67話 サハギン討伐ってアリですか!?
サハギン。魚型の二足歩行の魔物で、水中を中心に生息している。
漁をしている漁船がよく被害にあっていて、時折陸地にも現れるみたい。
そしてこの時期になると、大量に産まれたサハギンたちが餌を求め大挙してやってくる。
今年で何度目なんだろう、多く冒険者を雇って、一週間ほど海辺を封鎖。海からやって来なくなるまでの持久戦が始まる……。
「……って、多くない……!?」
数ある中の冒険者の一人として、私は立っていた。
師匠からもらった剣を手に海辺を見つめる。そこには海岸を埋め尽くすほどのサハギン。
「あれ? サハギン退治は初めて?」
「え? あ、はい、そうなんです」
呆然としていると、隣に立っていた女の人が話しかけてきた。
軽装の革装備。細い剣を腰に差している姿。そして何より今この場にいるっていうことは、冒険者なんだろう。
「この数が朝も夜も関係なくず~っと来るわよ。それも数日間」
「そんなに……!? それ、いつ寝るんですか……」
「そりゃ疲れたらよ。この人数だし、どの時間も誰かしら起きてるから、街に流れていく心配は無いわよ。それに討伐報酬はぶっちゃけ歩合制だからね、人が減る夜を狙ってる冒険者だっているくらいだし」
ちなみにサハギンの討伐証明は頭のヒレ。とはいえ、アレだけの数が来るのに……ヒレを取ってる暇なんてあるのかな……?
「あなたも一人? もしよければ、お互いがヒレを取ってる間背中を守るっていうのはどうかしら?」
「あ……もちろん! よろしくお願いしますっ!」
渡りに船の提案。断る理由なんて無い。
お互い笑顔で握手をしようと手を伸ばす。
「じゃあ臨時パーティーみたいなものね。よろしく、私は――」
その時、誰かが言った。
「サハギンが上がってきた! 行くぞ皆!」
色んな人の雄叫びが砂浜を埋め尽くす。
前を見ていなかった私とお姉さんは後ろから来た冒険者に押され……。
「お……お姉さん!? お姉さーん!?」
……はぐれてしまった。
探そうかとも考えたけど……やめておいた。私には私でやることがあるし、戦っていたらまた会えるかも。
渡された剣は一本、砕けてしまったらもう終わり。
師匠から出された課題は、剣を一度も砕かずにサハギン討伐を乗り切ること。
海から上がってきたサハギンの手には、三叉の矛。どう見ても私の剣よりもリーチがある。
完全に出遅れた私は、先に突撃した冒険者たちの戦いを見る。
弓を持った冒険者は群れの中に矢を撃ち続けている。けど前線で戦う人たちは……サハギンの攻撃に倒れている人が……チラホラと。
「…………」
怖い。思わず生唾をごくりと飲み込んだ。
倒れた冒険者たちは、サハギンの手によって海に引きずり込まれていく……もしかして、サハギンが食料を求めて海に来るのって……!?
でも、行かないと。
足を前に運ぼうとするけれど、さっきの光景がチラついて足が前に出ない。
ここまで来て……!? 何度も覚悟は決めたはずなのに……!
辺りを見回してみるけれど、さっきのお姉さんの姿はない。
あくびをしながら戦いの行く末を見守る歴戦の戦士って見た目の感じの人から、その場で横になって寝始める人。それに観光客の野次馬……危ないってわからないのかな……?
お姉さん、もう前線に行ったのかな? 姿が見えないと、さっきの人みたいに連れて行かれたのかと不安になってしまう。
だけど、人の心配をしてる場合じゃない。このままここで立ってるだけなら、私は居てもいなくても一緒。
何のために修行したの? いざという時にビビるためなの?
「……ううん、そうじゃない」
いつまでも剣聖の卵じゃいられない。いつかは卵から出るんだ。
それがいつなのか、そんなの今しかないじゃない。
「行こう……行こう、行こう行こう……行く!」
念じ続けて、ようやく私の足は前に出た。
一度動けば後は交互に動かすだけ。
速度はどんどんと速くなり、あっという間に前線へ。
……そこで見たものは、生死を懸けた戦いの裏側にある、汚い光景。
地面に倒れるのは、大量のサハギン。
海を埋め尽くすほどの数だし、これくらい倒れているのは……まあ普通なんだけど。
普通じゃないのは、冒険者たちの方。
自分が倒したのか、誰が倒したのかわからないサハギンの討伐証明であるヒレを、取り合う姿。
押しのけ、殴り、蹴り飛ばし。
我先にとヒレを奪う。切り取ったヒレを奪う光景まで。
「…………」
……そんなこと、してる場合なの?
声には出さずにおいた。皆も命を懸けてここにいるんだし。
醜い光景は目を逸らし、私は人の隙間を縫って前線へ飛び込む。
冒険者たちも犠牲は出ているようで、最初よりは……人の数が減ってる気がした。
「集中……集中……!」
剣は滑らせるように……でも、中心を捉えて……。
剣は私の一部……私の一部は剣……。
「――ええええええいっ!!」
剣が光るのを感じながら、私はサハギンの槍をかいくぐって横に大きく振った。
光は私の剣の長さ以上に伸びて、奥の奥までいるサハギンたちの胴体を……二つにした。
……剣は!? 慌てて手元を確認してみる。
砕けて……ないっ! やった、成功!!
私が喜んでいると、後ろから大きな歓声が上がった。
「う……うおおおおっ!! すげえ、すげえ攻撃だっ!!」
「俺たちも突っ込むぞ、このままじゃあの嬢ちゃんに全部奪われるぞ!!」
「よし、あたしたちも続くわよっ!!」
冒険者のやる気は著しく上昇。雄叫びは最初よりも大きく、砂浜まで上がってきていたサハギンをどんどん押し返していく。
波と白砂の境目、ちょっとしたことで簡単に動くその境界に、冒険者たちとサハギンたちが対峙していた。
そんな中、私はちまちまと倒したサハギンのヒレを剥ぎ取る。多分いくつかは他の人に取られてると思うけど……正直、自分が倒したのがどれかもわからないし……。
「すげえ、なんだあれ……!?」
下を向いて黙々と作業していると、誰かが驚きの声を上げる。
「何だあの武器……正確にサハギンの頭を撃ち抜いてるぞ……!?」
へえ、そんな武器があるんだ……。
今の私はそれどころじゃない。
「あの大盾持った嬢ちゃんだってすげえぞ、いったい何体のサハギンを引き付けてんだ……!?」
…………ん?
「あの斧を持った姉ちゃんは……なんていうか、ヒレを剥ぎ取るのがうめえな」
…………んん?
誰かたちを彷彿とさせる人物像が浮かんでくる。
私の作業の手は止まってしまい、声の方向を見る。
「………………っ!?」
そこには。
私の想像した通りの人たちがいた。
大盾を構える、結び目がちぐはぐの女の子。
フードとマスクを被り、正確無比な射撃でサハギンを倒す女の子。
ダルそうに倒れたサハギンのヒレを剥ぎ取っていく女の人。
「な……なんで……!?」
その三人は私がよく知ってる人物。
カルディラ傭兵団の、三人だった――




