第21話 今度の定例会は君が主役だ
カチャカチャ……。
静まり返った理事長室に、
フォークとナイフの動く音だけが
虚しく響いている。
極限の緊張状態のまま、
目の前の食事を進める私とエドワード。
(この食事……本当に食べても
大丈夫なの……?)
そんな不安を抱える一方。
フレデリック理事長だけが
実に上機嫌そうに食事を楽しんでいた。
「君たちはどんな食べ物が好きなのかね?
まずはアメリアさんから話を聞こうか。
レディファーストでな」
えっ!? わ、私からですか!?
満面の笑顔で指名され、
心臓が口から飛び跳ねそうになる。
けれど、私たちに拒否権などない。
私とエドワードの命は、
今やこの理事長に完全に
握られているようなものなのだから。
(ここで理事長の
機嫌を損ねるわけにはいかないわ……っ!)
「えっと……そ、そうですね!
主食なら、焼き立ての白パン!
しゅ、主菜ならチキンのトマトソース!
スイーツなら……ア、アップルパイが
好きです!!」
カチコチに硬直しながら
最後は思いきり力を込めて、
まるで自分の全罪状を告白するかのように
一気に訴えた。
すると
理事長は意外そうに目を丸くする。
「ほう、これは驚きだ。
主食に主菜、
スイーツまで一気に教えてくれる学生がいたとはね」
「す、すみません!!」
顔を真っ赤にしながら、
必死に頭を下げた。
(ああああっ!! バカバカ、私のバカ!
命が惜しくて取り繕おうとしたせいで、
つい聞かれてもいない余計なことまで
ベラベラと口にしてしまったわ……!)
「アメリア……」
隣から、エドワードが心配そうな眼差しを
私に向けてくる。
「いや、何もそんなに謝る必要などないよ。
だがお陰で、
君の人となりが実によく分かった」
理事長が何やら意味深な言葉を口にする。
あ、あの~……それは一体
どういう意味なのでしょう。
私の弱点でも見つけたのでしょうか?
私の絶望をよそに、
理事長は次にエドワードへと視線を移した。
「それではエドワード君。
君の好きな食べ物も私に教えてくれないか?」
すると――
「はい、理事長。
僕の好きな主食はクロワッサン。
主菜は白身魚の白ワイン煮。
好きなスイーツはスパイスの効いた
ジンジャーケーキです」
なんと、エドワードは
淀みなくスラスラと同じ形式で答えたのだ。
「……ほう、これはまた驚いた。
まさか君までアメリアさんと同じように
丁寧な返答をしてくれるとはね」
「エドワード……」
私は思わず彼の美しい横顔をじっと見つめ、
その名前を呟いていた。
(まさか余計なことを話しすぎて自爆した
私を庇うために、
あえて同じように答えてくれたの……!?)
なんて頼もしくて優しい人なのだろう。
私が感動に震えていると、
エドワードがこちらを振り向き、
笑みを浮かべる。
その笑顔は、
『大丈夫、僕らは一蓮托生だよ』と
語りかけてくれているように思えた。
次の瞬間。
理事長が突如として大きな声で笑い出す。
「ハハハハ……ッ! これは面白い。
そうか、そうか。
君たちは……なるほどなぁ!」
一人で納得したかのように
大笑いする理事長。
けれど私とエドワードは、
なぜ理事長が突然笑いだしたのか
全く見当がつかなかった。
ついに耐えかねたのか、
エドワードが笑い続ける理事長に声をかけた。
「あ、あの~……理事長?」
「いや~これは失敬!
まさかここまで二人の息がぴったりだとはねぇ。
……ふむ、今度の定例会は二人まとめて
行ってもらおうかとも思ったが、
やはりやめよう」
理事長は楽しげに目を細めると、
私を見つめた。
「まずは、アメリアさん。
今度の定例会は……君が主役だ」
「「ええええ!?」」
私とエドワードの叫び声が
綺麗に重なった――




