第2話 エデン島への第一歩
ボーッ……。
蒸気船が大きな汽笛を鳴らし、
私たちの目的の島――
「エデン」島に到着した。
「や、やっと……降りられますね……」
「うん……本当に、苦行の旅だった……」
甲板のデッキに寄りかかりながら、
船員たちが船を接岸する様子を
二人でぼんやりと眺める。
下船の準備が終わるまで、
前方の「エデン」島に目を向けてみた。
青い海と緑に囲まれた、
息を呑むほど美しい島。
港に立ち並ぶ建物はすべて美しい白で統一され、
すぐ付近にはのどかな牧草地帯が広がっている。
そして島の中央に位置する小高い山には、
まるでお城のような立派な建造物も見えた。
もしかすると、
あの城がこれから私が通うことになる
『フレデリック学園』。
別名『断罪学園』だろうか……?
「「はぁ~……帰りたい……」」
思わず深いため息をついたとき、
偶然にも私とエドワードの声が重なった。
「「え?」」
思わずお互いの顔を見つめ合う。
「もしかして……」
「君も、本当は……?」
「「あの学園に行きたくない!?」」
私とエドワードの声が、
再び綺麗に重なった。
「そうか……やっぱり君も、
例の噂を知っていたんだね。
あの学園が別名、
断罪学園と呼ばれているのを」
エドワードが神妙な顔つきになる。
「はい、もちろんです。
エデン島という名前とは裏腹に、
極悪人ばかりが集まる島だと聞いています。
特にフレデリック学園は、
断罪された子息令嬢たちが集まる
掃きだめの学園だって……」
恐ろしい噂を口にして、
思わず身震いしてしまう。
「うん……僕も君と同じようなことを
聞かされているよ。
断罪された者は二度と本土には戻れない……
そんな噂まであるよね」
「は、はい……」
そう、その噂も私は耳にしている。
一体この島で何が行われているのか……。
私一人じゃなくて、本当に良かった。
港を見ているエドワードの横顔を
そっと伺う。
するとエドワードが振り返った。
「船の接岸が終わったみたいだね。
それじゃ……」
「降りましょうか……?」
私たちは互いに深く頷き合うと
僅かな荷物が納められた旅行鞄を手に
タラップを降りて行った――
****
港に降り立ったのは、
私とエドワードの二人だけだった。
「「はぁ~……」」
仲良くため息をつくと
タラップの傍に立っていた船員が、
私たちに笑顔で声をかけてくる。
「この島は最高だよ。
住めば天国だ。
充実した生活を楽しむといい」
「え?」
「は、はい……」
私もエドワードも、
あまりに意外な言葉に目を丸くしながら
頷いた。
「それじゃ、元気でな」
船員はそれだけ言い残すと
船に戻っていき、
ガラガラと音を立ててタラップも上げられていく。
ボーッ……
汽笛を鳴らしながら遠ざかる船の様子を、
私たちはただじっと見つめるしかなかった。
するとエドワードが呟くように言葉を漏らす。
「……やっぱり降りたのは僕たちだけだった
みたいだね。
あんなに大勢、乗客がいたのに」
「はい、そうですね。
何しろここは、あの学園があるところですから……」
私は山頂を見上げ、
恐らくこれから転入することになる
学園らしき建造物に視線を移す。
「「はぁ~……」」
再び、私とエドワードのため息が重なる。
「ははっ。
また、ため息が重なったね。
これで五回目だ」
エドワードがさわやかな笑顔で振り向いた。
その仕草に、
思わず胸がドキリとした。
「そ、そうですね。
それにしても……お迎えの馬車は
どうしたんでしょうね~」
気恥ずかしさを隠すため、
慌てて話題を変える。
「うん、確かに。
僕たちがこの時間に到着することは、
学園側も知っているはずだけどね」
その言葉に私は少し考え込んだ。
頭をよぎったのは最悪の可能性。
「……もしかして、
これも『罰の一環』なのでしょうか……?」
「え? 罰?」
「はい。
お迎えに来るというのは実は真っ赤な嘘で、
本当は『自力で学園まで這い上がって来い』
という試練なのでは……」
するとエドワードの表情が曇る。
「なるほど、君の言うことは一理あるかも。
なにしろここは、
悪名高い『断罪学園』だからね」
「悪名高い」という部分を
強調するエドワード。
「それなら、しかたありませんね。
私たちだけで行くしかないかもしれません」
「うん。
とりあえず辻馬車乗り場を探そうか?
けれど……本当に人の気配がないね」
エドワードが周囲を見渡す。
ザザーッ……
ザザーッ……
ミャオウ
ミャオウ……
潮の香り。
波の音とウミネコの声が
静かな港に響き渡っている。
まるでリゾート地のごとく美しい島であるものの、
不気味なほどにまったく人の気配がない。
「とりあえず、
少し周囲を歩いてみましょうか?」
「うん、そうだね」
私の提案に頷くエドワード。
足元に置いておいた荷物を再び手にして
一歩を踏み出したその時――
背後から不意に声がかけられた。
「お待たせして申し訳ございません。
エドワード様、アメリア様」
「「え?」」
私たちは同時に
勢いよく振り返った――




