表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり花嫁は、皇帝陛下に正体を知られている  作者: 小林翼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/55

第29話

 使節の存在は、新たな疑問を生んだ。


 なぜ、皇太后は、隣国の使節と密かに通じているのか。そもそも、皇太后の真の狙いは、何なのか。


 ローザと皇帝は、これまでの情報を、改めて検討した。


「分からぬのは、皇太后の目的だ」


 皇帝が、思案げに言った。


「私を、ただ殺したいのであれば、もっと早く、確実な手を打てたはずだ。だが、毒は緩やかで、長きにわたっている。まるで、私を、すぐには死なせたくないかのように」


 ローザは、はっとした。


 その違和感は、ローザもずっと感じていたものだった。緩やかな毒。なぜ、一気に殺さないのか。


「陛下。もしや……皇太后様の狙いは、陛下を殺すことではなく――」


 ローザは、ひとつの考えにたどり着いた。


「生きたまま、無力化することではないでしょうか」


 皇帝の目が、鋭くなった。


「続けよ」


「緩やかな毒で、陛下のお身体を弱らせる。政務もままならぬほどに。けれど、死なせはしない。そうすれば――」


 ローザは、声を落とした。


「弱った陛下を傀儡として、皇太后様ご自身が、摂政として実権を握ることができます。表向きは陛下を支える忠臣を装いながら、その実、すべての権力を、ご自分の手に」


 言いながら、ローザは、皇太后のあの微笑みを思い出していた。穏やかで、気品にあふれ、誰からも敬われる先帝の后。その仮面の下に、これほどの野心が隠されていたとは。


 皇帝は、しばし沈黙した。


 そして、低く言った。


「筋が、通る」


 彼の表情に、苦いものが浮かんだ。


「私が死ねば、世継ぎのない玉座は、継承の混乱を招く。それは、皇太后にとっても、望むところではない。混乱に乗じて、別の者が台頭するかもしれぬからな。ならば――私を生かしたまま、操る。それが、最も確実に権を握る道だ」


「そして」


 ローザは、続けた。


「その見返りに、隣国へ便宜を図る。隣国は、皇太后様を通じて、この国に影響を及ぼせる。両者の利害が、一致しているのです」


 すべてが、つながった。


 皇太后の野心。隣国の思惑。緩やかな毒の意味。それらが、ひとつの絵図として、像を結んだ瞬間だった。


 長く謎だった、緩やかな毒の理由。それは、殺意の薄さゆえではなく、むしろ計算され尽くした非情さの表れだった。一思いに殺すよりも、生かして操るほうが、ずっと残酷で、ずっと狡猾なのだ。


 ローザは、背筋に冷たいものを感じた。


 なんという、底冷えのする企てだろう。皇帝の命を、ぎりぎりのところで弄び、生かさず殺さず、ただ権力の道具として利用する。微笑みの裏で、それほどの非情を企てる皇太后。


「だが、皮肉なものだ」


 皇帝が、ふと、ローザを見た。


「お前が現れ、毒を解き始めた。皇太后の計画は、いまや狂い始めている。私の身体は、傀儡となるどころか、回復に向かっているのだからな」


 その言葉に、ローザは、ある不安を覚えた。


 計画が狂い始めれば、皇太后は、次にどう動くのか。生かして操るという目論見が崩れたとき、あの非情な女は――。


 その不吉な予感が、形を成す前に。


 ローザのもとに、一通の使いが届いた。


 差出人は、皇太后アマーリエ。ローザを名指しで、呼び出す報せだった。


 なぜ、いま。ローザの胸が、不穏に騒いだ。茶会のときとは違う、ただならぬ気配が、その短い報せからは漂っていた。まるで、こちらの動きを見透かしているかのように。


 ローザは、報せを握りしめ、覚悟を決めた。逃げることは、できない。ならば、相手の出方を、この目で確かめるまでだ。


 よく効く薬草ほど、険しい崖に咲くもの。母の薬草書の余白に、母が書き残していた異国の言葉が、ふと脳裏をよぎった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ