69話 サハギンソルジャーってアリですか!?
サハギン退治、二日目。
朝から浜辺に来た私だけれど、討伐は既に大盛り上がりの様子。
海から大挙してくるサハギンを、冒険者の人たちはどんどんと倒していく。
いったいどれくらい倒せば終わるのか、年々増えているとも言われているし、去年は一昨年より少なかった、なんて話もある。
それ以外にも私は気にしないといけないことがある。それは……。
カルディラ傭兵団のみんなのこと。
村が滅んだのは私のせいじゃない……かもしれない。けど、何も言わずに飛び出したのは事実であって、どんな顔をして会えばいいのか。
そんなことを考えている限り、私は皆の前に顔を出すことなんて出来ない。
というわけで、二日目のサハギン退治、私は端っこの方で細々と戦っていた。
サハギンが突き出す三叉の矛をかい潜り、剣を振るう。
特に抵抗もなくサハギンの体を斬っていき、次に突き出された槍の上に飛び乗り、サハギンの群れの中に突っ込んでいく。
剣が壊れることに怯えなくていいのなら、戦うのは正直楽だった。
「えっ……楽?」
自分が思った言葉に驚いた。
楽って……最初はあんなに戦うことに抵抗があったのに。
直線に突き出される攻撃は避けることも簡単だし、特に硬くもないサハギンの体は斬ることも簡単で。
戦うこと自体に抵抗がなくなってるなんて……。
斬りながら進んでいくと、私の足元には白波が見えた……いつの間にかこんなところまで?
よく見てみると、私の周りには誰もおらず、驚いたように私を見るのは、他の冒険者の人たち。
「なんて戦い方……人間業なの、あれ?」
「あんなの……見たの初めて……」
最初、その言葉が私に向けられている物だとは思ってなくて。
誰かすごい人がいるのかな、くらいの感覚だった。
って、こんな戦い方をしてたら目立っちゃうんじゃ……。
他の冒険者の人たちのラインまで戻って、サハギンを待つことに。
あ、ヒレも剥ぎ取っておかなきゃ。
「嬢ちゃん……凄えな!」
「えっ!? あ……ありがとうございます?」
唐突に話しかけられた。
「踊るみたいに剣を操って……流派の名前はあるのかい?」
おど、踊る……!? 私そんな風に剣振ってたの……!?
「い、いえ、特に流派は……」
「そうかぁ、我流だって言うのにその剣……努力したんだろうな」
「ええ……まあ、はい。師匠が教えてくれたので……」
「師匠が良かったんだろうな!」
「……はい、私にとっては最高の師匠です!」
ちょっと守銭奴で、かなり守銭奴だけど。
私にとっては本当に奇跡みたいな出会い。
今私が持っているこの剣だって、師匠から渡された大事な剣。
そしてフェンさんが私のために調整してくれたからこそ、私の手にここまで馴染むわけであって。
何のアテもなくこの国に来たけれど、私は色んな人に支えられて今ここにいる。
「ま、嬢ちゃんがここにいるなら俺も安全に狩れるってもんさ、ってあれは……?」
話しかけてきた冒険者の人が、海の方を見て固まる。
そこには、追加のサハギンが続々と現れていた……んだけれど。
さっきまでのサハギンとは違う。見た目、大きさ、持ってる武器も。
「あれって……?」
隣の冒険者の人に目を向けてみると、わなわなと震えながら一歩、二歩、と下がっていく。
「さ……サハギンソルジャーだ。嘘だろ、いつもはサハギンだけだったのに……!?」
右手には普通のサハギンと同じ槍。左手には海賊が持つような曲刀が。
白波のギリギリで止まったサハギンソルジャー。……って、止まった?
嫌な予感がする……と思ったのと同時に、サハギンソルジャーは半身を捻って……。
「みんな、逃げてください!!」
私が声を出すのと、サハギンソルジャーが攻撃をするのは同時だった。
体を捻って槍を投げてくる。海から無数に現れたサハギンソルジャーの投槍は、逃げ場のない雨のよう。
私に向かって落ちてくる槍を剣で切り払いながら立ち回っていく。曲刀を右手に持ち替えたサハギンソルジャーは大挙して浜辺に向かってきていた。
後ろを見ると、槍を防げなかった冒険者たち。
……亡くなってる人もいる。
冒険者や傭兵として働くからには、命を失う危険性ももちろんある。
けど、目の前で見るのは……辛い。
でも今は言ってる場合じゃない。サハギンソルジャーをなんとかしないと、次に砂浜に転がるのは私になってしまうから。
サハギンの槍の攻撃は、いわば点の攻撃。だから避けるのは簡単だった。
でもサハギンソルジャーは違う、縦、横、斜め。不規則に線を描いて攻撃が襲いかかってくる。
後ろに下がったり、横に避けたり、しゃがんだり。
「…………やあっ!!」
……うん、大丈夫。さっきよりも楽勝ってわけじゃないけど、これならまだいける……!
心に余裕が出来てくると、考える余裕が出来てくる。
怪我をした冒険者や、それ以上の……。
カルディラ傭兵団のみんなは、大丈夫なのかな?
その考えが頭をよぎった瞬間、私の心臓はバクバクと早鐘をうち始めた。
もしも、もしも……誰かが犠牲になっていたとしたら……。
見せる顔が無い、なんて言っていられない。今すぐにでも無事を確かめたいけれど……。
「……くっ! 次から次に……!」
海からどんどんとサハギンソルジャーがやってくる。
それに私の周囲には戦える人はいない。私がここを離れれば、ここのサハギンソルジャーは町へと入り込むはず。
そうなった時の被害を考えると……でも、こうしている間にもリースさんやライラさん、ユノさんは……!?
「まったく、相変わらずどうでもいいことで悩んでるね」
「……え?」
私の肩に軽い重みが乗っかるのがわかった。その重みはすぐに離れ、そして――
前方のサハギンソルジャーを、一刀両断。
「……師匠!?」
「見ず知らずの町人たちより、仲間の方を大事にするんだよ。こっちは私に任せな」
「…………師匠……ありがとうございます!」
「いいよ、報酬はきちんといただくからね」
「やっぱりがめつい……!」
でも今はその心遣いがありがたい。
私は冒険者たちの間を縫って、カルディラ傭兵団の皆を探す。
サハギンソルジャーに倒されていく冒険者たちの悲鳴を耳にしながら、私は皆を探す。
「何処……みんな……何処!?」
嫌な予感が胸から離れない。そんなわけない、って否定しながらも、最悪の想像をしてしまう。
もし、想像が現実になってしまったら……私はどうしたら……!
「っ……! いたっ!!」
リースさんが大盾を構えながら、サハギンソルジャー五体からの攻撃を防いでいた。
ライラさんが攻撃をしたくても、それ以外のサハギンソルジャーがそうはさせない。
頼みの火力であるユノさんですらサハギンソルジャーに囲まれていて、それどころじゃないみたいだ。
そして――
「シルフィさん……!? どうして!?」
戦えないシルフィさんも、何故かそこにいた。
「今すぐ行くから……! 待っててっ!!」
こうして私は、かつての仲間たちを救うためにサハギンソルジャーの群れに突撃を開始した――




