知れ渡る前に、片づけてしまいたいと考えても、おかしくはなかった。
言葉にするのが、恐ろしかった。
生かして操ることができぬのなら、いっそ、亡き者にする。その方向へ、舵を切ったのではないか。
「気をつけねばなりません」
ローザは、皇帝を見つめた。
「敵は、追い詰められています。追い詰められた者ほど、何をするか分からない。大夜会では、これまで以上の警戒が必要です」
皇帝は、険しい面持ちで、うなずいた。
「それと――もうひとつ、分かったことがある」
ローザは、続けた。
「この毒を完全に解くには、ただの薬草では足りません。同じく異国産の、希少な生薬が要ります。それがなければ、根本からの解毒は、叶わないのです」
これまでローザが施してきたのは、あくまで毒の進行を抑える、対症的な処置にすぎなかった。体内に蓄積した毒を、根こそぎ取り除くには、その特殊な生薬が、どうしても必要だった。
その言葉は、来るべき最大の山場を、静かに予告していた。




