第5話 エデンの仮説と、地獄の扉
ガラガラガラガラ……
再び走り出した馬車。
私とエドワードは窓から見える景色を、
ただ唖然と見つめていた。
なぜなら、牧草地帯を抜けたと思えば、
いきなり目の前に海に囲まれた
真っ白で美しい、
まるで城塞都市のような町が姿を現したからだ。
海岸沿いの港には何隻もの船が停泊している。
そしてその都市の中心部には、
船を降りたときに見えた立派な城が
そびえ建っていた。
「こ、これはどういうことなんだ……?」
エドワードが唖然とした表情を浮かべている。
もちろん、この私も同じだった。
「本当にどういうことなのでしょう?
船を降りた場所が港だったのでは
ないのでしょうか?」
でもどう見ても、
船を降りた港とはまるで別世界だった。
「うん、降りたときは、
なんて寂しい港だろうって思っていたけれど……」
「そうですよね!?
人の姿もどこにもなかったですし、
まるで牛しか住んでいない
無人島かと思ってしまいましたよ!」
美しい城塞都市が近づくにつれ、
私たちの興奮度が上がっていく。
ガラガラガラ……!
ついに、私たちを乗せた馬車が、
城塞都市へと続く大橋を渡り始めた。
「すごい……!
なんて美しい町並みなんだ!」
我慢できなくなったのか、
エドワードが窓を開けた。
途端に心地よい潮風が馬車の中に吹き込み、
活気の良い町の喧騒が耳に飛び込んできた。
「まぁ……!」
私も窓の外から顔を出し、周囲を見渡す。
白い石畳に、
店や家々も白で統一された美しい建造物。
町を歩く人々は、
皆楽しそうな表情を浮かべている。
身を乗り出していた私とエドワードは、
視線を合わせて深く頷き合う。
馬車の中に引っ込むと、
また顔を寄せ合ってコソコソと話を始めた。
「一体これはどういうことなんだろう?
ここは断罪された人々が集まる場所だって
聞かされていたのに」
「私もそう聞いていました。
でも、どう見てもこの島は平和そのものだと
思いませんか?
海はきれいだし、牛たちも人々も幸せそうですよ」
「うん、アメリアの言う通りだ。
だからこそ、
僕はある一つの『仮説』を立ててみたんだ」
エドワードが人差し指をピンと立てた。
「仮説……ですか?
それは一体、どんな……」
ごくり、と息を飲む私。
「この島の名前を覚えているよね?」
「はい、もちろんです。
『エデン』島ですよね?」
「つまり、この島で暮らす人たちは全員が、
まるで天国のような環境で暮らしているのは
間違いない。ただ……」
「ただ?」
再び、ごくりと息を飲む。
「天国があれば地獄もある。
それが、僕たちがこれから入学するあの学園だ」
エドワードは窓から見える、
白亜の城をビシッと指さした。
「あれが……地獄? ですか?」
どう見ても地獄の住人が集うような
場所には思えない美しい城を、
私も見つめる。
「あの学園には断罪された子息令嬢たちが
集められている。
きっとそこは地獄のような場所。
一度あの城に入れば、
僕たちはもう外に出ることができない……
かもしれない」
「言われてみれば……確かにそうかもしれません!」
うんうんと頷く。
「美しい町で楽しく暮らす島民たちを、
僕たちは閉じ込められた場所から
羨望の眼差しで見つめるしかない。
どうだい?
まさに地獄だとは思えないかい?」
「そうですね、確かに地獄かもしれません」
妙に説得力のあるエドワードの仮説には驚かされる。
「アメリア、住めば天国という言葉がある。
いつかあの場所も僕たちにとって、
天国になり得るかもしれない。
だから、それまで頑張ろう」
「は、はい!」
何とも心強いエドワードの言葉。
あぁ、この人が同じ転校生で本当に良かった……。
その時、ガタンと馬車が止まった。
眼前には頑丈な鉄の扉と、
聳え立つ城壁が見える。
そして――
ギィイイイイ……。
大きな音を立てて、重厚な扉が開いていく。
その音が地獄へ続く扉の音に聞こえたのは、
言うまでもなかった――




