68話 勘違いだったってアリですか!?
サハギン討伐初日。全体の進捗状況は順調なんだと思う。
戦線は砂浜から動いていなくて、ウルシーラの町に流れ込んだサハギンもいない。
でも私は……。
「……たったそんだけかい?」
師匠の家で正座させられていた。討伐数を伝えるやいなや、この姿勢を取らされたわけだけど。
午後以降はまともに活躍できず、隅っこで細々とやっていたので、私自身の進捗は芳しくない。
原因は…………いや、原因自体も私なんだけど、そうじゃなくて……。
「はい、すいません……」
「はあ、まったく……ま、剣を砕かなかっただけ進歩はしたのかもしれないけどね」
呆れたっぷりの溜息が耳元を抜けていく。
申し訳なさと、不甲斐なさで胸がいっぱいだけど……私はそれよりも、フェンさんに知らせたいことがあった。
「フェンさん……」
「なんだい?」
「あの、なんていうか……」
なんて言おう、なんて考えたところで、言えることなんて一つしかなくて。
「カルディラ傭兵団のみんなが、いました」
どういう反応するだろう、驚くかな、喜ぶのかな。
…………なんて考えていた私だけど。
「やっと来たか。随分かかったね?」
「そうですね、もう少し早く来ると思ってましたけど」
「……あれ? 知ってたんですか?」
反応を見る限り、来ることは知ってた、っていう風に見えるけど……。
私の疑問をよそに、フェンさんはとても、何もないように頷いて見せる。
「ああ、行き先は伝えてあったからね」
「……えっ!?」
「そりゃーそうだよ、あんな一方的な退職願で終わらせるには不義理が過ぎるさ。だから行き先を伝えた紙をエレナくんに代筆を頼んだのさ」
「はい、私とフェン様、そしてヴィーナ様の行き先も記してあります」
「って私もですか!?」
なんで私も……って言いたかったけれど、私も一方的な退職願を出しただけだった。
私の代わりにフェンさんたちが義理を果たしてくれた……ってことになるのかな。
「……で、シルフィくんたちは何をしていたんだい?」
「サハギンを、狩ってました」
「…………で?」
「それだけ、ですけど……?」
「……それだけ?」
正確にはシルフィさんの姿は確認していないけれど、三人は確かにサハギンと戦っていた。
盾で耐えて、クロスボウで射抜いて、剥ぎ取って。三人の見事なコンビネーション。
「…………あっれえー?」
「シルフィ様も、あれで頑固ですので」
「来たって言うことは、調べたんだと思ってたんだけどなー?」
……いったい、何の話なんだろう?
首を傾げていると、エレナさんが私に気付いてフェンさんに耳打ちする。
「ああー、そうだね。黙っている理由もないし」
「わかりました…………ヴィーナ様」
「はい……?」
改まって呼ばれたことで、居住まいを正す。
まだ正座してるんだけど……足が……。もう崩してもいいですか?
師匠は…………座ったまま寝てた!
バレないようにこっそりと足を崩す。
「~~~~っ!?」
「あの……大丈夫ですか?」
「は、はい……大丈夫です……くぅぅ!」
痺れ……足が、痺れ……っ!?
エレナさんは落ち着くまで待ってくれて、痺れが取り始めたので改めて聞く体勢に入る。
もちろん足はバレない程度に崩して。
「私が調べた結果……ヴィーナ様が封印を解いた、という事象は――まったくの誤解ということがわかりました」
「え……? でも、私が像をお尻で潰してから、村が……」
「偶然です」
「でも……」
「あの日、同時期に隣国の村々も襲われていることがわかりました。三ヶ国を守るほどの巨大な結界があったとして、ヴィーナ様のお尻程度で潰れるはずがないと思います」
「確かに、さしものヴィーナくんのお尻でも無理だろうね」
「……あの、お尻お尻言うのやめてもらえませんか?」
自分で言いだしたことだけど!
「ヴィーナ様の身に起こったこと、そして村で起こったこと。これは同時に起こったただの偶然です。そして必要以上に不必要なことを悩んでしまった結果、ここまでこじれてしまったのかと」
「…………」
偶然? 私のせいじゃない?
にわかには信じられない……けれど、子どもの私が壊せる結界なんてたかが知れてる。村全体を守っているのなら、もっと大きな、大事な場所に作られてないといけない……はず。
少なくとも、木の下に置いてあるだけ、なんて無造作な場所には置かないはず……たぶん。
「…………」
……あれ?
そう考えると、私が封印を壊したって思うほうが、無理があるような……。
「私は……悪くないんですか?」
「はい、村に起こったことは大変痛ましい出来事です。ただこれは一人の女の子の所為とかではなく、魔物の一斉侵攻の被害にあった……と考える方が妥当なんです」
思い込み。
私が何年も抱えてきた罪悪感は、ただの思い込みなんだと……知らされた。
すぐに『そうだったんだ』とはなれない。長年抱えてきた罪がただの妄想だったなんて、信じたくない。
だけど村が滅んだのは事実。唯一の生き残りが私と、シルフィさんだ。
「シルフィさんに悲しい気持ちを蒸し返した理由が…………思い込みだったなんて……」
「……心中お察しします」
すっかり丸くなった私の背中を、エレナさんはゆっくりと撫でてくれる。
素直には喜べない。だって、村が滅んだのは確かなんだから。
その事実がある限り『私のせいじゃないんだ、やったー』とはなれない。
「……もしかして、シルフィさんもそのことを!?」
「いえ、調べたのはこちらに来てからですから」
「そう、ですか……」
「ですが私が調べてもわかったのです。商会の力を使えば簡単にわかると思います」
……確かに。
でもそうなると、不思議なことがある。
「……どうして、シルフィさんは調べてなかったんでしょうか?」
私の家は調べたのに、村の出来事は調べていなかった?
何でもキチンとやりがたるシルフィさんにしては……少し不可解だと思う。
「多分調べてるよ」
「フェンさん……わかるんですか?」
「ハッキリとはわからないけどね、でもきっと調べてあるさ」
「じゃあなんで……私の言葉を信じたんでしょう?」
私の言葉よりも正確で確かな情報があるのに。
どうして私の古い記憶の罪を、鵜呑みにしたんだろう。
「ヴィーナくんが言ったからだろうさ」
「え?」
「誰よりも信頼していたヴィーナくんが言った。だから信じた」
「ですがそれは勘違いだった……ということですね」
「ああ、ヴィーナくんを信頼していなかったら起こらなかったこの逃走劇だけど……そうなるとそもそも傭兵団には招かれていないかもしれないし、難しいね」
わ、私……謝らないと……!
でも、どうやって……それに……。
「長年自分が悪いと思ってきたんだ。あっさりと覆すのは難しいと思うよ」
「……わかるんですか?」
「わかるさ。私が目を失ったときも思ったものさ『私の腕が悪いせいでこうなった……』ってね。でも今は違う、私が悪いわけがないのさ、私の親が悪い」
「それは……確かに」
「だからキミもいつか思えるよ。悪いのは私じゃない、魔物だ。ってね」
「フェンさん……」
そう思えたら……いいな。
二人が嘘をつくわけない。本当に私のせいじゃないんだとしたら、私はシルフィさんに……。
「……話は終わったかい?」
「師匠……起きたんですか?」
「ああ、ずっとぺちゃくちゃと喋ってたからね。それよりヴィーナ」
「はい?」
「正座を崩したね」
「……あ」
「後一時間追加」
「うわぁん!!」




