第16話 学園一番の名所
カツーン
カツーン……。
私は今、
古びた石造りの螺旋階段を昇らされていた。
前を昇るのはニーナさん。
そして、私の背後を
ガッチリと固めているのがアリスさんだ。
「さあアメリアさん、
こっちよ。
この階段を上った先が、
私たちのとっておきの場所なの」
「急な階段だから、足元に気をつけてね?」
「は、はい……」
見るからに楽しげなニーナさんとアリスさん。
二人に促されながら、私は引きつった声で
返事をする。
(それにしても……なんて凄い場所なのかしら)
天井は見上げるほどに高く、
ぐるぐると渦を巻くように続く重厚な階段。
壁面は剥き出しの白い石壁。
まるで歴史ある城の牢獄か、
あるいは秘密の処刑塔にでも
迷い込んでしまったかのような錯覚を覚える。
壁には大きな格子状の窓が嵌め込まれており、
太陽の光が眩しく照らしていた。
階段を昇りながら窓の外を眺め、
己の不運な境遇を呪う。
(外はこんなに青い空が広がって、
光が眩しいというのに……!
私は今から、
この塔のてっぺんで恐ろしい目に……!)
「本当にそこは最高の場所なのよ」
「学生たちの一番のお気に入りの場所ね」
ニーナさんもアリスさんも
楽しみで仕方ない、という様子だ。
「アハハハ……そ、それは楽しみ……
ですわね」
私は精一杯の強がりを言う。
ここで下手に泣き叫んで、
彼女たちの怒りを買う訳にはいかない……!
(こうなったら何も知りません、
分かりませんを最後まで貫き通すのよ!
いざその場についたら、
必死になって拝み倒して
命乞いをするしかないわ……!)
心に固く決意し、
それでも次に待ち受ける残酷な試練を
想像して身震いする。
靴音を不気味に響かせながら、
私は螺旋階段を昇り続けた。
****
ヒュオォオ~……。
上へ、上へと連行されるにつれて、
窓から吹き込む潮風が強くなっていく。
間違いない。
私たちは今、屋上を目指して上っているのだ。
(屋上……! 屋上と言えば
人の目が完全につかない秘密の場所。
そこで一体、
どんな凄惨な仕打ちが私を待ち受けているの――!?)
半分パニックを起こしている
私の心を見透かすかのように、
前を行くニーナさんが振り返った。
「もうすぐ着くわよ、アメリアさん」
悪魔のような微笑みを浮かべるニーナさんに、
私は引きつりながら返事をした。
「そ、それは楽しみ……ですね……」
帰れるものなら今すぐ帰りたい!
という気持ちを必死に押し殺し、
ついに最上階の光が差し込む出口へと
たどり着いた。
「さぁ、どう!?
ここが私たちの『フレデリック学園』
一番の名所よ!」
ニーナさんが興奮気味に両手を大きく広げて
振り返った。
「まぁ……!」
思わず息を飲む。
最悪の覚悟をしていた私の目に
飛び込んできたのは、
息をのむほどに素晴らしい
「青と白」の世界だった。
雲一つない、
どこまでも澄み渡るような青空。
屋上の手すりの向こう側には、
陽光を浴びてキラキラと輝く白亜の街並みが、
遥か遠くまで一望できた。
緑豊かな丘では、
放牧された豆粒のような牛たちの姿が見える。
そしてその先には、
コバルトブルーの大海原が
世界の果てまで広がっていた。
「きれい……」
私はこれから自分の身に降りかかる恐怖を
一瞬だけ忘れて、
その圧倒的な美しさに心を奪われてしまった。
激しい潮風に髪を揺らされながら、
言葉を失っていると――
「あれ……?
もしかしてアメリア……?」
風に乗って、
聞き覚えのある懐かしい声が聞こえてきた。
「え!?」
驚いて顔を上げると、
前方僅か30メートルほど先。
私と同じように呆然と立ち尽くす、
あの人の姿があった。
「エドワード!?」
私は彼に向かって、
弾かれたように駆け寄った――




