第10話 またね、アメリア
「さて、二人の案内だが……
本来は寮長を呼ぶところだが、
あいにく今は定例会の真っ最中で
全学生は講堂に集まっているからな……」
定例会?
全学生は講堂に集合……。
まさか……あの断罪劇が定例会!?
恐怖で背筋が寒くなる。
エドワードの顔も心なしか
青くなっているようだ。
するとジョージ副理事長が提案した。
「でしたら代わりに
彼らを呼んではいかがでしょう?」
「ふむ、なるほど。
それは名案だ。
では早速彼らを呼ぶことにしよう」
理事長が頷く。
あの、彼らって……
一体誰のことなのでしょう?
すると理事長が
おもむろに書斎机に置かれたベルを手に取り、
激しく上下に振り出した。
チリンチリンチリン!!
けたたましくベルが鳴り響き、
あまりの煩さに思わず顔をしかめてしまう。
すると――
「「お呼びでしょうか? 理事長」」
スーツ姿の男性と地味なドレス姿の女性が、
同時に理事長室へ入って来た。
あまりにも突然の出来事に、
私とエドワードは同時に振り向く。
「忙しい最中呼び出してすまなかった。
寮長たちに変わり、
この二人を寮へ案内して欲しいのだ。
本日転校してきた
エドワード・ランカスター君と
アメリア・ローズウェルさんだ」
「はい、かしこまりました」
男性が流れるように返事をした。
「彼らは学生寮の寮父と寮母です。
あ、ちなみに年齢は二人とも三十歳で、
結婚五年目。
ときどき夫婦喧嘩をするときもありますが、
大抵は仲良し夫婦なのですよ」
副理事長は、
頼んでもいない情報まで丁寧に付け加える。
「では自己紹介をしてもらおうか?」
理事長の言葉に、
まずは男性が会釈した。
「初めまして。
私はニック・バートンと申します。
よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそよろしく
お願いいたします」
「よろしくお願いいたします」
エドワードが綺麗に会釈したので、
私も彼にならって一応会釈を返す。
すると今度は女性が自己紹介をした。
「私はジル・バートンと申します。
どうぞよろしくお願いいたします」
「「よろしくお願いいたします」」
今度はエドワードと言葉が綺麗に重なる。
「よろしい。
それでは互いに自己紹介も済んだことだし、
ニック、ジル。
二人をそれぞれの寮に案内してあげてくれ。
それではエドワード君。アメリアさん。
我が学園生活をどうか楽しんでくれたまえ」
理事長はニカァッと笑みを浮かべる。
「私は理事長と話がありますので、
ここで失礼させていただきますね。
フフッ」
ジョージ副理事長も、
最後に意味深な含み笑いをする。
あの……なぜ、そこで笑うのでしょう?
なんて聞けるはずもなく、
私たちは会釈をすると理事長室を後にした。
****
部屋を出るとニックさんがクルリと
振り返った。
「さて。では、お二人をそれぞれの学生寮に
御案内いたしましょう。
なので一旦、ここでお二人はお別れになります」
「「え!?」」
お別れ、という不穏な響きに
私とエドワードの声が同時に重なる。
すると、ジルさんが上品に微笑んだ。
「フフッ。お二人はもう既に
仲がよろしいのですね。
でもご安心ください。
寮は男女別々の場所になりますが、
学び舎は同じ場所になりますから」
「え? そ、そうなのですか?」
「良かった……」
安堵で胸をなでおろすと、
エドワードがホッとしたような顔で私を見つめてくる。
エドワード……。
あなたも、もしかして私と離れるのが寂しくて……?
「アメリア、君と一緒の校舎で過ごせそうだね。
良かった」
「は、はい」
少しの間、ニックさんとジルさんの存在を
忘れて見つめ合ってしまう私たち。
すると「コホン」とジルさんが小さく
咳払いをした。
「それではそろそろよろしいでしょうか、
お二人とも」
「「は、はい!!」」
私たちは顔を真っ赤にして、
同時に直立不動で返事をする。
「それでは参りましょう。アメリア様」
「行きましょうか、エドワード様」
「「はい」」
先にニックさんが歩き始めたので、
エドワードは歩きながら私に手を振ってきた。
「またね、アメリア」
「は、はい、また後程!」
私も熱くなった顔を隠せないまま
手を振り返すと、
エドワードはニコリと爽やかに笑って
去っていった。
……ハッと我に返る。
危ない、浮かれている場合ではなかった。
「それでは私たちも参りましょう」
「はい」
ジルさんがにこやかに声をかけ、返事をすると
彼女はスタスタと歩き始めた。
そして、後に続く私。
(私はこれからエドワードと離れて
断罪者たちが集まる恐ろしい女子寮へ、
たった一人で乗り込まなくてはならないのね……)
「……これからが本当の地獄だわ。
しっかりしないと」
ジルさんの背中を見つめながら、
自分自身に強く言い聞かせる。
そしてこの先に待つ女子寮で、
さらなる驚愕の出来事に遭遇することになる――!




