第1話 波の上の出会い
ザザーン……
ザザーン……
何処までも広がる大海原を進む
一隻の大型客船。
「うぅ……き、気持ち悪い……」
私は大型客船の甲板の上で、
激しい船酔いと戦っていた。
今まで一度も船に乗ったことがない
私にとっては、
これ以上ない苦行だった。
「婚約破棄のうえ、
離れ小島に追放だけでも堪え難いのに……
まさか、ここに船酔いまで
おまけでついてくるなんて……」
はぁはぁ、と肩で息をする。
船に乗って四日目、
未だに慣れる気配がない。
既に私は限界に達していた。
今私が乗っている大型客船は、
十日間かけて様々な国を廻ることになっている。
そして私が追放される島が、
その経由地の一つに含まれているのだ。
「はぁ~……外に出れば、
少しは船酔いが治まるかと
思っていたのに少しも
良くならないわ……」
青い空を見上げて、ポツリと呟き――
「「うえぇえええ――!」」
再び激しい船酔いに襲われ、
たらいに顔を突っ込み……
ふと気づいた。
あれ?
今、私の他にも誰かが……?
声が聞こえた方角へ顔を向けると、
いつの間にか一人の青年が、
すぐ傍でたらいを抱えてうずくまっていた。
「あ、あの……大丈夫ですか……?」
恐る恐る声をかけると、
その人物が顔を上げた。
「は、はい……大丈夫と
言いたいところですけど……」
船酔いの為か、
青白い顔をしてはいる。
けれどなかなか端正な顔つきをしていた。
黒みがかった銀髪に、緑の瞳。
年は私と同じくらいだろうか。
その瞬間。
なぜか元・婚約者の言葉が脳裏に蘇る。
『お前は外見だって地味な癖に
その上不愛想。
せいぜい新天地では愛想良くふるまうことだ。
何しろあの学園は曲者ばかりが
集う場所だからな』
愛想、何事も愛想ね……。
そこで私は笑顔を作った。
「船酔い……お互い辛いですね。
こんなに苦しいなんて船に乗るまで
知りませんでしたよ。アハハハ……」
「そうですね……早く目的の島に
着いて欲しいですよ……
もう限界に近いです。ハハハハ……」
青年も乾いた笑いをする。
「あの……どちらで降りるのでしょうか……?」
吐き気を紛らわすために、
続けて会話を試みてみた。
「僕はエデン島で降りる予定ですよ……
今日の正午過ぎには到着予定ですね……
本当は降りたくないけど……
この船酔いから解放されるなら、
もう何だっていいですよ……ハハハ」
え?
その話にドキリとなる。
まさかとは思うけど、彼も……?
そこで恐る恐る尋ねることにした。
「あの……もしかして
『フレデリック学園』の学生さんでしょうか……?」
「え? そ、そうですけど……何故、それを……あ、まさか……」
青年が青い顔で目を見開く。
「はい、私も……実は、その島へ……」
「そうだったのか……
僕の名はエドワード・ランカスター。
良かったら……君の名前も教えてくれるかな……?」
たらいを抱えたままの青い顔で
フレンドリーに尋ねられた。
「はい……私はアメリア・ローズウェルと言います」
私もたらいを抱えたまま返事をする。
そして――
「「うええええー!!」」
甲板に私と彼――エドワードの声が響き渡った……。




