表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身代わり花嫁は、皇帝陛下に正体を知られている  作者: 小林翼


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
26/55

第27話

 宮廷へ戻ると、二人はすぐに、密かな会議を開いた。


 集まったのは、皇帝とローザ、そして近衛騎士のレオン。刺客の刃に刻まれていた、隣国の紋章。それを前に、三人は深刻な面持ちで向き合った。


 ローザにとって、この場にレオンがいることは、意味のあることだった。あれほど自分を疑っていた騎士が、いまは同じ卓を囲んでいる。皇帝の傷を手当てしたことが、彼の態度を、わずかに和らげたのかもしれない。


「やはり、隣国が動いている」


 皇帝が、低く言った。


「私への毒も、ローザの姉の失踪も、そして此度の刺客も。すべては、ひとつの大きな企みの一部だ。隣国が、この帝国を内側から弱らせ、影響下に置こうとしている」


 レオンの表情が、険しくなった。


「ですが陛下、宮中で実際に毒を盛っているのは、宮廷内の者のはず。隣国の手の者だけでは、これほど長く、陛下のお身体に近づけません」


「そのとおりだ」


 皇帝は、うなずいた。


「隣国が、毒と後ろ盾を用意し、宮中の何者かが、それを実行に移している。内と外。二つの勢力が、手を結んでいるのだ」


 ローザは、これまでの出来事を、頭の中で整理した。


 茶会で異国の薬草を用いた、皇太后アマーリエ。その威厳と権力。そして、何より――皇帝への、消えぬ敵意。


「宮中で動いているのは……皇太后様、なのではないでしょうか」


 ローザが、おそるおそる口にした。


 皇帝は、しばし黙った。やがて、静かに言った。


「私も、その疑いは持っている。だが、確たる証拠がない。皇太后を、軽々しく告発はできぬ。下手に動けば、こちらが潰される」


 重い沈黙が、部屋に落ちた。


 相手は、宮廷で最も重んじられる皇太后。その背後には、隣国という巨大な後ろ盾。あまりに、強大な敵だった。


 立ち向かえば、自らの正体が露見する危険も増す。身代わりの皇妃という弱みを抱えたまま、これほどの敵に挑むのは、無謀とも言えた。引き返すなら、いまのうちだった。


 だが、ローザの心は、決まっていた。


「陛下」


 ローザは、まっすぐに皇帝を見つめた。


「私は、逃げません。姉を陥れ、陛下を蝕み、この国を狙う者たちを、必ず突き止めてみせます。母から受け継いだこの知識を、そのために使わせてください」


 その瞳には、強い決意が宿っていた。


 皇帝は、そんなローザを、じっと見つめた。


「ローザ。これは、危険な戦いだ。命を、落とすかもしれぬ」


「承知のうえです」


 ローザは、ひるまなかった。


「それでも、私は陛下と共に、戦いたいのです」


 言いながら、ローザは自分の心を、はっきりと自覚していた。これはもう、契約のためでも、家のためだけでもない。この人を守りたい。その純粋な願いが、ローザを突き動かしていた。


 皇帝の瞳が、わずかに揺れた。そして、彼は、静かにうなずいた。


「ならば――共に、戦おう」


 皇帝は、ローザに手を差し出した。ローザは、その手を、しっかりと握り返した。


「私も、お供いたします」


 レオンが、片膝をついた。その目に宿っていた疑念は、もはや消えていた。


「陛下と、皇妃様のために。この剣、捧げまする」


 三人の心が、ひとつになった瞬間だった。


 偽りから始まった絆が、いまや、巨大な陰謀に立ち向かう、確かな同盟へと変わっていた。


 ひとりでは、なすすべもなかった。けれど、三人なら。互いを信じ合える仲間がいれば、この強大な敵にも、立ち向かえるかもしれない。ローザの胸に、恐れと、それを上回る決意が、静かに満ちていった。


 宮廷の闇へ、踏み込む覚悟が、静かに固まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ