第19話 理事長からの呼び出し
エデン島に送られてきた衝撃的な日から
一夜が明けた――
ミャウミャウ……。
「う~ん……」
爽やかなウミネコの鳴き声で、
私はふと目を覚ました。
「……良く寝れてしまったわ……」
天井に広がる豪華な天蓋付きの
ベッドを見上げながら、
ポツリと呟く。
昨日はあんなに恐ろしい思いをして、
一晩中緊張で眠れない夜を過ごすに
違いないと思っていたのに。
驚くべきことに、
あまりにも寝心地の良い極上のベッドのお陰で、
私は一瞬で泥のようにぐっすりと
眠ってしまったのだった。
まさか自分が、
異国の監獄島で初日から熟睡できるほど
図太い人間だったなんて……。
「……ううん、違うわ!
これは私の神経が図太いんじゃなくて、
旅の疲れよ!
昨日あまりにも一度に色々な出来事が
起こりすぎたから、
疲れがたまって眠れてしまったのよ!」
自分自身に必死で言い聞かせると、
ガバッとベッドから飛び降りて
クローゼットへ駆け寄った。
何故なら、そこには……。
バンッ!
「これよ、これ……」
勢いよく扉を開け、
私は震える手でハンガーに掛けられた制服を
手にとった。
深海のように深い、
気品に満ちたネイビーブルーの制服。
ジャケットの裾や袖口には、
繊細な金糸の刺繍が贅沢に施されている。
まるで一国の王女が公式行事で
纏う式典用のドレスを、
品の良い制服に仕立て直したかのような
圧倒的な高級感。
裾から覗く純白のフリルスカートは、
上品なシルエットを醸し出している。
「こんな超高級そうな制服を用意する
フレデリック学園……
恐ろしい、恐ろしすぎるわ」
きっと本物の悪党や悪女である
学園の生徒たちが、
『一流の制服を用意しなければ、
今すぐ町に出て暴れ回るぞ!』と上層部を脅迫し、
無理やり用意させた制服に違いない。
「私のような、まがい物の断罪者が
この制服を着る資格があるのかしら……。
いいえ、着なければならないのよ!
郷に入っては郷に従え!」
私は半分ウキウキしながら、
真新しい制服に袖を通した――
****
「素敵……!
なんて素敵な制服なのかしら……!」
この制服を着ただけで、
自分がいつもより美人に見えるから
不思議なものだ。
思わず鏡の前の自分に見とれていた時。
――コンコン
不意に部屋の扉をノックする音が響き渡る。
「え? だ、誰……?」
時計を見れば、
時刻は七時を少し過ぎたところだった。
一体誰が、
こんな朝早くから私に用事があるというの?
私はビクビクしながら扉を開けた。
カチャ……
「は、はい」
すると、そこに立っていたのは寮母のジルさん。
「おはようございます、
アメリアさん」
「お、おはようございます……!」
現れたのがジルさんだと分かり、
ホッとした。
けれど次の瞬間、
衝撃的な言葉が彼女の口から飛び出した。
「理事長がお呼びですので、
今から一緒に参りましょう」
「えっ!?」
ショックで一瞬意識が遠のきかけた――
****
コツコツと床に足音を響かせながら、
ジルさんの案内で理事長室へと向かっていた。
「どうでしたか? アメリアさん。
よくお休みになられましたか?」
「え? は、はい。
おかげさまで、ぐっすり眠ることができました」
笑顔で話しかけられ、
私はありのままを答える。
(初日から爆睡だなんて、
肝が据わっていると思われるかも
しれないけれど……
だって本当に、
寝心地が抜群のベッドだったのだもの!)
心の中で必死に弁明する。
「それは良かったです。
あのベッドは最高級の作りで、
学生さんたちからも大変人気が高いのですよ」
「そ、そうなのですか」
はい、だと思いました。
「あのベッドのお陰で、
不眠症だったのが眠れるようになったという
学生さんたちも大勢いますからね」
「なるほど……」
さすがは断罪学園の学生たち。
(不眠症で眠れないと訴えて、
最高級のベッドを用意させたのね。
やっぱりこの学園は恐ろしい場所なのだわ……!)
けれど、そんなベッド論争は、
今の私にはどうでもいいことだった。
何より重要なのは、
なぜ理事長室へ呼ばれているかということ。
(うじうじ悩んでいても仕方ないわ。
いっそ、ジルさんに聞いてみましょう!)
「あ、あの~……理事長は、
どのようなご用件で私を……」
勇気を出して尋ねた瞬間、
ジルさんがぴたりと足を止めて振り返った。
え? な、何……!?
「アメリアさん」
「は、はい!」
声が思わず上ずる。
「理事長室に到着いたしました」
ジルさんは再び前方に向き直ると、
目の前の重厚な扉をノックしながら
声をかけた。
――コンコン
「理事長、アメリアさんをお連れいたしました」
『どうぞ』
扉の奥から声が響く。
「失礼いたします」
ガチャリ……
ジルさんが扉を開け、
私はその中へと足を踏み入れた。
そして......。
「えぇっ!!」
室内の光景が目に飛び込んできた瞬間、
私は思わず驚きで声を上げていた――




