70話 みんなと合流できたのは、アリです!
「大丈夫ですか!?」
苦戦していたカルディラ傭兵団を助けるために、私は飛んだ。
着地したのはリースさんの盾の上、五体のサハギンソルジャーが感情のない瞳で私のことを見上げる。
「ヴィ……ヴィーナちゃん!?」
「やぁっ!!」
盾の周りにいるサハギンソルジャーを倒した後、ライラさんとユノさんへと声を張り上げる。
「ライラさん、ユノさん! こっちは気にせずに、いつも通り戦ってください!」
「ヴィナちゃん……! 待たせてくれちゃってー!」
「……おいしいところ、持って行く」
前にいるのは海を隠すほど大勢のサハギンソルジャー。
……私の、あの力を使えば余裕は出来る。だけどアレを使えば、いつも剣は砕けていたけど……。
ううん、いける! 今の私ならいけるはず!
剣に意識を集中する。剣の力が私の手の中に流れ込んでくるような、不思議な感覚。
――滑らせるように、でも芯は外さない……!
いつも通り、いつも通り……!
「――やああああっ!!」
力を込めて、一閃。
射程以上の攻撃は、海を隠すほどのサハギンソルジャーの軍勢を大きく崩すほどの威力だった。
剣は砕けて…………ない! 大丈夫だった!
だけど敵の足は止まらないし、今も海から現れ続けている。
それでも確実に時間は稼げたはず。稼げた、ということは……。
「…………」
ピンチだから飛び込んだけど、私はどんな顔をすれば……?
戦っているときよりも緊張してきた……。
おそるおそる振り返ると、懐かしい面々がそこに立っていた。
離れたのは少しなのに、何故か凄く懐かしい。
ライラさん、リースさん、ユノさん。そしてシルフィさん。
何も言わずに飛び出していったはずの私を、絶対に怒って――
「ヴィナちゃん凄いじゃない! 剣砕けてないよ!?」
「ら……ライラさん、怒ってないんですか……!?」
「話は聞いた。怒るわけ……いや、最初は少しだけ怒ったけどさ、本気で怒るわけないじゃない?」
「そうそう! リースたちも調べたんだよ! ヴィーナちゃんは悪くないって!」
「リースさん……」
「調べたのはほとんどわたしだけど」
「ユノさんも……調べてくれたんですか?」
「……うん、ヴィーナの作ったごはんが、食べたいから」
「あっ! リースもリースも! リースも食べたい!」
「うるさい、今わたしが喋ってる」
「あ、あは、あははは……」
あまりにもいつも通り。
変わらない光景に、思わず泣きそうになっちゃうほど。
……でも、まだ。まだ泣けない。
「……シルフィさん」
「………………ヴィーナ」
それから言葉が続かない。言葉が、続けられない。
何を言えばいい? フェンさんもエレナさんも、村が滅んだのは私のせいじゃない、って言ってくれた。
二人が言うことに嘘はないはず、疑う理由なんてないのだから。
なのにシルフィさんを前にすると、途端に自信がなくなってきた。もし本当は私のせいなら……?
「…………まったく、変なところでビビりなんだから」
「……え?」
「あたしも調べた。その様子だとそっちでも調べたみたいね?」
「は、はい……エレナさんが、ですけど」
「そう、じゃあわかってると思うけど――あんたは悪くない」
「シ、ルフィ……さん……っ」
……我慢していたものが溢れ出す。
一番許して欲しかった人に、許してもらえて。こんなに嬉しいことは……ない。
「ごめんね、よく調べもせずに文句言って」
「い、いえ……私の方こそ……っく、ひっく」
泣き声ばっかりで、言葉が続けられない。
そんな私を優しく抱きしめてくれる人がいた。確認せずともわかる……シルフィさんだ。
「戦ってる最中なのにね……」
「ご、ごめ、ごめんなさい、でも……っ、でもっ」
「ま、大丈夫でしょ。あの子たちなら」
シルフィさんの胸に抱かれたまま、後ろをチラリと振り返る。
敢えて前に出てくれた三人は、サハギンソルジャーと果敢に戦っていた。
……そうだ、泣いている場合じゃない。私は泣くためにここに来たんじゃないんだから。
「…………ぐす、大丈夫です。いけます」
「……そ、終わったらまた話しましょ」
「はい、必ず」
目をゴシゴシとこすって、涙を無理やり止める。
とりあえず今は戦わないと……!
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい」
「リースさんは敵を引き付けてください! ユノさんはリースさんが厳しい場所にいる敵への攻撃を! ライラさんは倒した敵のヒレの剥ぎ取りをお願いします!」
剣を力強く握って、三人の元に向かいながら指示を出す。
暫く振りなのに、三人は私の声に素早く動いて応えてくれる。
「…………今ふと思ったんですけど、どうしてシルフィさんがここにいるんですか?」
「サハギンを近くで見たいって言ってた」
「野次馬!? ちょっとシルフィさん!?」
「あ、あはは……ちょっと好奇心が」
一歩間違えば笑い事じゃ済まなかったと思うんだけど……。
「リースさん来ます! 盾を上に構えて! 二人は後ろに下がってください!」
サハギンソルジャーが手に持った槍を投げる構えを見せた。
私は槍を切り払いながら、リースさんの様子を見る。指示通り盾を上に構えて槍を弾いていた。
「いきます!」
「でもヴィナちゃん……剣一本だけだけど!?」
サハギンソルジャーがもう片手に持っていた曲刀の攻撃の嵐を受け止め、受け流し、胴体に向けて剣を振るう。
硬い鱗も気にならないくらい、容易く剣が入って行く。
「はい、大丈夫です!」
「ホントだ……砕けてない……!?」
「……ぶっちゃけ、砕けてた頃のほうがおかしいんだけどね」
それはそうなんですけどね。でもシルフィさん、そんなぼそっと言わないでほしいかも。
だからといって油断は出来ない、気を抜けば砕いてしまいそうな感覚は未だにある。
細心の注意を払いながら攻撃をする必要がある。
「このまま波打ち際まで押し返します!」
見れば他の冒険者の人たちもサハギンソルジャーにようやく慣れてきたのか、劣勢だった状況を覆しつつあった。
これなら、普通のサハギンと変わらずいけるはず……!
「頑張ってください、みんな!」
………………。
そして、夕刻。
交代の冒険者の人たちと変わって、私は傭兵団の皆と撤収する。
私を含めた三人は疲労困憊、だけどシルフィさんだけは……。
「あーっはっはっはっ!!」
ヒレを入れた布袋を持って高笑いしていた。
「これだけで商会の売上何ヶ月分になるのかしらー、これだから出来高はやめらんないわね!!」
「ボスの目がお金になってる……」
「久々に上機嫌なシルフィちゃんを見たけど……理由がお金なんてねー……なんか世知辛いわ」
「でもお金は大事……食べ物食べるのに」
それはそうですけど。
……でも、最後に見たのが怒った顔だったから、今みたいに笑った顔を見れるのは、嬉しいかも。
理由がお金でも全然良い…………うん、全然良い。
「……さて、宿に帰りましょうか。行くわよヴィーナ、積もる話もあるでしょ」
「あ、はい……ですがちょっと待ってください、師匠に……」
「……師匠?」
私を除いた四人の声が重なった瞬間だった。




